東京高判昭和49年9月18日(昭和48年(行コ)第40号)

1.判決
 控訴棄却。

2.判断
「(争いのない事実)
一 Xが本件各特許権の第七年分の特許料をその納付期限である昭和45年4月6日までに,また,その追納期限である同年10月6日までにいずれも納付しなかつたこと,並びにXが,昭和46年2月3日,本件各特許権の第7年分の特許料のほかに割増特許料を添えて追納手続をするとともに,第8年及び第9年分の特許料の納付手続をしたところ,Yがこれに対し同年10月19日付でX主張の不受理処分をしたこと(ただし,右処分の理由中本件各特許権につき,「第6年分特許料不納により」とあるのは,「第7年分特許料不納により」の明白な誤記と認める。)は,いずれも本件当事者間に争いがない。
(本件不受理処分を取り消すべき事由の有無について)
二 特許法第112条第1項に規定する追納期間については,民事訴訟法第159条の規定を類推適用することはできないものと解するを相当とするから,同法条の類推適用を前提とするXの主張は,理由がないものといわざるをえない。すなわち
  特許法第108条第2項本文及び第112条の規定によると,第4年以後の各年分の特許料は,原則として前年以前に納付することを要し,この期間内に特許料を納付することができなかつた場合には,その期間が経過した後であつても,その期間の経過後6月以内に限り,その特許料とともに特許料と同額の割増特許料を納付することにより(すなわち,正規の特許料の2倍の料金を支払うことにより),特許権の消滅を免れることができ,もし,この追納期間中に特許料及び割増特許料を納付しなかつたときには,特許料の納付期限の経過の時にさかのぼつて特許権は消滅したものとみなされるべきことが定められており,右追納期間を更に懈怠した場合については,特許法に何ら規定するところがない。
  Xは,右追納期間については,その期間の徒過により特許権の消滅という重大かつ決定的な効果を生ずることにかんがみ,民事訴訟法第159条の規定が類推適用されるべきである旨主張する。しかしながら,民事訴訟法第159条は,訴訟行為に関する不変期間を懈怠した場合に関する規定であり,通常,不変期間が主として裁判に対する不服申立期間として,その期間の徒過が裁判の確定というような重大かつ終局的な効果を招来し,しかも,この期間が裁判書送達の日から2週間というように,比較的短かい期間として定められているため,当事者の責に帰しえない不測の事態によりこの期間を遵守しえなかつた場合に酷な結果を生ずるので,衡平の見地から,救済手段として設けられたものと解されるところ,特許法第112条第1項の追納期間については,特許法上これが不変期間である旨を明記した規定はなく,また,追納期間は,パリ条約(1900年12月14日にブラツセルで,1911年6月2日にワシントンで,1925年11月6日にヘーグで,1934年6月2日にロンドンで,及び1958年10月31日にリスボンで改正された工業所有権の保護に関する1883年3月20日のパリ条約をいう。)第5条の2第1項にいう猶予期間として,同法第108条第2項本文に規定する期間又は同法第109条の規定による納付の猶予後の期間を徒過した後,更に6月以内を限り認められるものであり,期間としては相当に長く,かつ,十分な余裕があるものといえるから,特に重ねて手続の追完というような救済手段を認めなくても特許権者にとつて酷に過ぎるものとはいい難い(このように,いわば二段構えに付与された納付のための期間をすべて徒過した特許権者に,更に追納の追完を認め,なおその独占の座を保持させなければならない合理的な根拠を見出すことは,むしろ困難である。)。のみならず,特許法が,特許料の納付期間のうち,第108条第1項及び第2項ただし書に規定する期間については,追納期間を設けることなく,その期間の延長を認める規定(同法第4条第1項,第108条第3項)を設けているに対し,同法第108条第2項本文に規定する納付期間及び同法第109条の規定による納付の猶予後の期間については,そのような延長を認める規定を設けずに,追納期間を設けることとしていることにかんがみると,追納期間は,猶予期間として,納付期間を経過後の救済的措置として認められたものとみるを相当とすること,更に,同法第121条第2項(拒絶査定に対する審判請求手続の追完),第122条第2項(補正の却下の決定に対する審判請求手続の追完)及び第173条第2項(再審の請求手続の追完)の規定において,請求者がその責に帰すことができない理由により,その請求期間内に請求をすることができないときは,その理由がなくなつた日から14日以内で各請求期間の経過後六月以内に手続の追完をすることができる旨を定め,民事訴訟法第159条と同趣旨に由来する規定を設けながら,特許料の追納期間については,前示のとおり,その旨の規定を置かず,しかも,手続の追完を認めた叙上各条項においても,民事訴訟法第159条の規定と異なり,請求期間経過後6月後は,その徒過が請求者の責に帰すべき事由によると否とを問わず,一律に手続の追完ができないこととした法意(これが特許に関する行政行為の効力をできるだけ早期に確定せしめ,法律関係の安定を図らんとする趣旨に出たものであることは明らかであり,この意味においては,訴訟手続に関する不変期間の不遵守の場合と同日に論じうべきものではない。)を彼此勘案すると,特許料の追納期間については,その期間の徒過理由の如何を問わず,納付手続の追完を認めない趣旨と解するのが,特許法の定むる規定の文言及び制度の趣旨に合致するものであり,これと趣旨を異にする訴訟手続の追完に関する民事訴訟法第159条の規定を類推適用する余地は全くありえないものというべきである。Xの前示主張は,これらの本質的ともいうべき差異に思いをいたさず,安易にその類推適用を是認する見解に立脚するものであり,到底採用しうべき限りではない。
(むすび)
三 叙上のとおりであるから,その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件不受理処分の取消を求めるXの本訴請求は,進んでその余の点について判断するまでもなく,失当として棄却すべきものである。したがつて,結論において,これと同趣旨に帰する原判決は,結局,正当であるから,本件控訴はこれを棄却することとし,控訴費用の負担につき行政事件訴訟法第7条並びに民事訴訟法第95条及び第89条の規定を適用して,主文のとおり判決する。」