コーシーの判定条件 [x→x0−0のとき] の証明
以下のP,Qは同値。
P: x→x0−0のときf(x)が収束する
Q: 任意の正数εに対して、
「−δ<x−x0<0かつ−δ<x'−x0<0ならば、| f(x)−f(x') |<ε」
つまり「 x, x'∈( x0−δ, x0 )ならば、| f(x)−f(x') |<ε」
を成り立たせる、ある正数δが存在するということ、
すなわち、 ∀ε>0 ∃δ>0 ∀ x, x' ( x, x'∈( x0−δ, x0 )⇒| f(x)−f(x') |<ε)
[杉浦『解析入門』pp. 61→53は、片側極限も含む一般的な議論を展開]
※広義積分の収束についてのコーシーの判定条件で使われているが、
これを明示したテキストが見当たらないので、
1.x→ x0のときの判定条件をベースに、自力でカスタマイズしつつ、
2. 杉浦『解析入門』pp.61→53の、より一般的な議論から特殊具体的を導く
ことによって、以下を作成した。よって要確認。
[P⇒Qの証明] Pが成立するという仮定の下では、いつでもQが成立することを示す。
(準備1:仮定を言い換えると…)
Pにおいて「x→x0−0のときのときf(x)が収束」とされたが、その際の収束先(左極限)をAとおく。
すなわち、
P: f(x) →A(x→x0−0)
これは、左極限の定義に従って、以下のように書き下せる。
「任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、
「 −δ<x−x0<0 ならば、 | f(x)−A|<ε 」
つまり「 x∈( x0−δ, x0 )ならば、 f(x) ∈( A−ε,A+ε) 」
を成り立たせる、ある正の実数δが存在する。」
すなわち、(∀ε>0)(∃δ>0) (∀ x) (0<x−x0<δ⇒| f(x)−A|<ε)
ここで、εは正の実数なら任意であるから、ε/2と置いてもよい。
すると、
「任意の正の実数ε/2に対して、
「 −δ<x−x0<0ならば、 | f(x)−A|<ε/2 」
つまり「 x∈( x0−δ, x0 )ならば、f(x)∈( A−ε/2,A+ε/2) 」
を成り立たせる、ある正の実数δが存在する。」
すなわち、(∀ε/2>0)(∃δ>0) (∀ x) (−δ<x−x0<0⇒| f(x)−A|<ε/2) …(1)
となる。
(準備2)
|f(x)−f(x') |=|f(x)−A+A−f(x') |≦|f(x)−A|+|A−f(x') | ∵絶対値の性質
…(2)
Pが成立するという仮定のもとでは、(1)より、
「任意の正の実数ε/2に対して、
−δ< x'−x0 <0 ならば、 | f(x')−A|<ε/2
つまり x'∈( x0−δ, x0 )ならば、f(x') ∈( A−ε/2,A+ε/2)
を成り立たせる、ある正の実数δが存在する」
すなわち、(∀ε/2>0)(∃δ>0) (∀ x') (−δ< x'−x0 <0 ⇒| f(x)−A|<ε/2)
も成り立つ。
すると、これと、もとの(1)をあわせて、Pが成立するという仮定のもとでは、以下が成立する。
「任意の正の実数ε/2に対して、
(−δ<x−x0<0かつδ< x'−x0 <0)ならば、(| f(x)−A|, <ε/2かつ| f(x')−A|<ε/2) …※
を成り立たせる、ある正の実数δが存在する」
ここで、この※の部分を以下のように、言い換えられる。
「任意の正の実数ε/2に対して、
−δ<x−x0<0かつ−δ< x'−x0 <0ならば、
| f(x)−A|+ | f(x')−A|=| f(x)−A|+ | A− f (x') |<ε …※
を成り立たせる、ある正の実数δが存在する」
すなわち、
(∀ε/2>0)(∃δ>0) (∀ x, x') (−δ<x−x0<0かつ−δ< x'−x0 <0⇒| f(x)−A|+ | f(x')−A|<ε)
さらに、この※の部分を(2)に接続すると、以下のようになる。
「任意の正の実数ε/2に対して、
−δ<x−x0<0かつ−δ< x'−x0 <0ならば、
|f(x)−f(x') |≦| f(x)−A|+ | A− f (x') |<ε …※
を成り立たせる、ある正の実数δが存在する」
これを簡潔にいうと、
「任意の正の実数ε(ε/2が任意なのだから、εも任意)に対して、
−δ<x−x0<0かつ−δ< x'−x0 <0ならば、|f(x)−f(x') |<ε
を成り立たせる、ある正の実数δが存在する」
すなわち、
(∀ε>0)(∃δ>0) (∀ x, x') ((−δ<x−x0<0かつ−δ< x'−x0 <0)⇒|f(x)−f(x') |<ε)
よって、P: f(x) →A(x→x0−0)が成立するという仮定の下ではいつでも、結論Qが成立することが示された。
[Q ⇒ Pの証明]
Q「(∀ε>0)(∃δ>0)(x, x'∈( x0−δ, x0 )⇒|f(x)−f(x') |<ε)」が成立するという仮定の下では、
いつでもP「x→x0−0のときf(x)が収束」が成立することを示す。
(方針)
「f(x) →A(x→x0−0)」と「1.全ての項がx0より小、かつ、2.x0 に収束するの2点を満たす限りで任意の数列 { xn }をとると、そのfによる像の数列{ f ( xn ) }→A(n→∞)」が同値であるとの定理より、
P「f(x) →A(x→x0−0)」は、
P'「1.全ての自然数n≧1についてxn<x0かつ、2.x0 に収束するの2点を満たす限りで任意の数列 { xn }に対して、{ f ( xn ) }→A(n→∞)」と言い換え可能。
したがって、Qが成立するという仮定のもとで、いつでもP'が成立することを示せば、
