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本日,東京高等裁判所第20民事部(宮崎公男裁判長)は,旧日本軍による中国人無差別虐殺事件である「平頂山事件」訴訟について,平頂山住民虐殺の事実を
明確に認定しながらも国家無答責の法理を理由に控訴人らの請求をいずれも棄却する不当極まりない判決を下した。
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原判決は、1932年9月16日,日本軍が中国東北部の撫順炭鉱近隣にある平頂山集落の住民約3000名を一カ所に駆り集め,機関銃の一斉掃射の後に銃剣
で刺して回って執拗な殺害行為を行い,さらにガソリンをかけて遺体を焼却し,最後には崖に爆薬を仕掛けて虐殺の証拠を隠滅した事実を認めている。本判決
は、原判決の上記認定に加えて、「控訴人らのその後の生活」について、「控訴人らは、本件事件後、祖父母等に引き取られたが、本件事件で肉親を失った精神
的な恐怖や自らの受傷に加えて生活苦の中で幼少時代を送り、教育を受ける機会にも余り恵まれず、十代半ば前後から生活のために働き、同時に平頂山事件の生
存者であることを秘匿し続けなければならなかった。控訴人らは、その後それぞれ平穏な家庭生活を築いたものの、本件事件で受けた精神的な傷跡を引きずりな
がら生活を送らざるをえなかった」と認定している。日本軍の住民虐殺による被害が生存者らの一生にわたり深刻な被害を与え続けていることを明確に認定して
いる。
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しかしながら、本判決は、原判決同様、国家無答責の法理により控訴人の請求を棄却したもので、国家無答責の法理の適用を否定してきた一連の判決の流れに逆行する極めて不当な判決である。
また、本判決は、この加害行為が我が国の軍事力行使の一環としてなされたものであることは否定しがたいとしたうえで、「軍事力の行使はその性質上非人道的
で残虐な側面を不可避的に伴うものである」と認定している。しかし、当時においても非人道的で残虐な軍事力行使は国際法上許されておらず、かかる行為につ
いて国家無答責の法理で免責することは許されるべきではないことは当然である。本判決は、当時の国際法についての基本的な見識すらないことを露呈したもの
であり明白な誤りである。
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本判決が認定したとおり、日本軍が老若男女を問わず約3000名の平頂山住民を無差別に虐殺し、その後被害者らが筆舌に尽くしがたい人生を送りいまだに救
済されていないのは否定しがたい事実であるであるにもかかわらず、日本政府は、1932年に国際連盟でその事実を否認し、今日に至るまで平頂山住民虐殺の
事実すら認めていない。本判決は、平頂山事件の事実を明確に認めることにより、この日本政府の欺瞞性を明らかにした。日本政府は、本判決が認定した日本軍
による平頂山住民の虐殺の事実を公式に認めるべきである。そして、「本件事件で受けた精神的な傷跡を引きずりながら生活を送らざるをえなかった」控訴人ら
に対して、誠意ある謝罪と反省を具体的な行動でしめすべきである。それが、控訴人らが最も望んでいることであるとともに、それによってこそ日中間及び国際
社会における日本の信用を回復することができる。
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我々は,本判決に対して直ちに上告し、控訴人らの正当な権利実現のために最後まで法廷闘争を闘い抜くとともに、本判決が認定した事実をふまえて、日本政府
及び国会に対して、平頂山事件の事実と責任を認めて幸存者と遺族に公式に謝罪すること,謝罪の証として日本政府の費用で謝罪の碑を建立して犠牲者供養のた
めの陵園を設置管理すること,そして事実の究明しその教訓を後世に伝えることを要求する。
2005年5月13日
平頂山事件弁護団
弁護団長 環
直彌
中国人戦争被害賠償請求事件弁護団
弁護団長 尾山 宏