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TOP mook 動物ジャーナル バックナンバー 動物ジャーナル87・先進国って何?(十一) 

シリーズ「先進国って何?」

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■ 動物ジャーナル87 2014 秋

先進国って何?(十一)

 ──ちょっとお休みを

青島 啓子


 再々申し述べていますように、この稿は「先進国検証グループ」の資料提供によって成り立っています。ところが、この夏の「夏休み」の余波がいまだ回復せず、十全の資料がととのいませんので、今回は一息ついて、日本人の外国に対する最近の発言を集めてみようと思い立ちました。
 賢明な読者諸兄姉は、すでに、そこには動物愛護諸氏の意見は省かれているとお悟りでいらっしゃると思います。その通りです。ごく普通の、気負いのない方々の発言に注目してみました。

 きっかけはぼんやり見ていたテレビ、ヨーロッパのどこか、職人さんが工具を示し、使ってみせながら「これは日本製だ。これに敵うものはない」と言っている。そのビデオを今度は日本のその品の製作者たちの職場で見せ、感想を聞く。というような番組でした。
 物づくりの優秀さはつとに喧伝されていますが、どこでどのように造られているかまで素人につかめるわけではありません。私たちも初めて見る工業・手工業の世界、技を極める人々の頼もしさは言いようなく、これこそ平和貢献でしょう。
 この番組はほぼ毎週なのでしょうか、ジャンルはいろいろで、多種多様の「物」が扱われているようです。また、有形物に限らず、来日外国人にその目的を尋ね、その目的が日本が評価されているあかし、と紹介するドキュメンタリー番組もありました。
 これらからは、欧米崇拝一辺倒でない風潮を感じますし、国粋主義に狂っているのでない穏やかさが認められます。なにか一斉にこういう傾向が展開してきたのか、見当もつきませんが。

 このような時、新聞広告で『住んでみたヨーロッパ 9勝1敗で日本の勝ち』という本のタイトルが目に入り(川口マーン恵美著・講談社+α新書・14年九月刊)、入手しました。
 著者は、前年に『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』を出し、好評で、今度はドイツに限らず、ヨーロッパの他の国々での見聞をまとめたとのこと。ただし、この「ヨーロッパ篇」にもドイツの話題は豊富です。

 著者川口マーン氏はピアノを専攻してドイツに移り、シュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科終了、同地に住んで三十年余、この書はドイツ国内はもちろん諸国を旅して感じたことを述べたものです。そして序文によれば[私がいいたいことは、ただ一つーー「日本人は世界一の楽園に住んでいる」ということである。]と。
 たしかに挙げられた例を読むと、驚くような話題が満載です。
 最初の章は「泥棒天国ヨーロッパ」。すべて著者の体験談ないし知人の経験談が記されています。
 ポーランドへ行くと言うと「車、盗まれるわよ」との注意を受けた。その証拠に、ポーランド旅行には車を貸してくれないレンタカー会社も多い。/チェコがEUに入り、通行自由になったら、国境を接するバイエルン州の村では、電線やドアのノブなどが夜中に消えるようになった。/ローマを訪れた時、路上で数人のロマの子どもに囲まれ、三秒くらいの間に夫のジャケットのファスナー付きポケットが四つとも開けられ、財布だけが無くなっていた…。/スリにもお国柄がある。イタリアのスリは、お金を抜いたあとは財布をポストに入れる。郵便屋は警察に届けるので、持主に戻ってくる。/スペインの泥棒は、お金と宝石しか盗らない。夜押入った泥棒は、寝ている住人が目覚めないよう先ずスプレーをかけてから仕事にかかる(らしい)。
 その他の話題で第13章まであり、「終章 劣化するウィーン・パリ・フランクフルトvs.進化する東京」が加わります。動物関係では「第4章 スペインの闘牛と日本のイルカ漁」「第6章 日本の百倍ひどいヨーロッパの食品偽装」がありました。後者には「牛肉を発注したら馬肉が納入された」事件を発端に、偽装に敏感になった人が続々ヴェジタリアンやヴィーガンになっているとの説明があります。(これは私個人的には歓迎すべき事柄ですので、詳しくは折を見て。)
 
 この本について「主婦の井戸端会議的内容」との評を紹介するブログもあります(クライン孝子の日記)。「ドイツ篇」に対する、長年ドイツに暮す人々の反発で、日本とドイツの仲を裂こうとする勢力には喜ばれるだろうとも書かれていました。
 私は「ヨーロッパ篇」しか読んでいませんので、その限りで申しますが、著者の解釈・見解に賛同できない点が多々あります。ただそこに示される「事実」の知識を得ることは非常に有益でした。
 こういう発信はたくさんなされてほしいし、それを材料としてその国のことを冷静に評価する人が増えてほしいとつくづく思います。個々人が情報を入手するのは容易になっているのですから。
「群盲 象を撫でる」という諺があります。否定的な意味で使われますが、私たちは群盲となって個々が断片をつかんで持ち寄り、全体像を見極めるならば、どんな国のことも過不足なく理解できるはずです。この諺の意味を変換させることができたらなどと夢想してしまいました。