Qが成立するという仮定のもとで、いつでもPが成立することを示したことになる。
(仮定の確認)
Qが成立するという仮定のもとでは、
任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、
「 −δ<x−x0<0かつ−δ<x'−x0<0ならば、|f(x)−f(x') |<ε 」
つまり「 x, x'∈( x0−δ, x0 )ならば、|f(x)−f(x') |<ε 」…※
を成り立たせる、ある正数δが存在する
すなわち、(∀ε>0)(∃δ>0)(x, x'∈( x0−δ, x0 )⇒|f(x)−f(x') |<ε) …(1)
(準備)
{ xn }を、
「全ての自然数n≧1についてxn<x0」かつ「x0 に収束する」の2点を満たす限りで任意の数列とする。…(2)
数列の収束の厳密な定義にしたがって、(2)を書き下すと、
任意の(どんな小さな)正の実数ε’に対して(でも)、
「n≧Nならば、 0<| xn −x0|= x0−xn<ε’」(∵0<| xn −x0|= x0−xnは(2)のxn<x0から)
簡単にして「n≧Nならば、 −ε'<xn− x0<0」
つまり「n≧Nならば、xn∈( x0−ε' , x0) 」
を満たす、ある(十分大きな)自然数Nが存在する。」
すなわち(∀ε’>0)(∃N∈N)(∀n∈N)( n≧N⇒ ( x0−ε' , x0)) …(3)
となる。
* * *
(3)は、「ε'は任意の正の実数に対しても…を満たすNが存在する」というのだから、
ε'を「Qが成立するという仮定のもとで(1)によって存在が保証された、※を成立させるδ」に代えても、「…を満たすNが存在する」ことにかわりない。
よって、
「全ての自然数n≧1についてx0<xn」かつ「x0 に収束する」の2点を満たす限りで任意の数列{ xn }について、
「n≧Nならば、 −δ<xn− x0<0つまりxn∈( x0−δ, x0) 」
を満たす、ある(十分大きな)自然数Nが存在する
すなわち (∃N∈N)(∀n∈N)( n≧N⇒ xn∈( x0−δ, x0) ) …(4)
が成立する。
* * *
ゆえに、数列 { xn }では、(4)で決まったN番目以上の任意の2項xl ,xm( l,m≧N)に対して、
−δ<xl− x0<0 かつ −δ<xm− x0<0 つまり、xl ,xm∈( x0−δ, x0)
すなわち (∃N∈N) (∀l,m ∈N)( l,m≧N⇒ xl ,xm∈( x0−δ, x0) ) …(5)
が成立する。
ただし、ここでのδは「Qが成立するという仮定のもとで(1)によって存在が保証された、※を成立させるδ」であることに注意。
(本題)
「全ての自然数n≧1についてxn<x0」かつ「x0 に収束する」の2点を満たす限りで任意の数列{ xn }の、
(4)で決まったN番目以上の任意の2項xl ,xmは、(5)より、
(1)における「−δ<x−x0<0かつ−δ<x'−x0<0ならば」つまり「x, x'∈( x0−δ, x0) ならば」を満たすx, x'である。
ゆえに、Qが成立するという仮定のもとでは、(1)より、
|f( xl )−f( xm ) |<ε ( l,m≧N )
がいつでも成り立つことになる。
これは、コーシー列の定義に他ならない。数列{ f(xn ) }はコーシー列である。
つまり、
Qが成立するという仮定のもとでは、つねに、
「全ての自然数n≧1についてxn<x0」かつ「x0 に収束する」の2点を満たす限りで任意の数列{ xn }
にたいして、そのfによる像の数列{ f(xn ) }はコーシー列となる …(6)
のだ。
* * *
(6)は定理「数列
が収束するための必要十分条件は、
がコーシー列であること。」により、
Qが成立するという仮定のもとでは、つねに、
「全ての自然数n≧1についてxn<x0」かつ「x0 に収束する」の2点を満たす限りで任意の数列{ xn }
にたいして、そのfによる像の数列{ f(xn ) }は収束する。…(7)
と言いかえられる。
* * *
さらに、
(7)は
「f(x) →A(x→x0−0)」と
「1.全ての項がx0より小、かつ、2.x0 に収束するの2点を満たす限りで任意の数列 { xn }をとると、
そのfによる像の数列{ f ( xn ) }→A(n→∞)」
が同値である
との定理により、
Qが成立するという仮定のもとでは、つねに、x→x0−0のときf(x)が収束する
と言いかえられる。
以上、
Q:「任意の正数εに対して
−δ<x−x0<0かつ−δ<x'−x0<0ならば、 |f(x)−f(x') |<ε
を成立させる、正数δが存在する。」
が成り立つという仮定のもとでは、
つねに、
「全ての自然数n≧1についてxn<x0」かつ「x0 に収束する」の2点を満たす限りで任意の数列{ xn }にたいして、数列{ f(xn ) }は収束する
すなわち、x→x0−0のときf(x)が収束することを示した。
(reference)
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Fischer,Emanuel.Intermediate Real Analysis(Undergraduate Texts in Mathematics),Springer-Verlag New York Heidelberg Berlin,1983,pp. 228-231; 238-239.
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