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平頂山事件訴訟−東京高裁判決

第1 主文

  1. 本件各控訴をいずれも棄却する。
  2. 控訴費用は控訴人らの負担とする。

第2 事案の概要

本件は,中華人民共和国国籍を有する控訴人らが,旧日本軍が昭和7年(1932年)9月16日に当時の中華民国遼寧省撫順市近郊こある平頂山村において住 民を無差別に虐殺したいわゆる平頂山事件を起こした際に,家族を殺害され自らも受傷したとして,被控訴人である日本国に対し,主位的に,本件事件の際の旧 日本軍による加害行為によって被った著しい身体的・精神的苦痛に対する慰謝料として,それぞれ2000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済 みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求し,予備的に,被控訴人が本件事件後長年にわたり控訴人ら本件事件の被害者に対する救済措置の 立法をせずに放置した立法不作為により被った精神的苦痛に対する慰謝料として同額の金員の支払を請求した事案である。

控訴人らは,主位的請求の法律上の根拠として

  1. 陸戦ノ法規慣例二関スル条約3条,陸戦ノ法規慣例二関スル規則及び国際慣習法
  2. 中国民法(本件当時の中華民国民法)
  3. 日本法(日本民法)を主張し,
  4. 予備的請求の法律上の根拠として国家賠償法1条1項を主張した。

原審は,控訴人らが平頂山事件においていずれも家族全員を殺害され,自らも銃弾や銃剣によって傷害を負わされた事実は認めたが,控訴人らの法律上の主張をいずれも排斥し,その請求をいずれも棄却したため,控訴人らが不服を申し立てた。

本判決も,原審と同様,控訴人らの請求はいずれも認めることはできないと判断し,控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却したものである。

第3 当裁判所の判断の要旨

  1. 国際法に基づく請求について
    へ一グ陸戦条約3条は,被害を受けた個人に直接相手国に対レて損害賠償をすることを認めた規定ではなく,また,第二次世界大戦当時,戦争律害を受けた個人 が直接相手国に対して損害賠償の請求をすることができるとの国際慣習法が存在したとはいえない。したがって、国際法ド基づく控訴人らの請求は理由がない。
  2. 中国民法(中華民国民法)に基づく請求について
    国家の権力的作用による損害賠償請求に関する法律関係は,私法関係とはいえず,国際私法の対象とはならない。したがって,本件については法例11条1項は適用されず,中華民国民法が適用されるとはいえないから,同法に基づく控訴人らの請求は理由がない。
  3. 日本法(日本民法)に基づく請求について
    行政裁判法,裁判所構成法及び旧民法が公布された明治23年当時,立法者は,権力的作用に基づく損害についての国家の賠償責任は特に法律で定めた場合はこ れを認めないとの統一した意思に基づきこれらの法律を制定したものであり,いわゆる国家無答責の法理が採用された。本件は,軍事カ行使の一環としてされた ものであって,国家の権力的作用によるものというべきであるから,国家無答責の法理により民法の規定の適用は排除される。したがって,日本民法の不法行為 の規定に基づく控訴人らの請求は理由がない。
  4. 立法不作為を理由とする国家賠償法1条1項に基づく請求について
    本件によって控訴人らが多大な精神的苦痛を受け,また,我が国が先の戦争で諸外国及びその国民にもたらした被害に対して十分な賠償を行ったとはいえない が,戦争による賠償問題は本来的には関係国政府の間で取り決められるべき外交問題であり,これについて加害国が戦争被害を受けた相手国の国民に対して直接 救済措置を図ることはもともと予定されていない。したがって,我が国の国会が戦争被害を受けた国の人々に対して何らかの立法措置を執ることはあり得るとし ても,そのような立法措置を執るか否かは,事柄の性質上,外交関係や変動する国際情勢のほか,我が国の財政,経済,杜会政策等の国政全般にわたった総合的 政策判断に基づく立法府の高度な裁量にゆだねられているというべきであって,当然に何らかの立法措置を講ずる法的義務があるとまではいえない。我が国の国 会が旧日本軍の軍事行動による戦争被害を受けた中華人民共和国の国民を救済するための立法をしなかったからといって,立法府の裁量を逸脱した違法があると はいえない。したがって,国家賠償法1条1項に基づく控訴人らの請求も理由がない。

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