解説5:虹散乱での反射率と偏光

 

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雨滴の反射率:
 前ページ で見たように,屈折率 $n_1$ の媒質から屈折率 $n_2$ の媒質に光波が,入射角 $\theta_1$ で入射し,屈折角 $\theta_2$ で屈折する場合のエネルギー反射率,およびエネルギー透過率は,入射面に平行な偏光成分,垂直な偏光成分それぞれについて,\[ \kern-1em R_\para = \bigg(\bun{n_2 \cos\theta_1 - n_1\cos\theta_2}{n_2 \cos\theta_1 + n_1 \cos\theta_2} \bigg)^2 \quad \cdots\cdots\maru{8} \\ \kern -1em R_\prep = \bigg(\bun{n_1 \cos\theta_1 - n_2\cos\theta_2}{n_1 \cos\theta_1 + n_2 \cos\theta_2} \bigg)^2 \quad \cdots\cdots\maru{9} \\ \kern -1em T_\para = \bun{4 n_1n_2\, \cos\theta_1 \, \cos\theta_2}{(n_2 \cos\theta_1 + n_1 \cos\theta_2)^2 } \quad \cdots\cdots\Maru{10} \\ \kern -1em T_\prep = \bun{4 n_1n_2\, \cos\theta_1 \, \cos\theta_2}{(n_1 \cos\theta_1 + n_2 \cos\theta_2)^2 } \quad \cdots\cdots\Maru{11} \]で与えられました。

 上図において,点Aで雨滴に入射した光線が点B,点C,……で雨滴内反射を繰り返しながら,その一部が雨滴外に射出されていく。以下,これらの射出光線を2次散乱光,3次散乱光,……と呼ぶこととします(上図参照)。空気の屈折率は $1$ ,雨滴の屈折率は $n$ とします。
 点Aにおけるエネルギー反射率は, $\maru{8}$ ~ $\Maru{11}$ 式中で $n_1=1$ , $n_2=n$ , $\theta_1=\alpha$ , $\theta_2=\beta$ とおいて, \[ \kern-1em R_\para = \bigg(\bun{n \cos\alpha - \cos\beta}{n \cos\alpha + \cos\beta} \bigg)^2 \quad \cdots\cdots\maru{8}' \\ \kern -1em R_\prep = \bigg(\bun{ \cos\alpha - n\cos\beta}{ \cos\alpha + n \cos\beta} \bigg)^2 \quad \cdots\cdots\maru{9}' \\ \kern -1em T_\para = \bun{4 n \, \cos\alpha \, \cos\beta}{(n \cos\alpha + \cos\beta)^2 } \quad \cdots\cdots\Maru{10}' \\ \kern -1em T_\prep = \bun{4 n \, \cos\alpha \, \cos\beta}{( \cos\alpha + n \cos\beta)^2 } \quad \cdots\cdots\Maru{11}'\] となる。一方,点Bや点Cでの雨滴内反射の場合は, $\maru{8}$ ~ $\Maru{11}$ 式中で $n_1=n$ , $n_2=1$ , $\theta_1=\beta$ , $\theta_2=\alpha$ とおいて, \[ \kern-1em R_\para{}' = \bigg(\bun{ \cos\beta - n \, \cos\alpha}{ \cos\beta + n \, \cos\alpha} \bigg)^2 \quad \cdots\cdots\maru{8}'' \\ \kern -1em R_\prep{}' = \bigg(\bun{ n \, \cos\beta - \cos\alpha}{n \, \cos\beta + \cos\alpha} \bigg)^2 \quad \cdots\cdots\maru{9}'' \\ \kern -1em T_\para{}' = \bun{4 n \, \cos\beta \, \cos\alpha}{( \cos\beta + n \cos\alpha)^2 } \quad \cdots\cdots\Maru{10}'' \\ \kern -1em T_\prep{}' = \bun{4 n \, \cos\beta \, \cos\alpha}{(n \cos\beta + \cos\alpha)^2 } \quad \cdots\cdots\Maru{11}'' \] となる。
 これより, $R_\para{}' = R_\para$ , $R_\prep{}' = R_\prep$ , $T_\para{}' = T_\para$ , $T_\prep{}' = T_\prep$  となり,光が雨滴外から雨滴内に入射する場合も,逆に雨滴内から雨滴外へ射出される際の反射と屈折の場合も,いずれもエネルギー反射率,エネルギー透過率はそれぞれ等しい値をとることになります。
 3次散乱光(主虹ができるケース)の場合,点Aで透過,点Bで反射,点Cで透過が起きているので,散乱光の入射光に対するエネルギー比 $I$ は,それぞれの成分について, \[ \kern-1em I_\para = T_\para{}^2\cdot R_\para \\ = \bigg \{ \bun{4 n \, \cos\alpha \, \cos\beta}{( n \cos\alpha + \cos\beta)^2 } \bigg\}^2 \cdot \bigg(\bun{ n \cos\alpha - \cos\beta}{ n \cos\alpha + \cos\beta} \bigg)^2 \\ \kern-1em I_\prep = T_\prep{}^2\cdot R_\prep \\ = \bigg \{ \bun{4 n \, \cos\alpha \, \cos\beta}{( \cos\alpha + n \cos\beta)^2 } \bigg\}^2 \cdot \bigg(\bun{ \cos\alpha - n \, \cos\beta}{ \cos\alpha + n \, \cos\beta} \bigg)^2 \] となります。4次散乱光(副虹ができるケース)の場合では雨滴内反射がもう1回加わるので,散乱光のエネルギー比 $I'$ は,それぞれの成分について, \[ \kern-1em I_\para{}' = T_\para{}^2\cdot R_\para{}^2 \\ = \bigg \{ \bun{4 n \, \cos\alpha \, \cos\beta}{( n \cos\alpha + \cos\beta)^2 } \bigg\}^2 \cdot \bigg(\bun{ n \cos\alpha - \cos\beta}{ n \cos\alpha + \cos\beta} \bigg)^4 \\ \kern-1em I_\prep{}' = T_\prep{}^2\cdot R_\prep{}^2 \\ = \bigg \{ \bun{4 n \, \cos\alpha \, \cos\beta}{( \cos\alpha + n \cos\beta)^2 } \bigg\}^2 \cdot \bigg(\bun{ \cos\alpha - n \, \cos\beta}{ \cos\alpha + n \, \cos\beta} \bigg)^4 \] となります。
 これらの式に \[\alpha = \arcsin\bigg(\bun{b}{a}\bigg) = \arcsin(y) \\ \beta = \arcsin\bigg(\bun{b}{ n \, a} \bigg) =\arcsin\bigg(\bun{y}{n}\bigg) \\ \kern 2em \bigg(\, y = \bun{b}{a}\, \bigg) \] を代入すれば $I_\para - y $ ,$I_\prep - y $ , $I_\para{}' - y$ , $I_\prep{}' - y$ の関係をグラフにすることができます。

