解説6:過 剰 虹 1

― 幾何光学と波動光学 ―

 

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幾何光学の限界:


 虹をよく観察すると,主虹の内側にぼんやりとした光の筋 が何筋か見えることがあります。条件が良ければ,副虹の外側にも同様なものが見えることがあるようです(下の写真参照)。これは過剰虹とか干渉虹と呼ばれるもので,幾何光学,すなわち光の屈折・反射だけでは説明できません。
 <*>下の2枚の写真は,開成中学校・高等学校の森山剛之先生から提供を受けたもので,北アルプスに行かれた折に撮影された写真だそうです(写真中央付近右寄りの最も高い山が槍ヶ岳)。少しコントラスト強調処理をしてあります。主虹の内側(左側)には過剰虹が何筋か映っており,また槍ヶ岳上空に副虹があって,さらにその少し右側がうっすらと色づいて見えるのは副虹の過剰虹かもしれません。


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 幾何光学は屈折や反射した何本かの光線の交点を求めることによって像を求めるものですが,言うなれば光線の折れ曲がりを利用しているにすぎません。
 しかし高校物理でも学習するように,光の干渉や回折といった現象は,”光波の重ね合わせ”によって説明されます。

 下図は,遮蔽(しゃへい)板に垂直に光を当てたときの様子のイメージ図です。


 遮蔽板の下に置かれたスクリーンS上には明暗の縞模様が現れ,また遮蔽板の縁Oの真下の点 $\mathrm{O}'$ より左側の領域にも,わずかですが,光が入り込んでるように見えます。これは,回折と呼ばれる現象によるものです。
 普段,このような状況をあまり見たことがないように思いますが,それは光の波長がきわめて小さく,そのため縞模様も極めて微細になるために気づかないだけです。このような縞模様を観測するには,写真に撮って拡大するか,またはレンズで拡大して観るしかありません。なお普通の照明の下に置かれた物体の影が何重にも見えることがありますが,それは照明器具に大きさがあるために起きることがらであり,本稿のテーマとは別物です。 )
 上記の例を幾何光学で考えるならば,光の直進性より,点 $\mathrm{O}'$ より左側の領域は遮へい板の影として真っ暗になるはずであり,また逆に点 $\mathrm{O}'$ より右側の領域ではスクリーンは一様な明るさになるはずであって,明暗の縞模様が現れる理由は説明できません。しかし波動光学によれば,縞模様ができることも光が遮蔽板の影にも回り込む理由も,理論的に導き出せるのです。
 光波がいろいろ重なったときに見られる諸現象は,波動光学の力を借りることによって解決できることが多いのです。

ホイヘンスの原理:
 光波や音波のみならずすべての波動現象において,波の伝わり方を解析するうえでもっとも基本になる考え方はホイヘンスの原理です。”ある瞬間の波面があるとき,波面上の各点が波源となって2次波(素元波)が出され,各2次波の合成としてその包絡面が次の瞬間の新しい波面となる”というものです。
 この考え方に従えば,上図の例では,スクリーンS上の任意の点Pの光の強度は,平行光線の波面が遮蔽板の位置に達した時,遮蔽板の縁Oより右側の波面(O~W間の波面)のすべての点から2次波が出て,その合成としてP点の光の強度が決まる…ということになります。したがってP点の光の強度を正確に求めようとするなら,O~W間の波面上の各点とP点との距離差により生じる位相差を考慮したうえで,O~W上のすべての2次波をP点において合成,すなわち積分しなければならない…ということになります。
 この場合は波面はO―Wまでは平面ですから波面の式もそれほど面倒ではありませんが,虹の場合”雨滴球”で屈折・反射が起きていることから,波面の式を求めることは一筋縄ではありません。

 次に,”雨滴球”で屈折・反射した光波の波面がどのようなものとなり,なぜ過剰虹が生じるのかについて考えていきましょう。

  解説7(過剰虹成因の概要)


  虹の話   概要
  解説1(解説1:雨滴による虹散乱)
  解説2(虹の色と散乱角)
  解説3(散乱角の詳細計算)
  解説4(反射率)
  解説5(虹散乱での反射率)
   *** 以下,過剰虹 関連 *** 
  解説6(波動光学)
  解説7(過剰虹成因の概要)
  解説8(波面の式)
  解説9(虹の光強度の式)
  解説10(波動光学による虹)