 図2は3次散乱光(図1の点Cでの散乱光,雨滴内反射1回)の場合の,図3は4次散乱光(図1の点Dでの散乱光,雨滴内反射2回)の場合の,それぞれ屈折率 $n=1.331$ (ほぼ赤色)の光に関するエネルギー比のグラフで,青線が垂直偏光成分について,赤色が平行偏光成分について,さらに緑色の破線はそれぞれ場合での散乱角と $y$ との関係を示しています。グラフ右側の縦軸はエネルギー比の値を,左側の縦軸は散乱角の値です。



虹による偏光:
 図2に示したように,3次散乱光では,衝突係数 $y = 0.86$ で雨滴に入射した光線によって主虹(の赤色)ができます(散乱角 $42.3^\circ$ )。このときの光線の垂直偏光成分のエネルギー比は $I_\prep = 0.088$ ほどの値を示していますが,対して平行偏光成分のエネルギー比 $I_\para $ はほとんど $0$ になっています( $y = 0.80$ のとき, $I_\para $ は完全に $0$ となります。⇒  $\alpha + \beta = \pi/2$ を満たす。 ブリュースターの法則 を参照)。
 ということは,主虹(の赤色)には平行偏光成分はほとんど含まれておらず,垂直偏光成分のみでできている…ということが言えます。
 副虹をつくる4次散乱光についても同様であり,図3で分かるように,副虹のできる衝突係数 $y = 0.95$ では平行偏光成分は非常に小さい値になっており,副虹にも平行偏光成分はほとんど含まれていないことになります。
 これらのことは,他の色の主虹,副虹(さらに高次の散乱光を含めて)についても全く同様であり,水滴による虹散乱光一般について言えることなのです。
 以上より,虹散乱光について,虹はほとんど垂直偏光成分のみからなる直線偏光に近い形 なっている ということが言えます。
 このことは,カメラなどで使われている偏光フィルターを通して虹を見たとき,偏光フィルターを90度回転させる毎に虹が見えたり見えなくなったりすることで確認できます。

 ちなみに図2,図3より,垂直偏光成分のエネルギー比は,主虹で $I_\prep \kinji 0.088$ ,副虹で $I_\prep{}' \kinji 0.035 $ ほどなので,副虹の明るさは主虹の明るさの4割ほどしかないことも分かります。



  虹の話   概要
  解説1(解説1:雨滴による虹散乱)
  解説2(虹の色と散乱角)
  解説3(散乱角の詳細計算)
  解説4(反射率)
  解説5(虹散乱での反射率)
   *** 以下,過剰虹 関連 *** 
  解説6(波動光学)
  解説7(過剰虹成因の概要)
  解説8(波面の式)
  解説9(虹の光強度の式)
  解説10(波動光学による虹)