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心理学から見る日常生活

『心理学から見る日常生活』
八千代出版  \ 2,100





 

  「はじめに」から抜粋     目 次 へ

 本書は、心理学を初めて学ぼうとする人々を対象に、私たちの日常生活を心理学の観点から捉えることを目指した、心理学の入門書である。大学の心理学入門の教科書としてだけでなく、心理学に興味をもつ方々が、心理学に初めて触れる際の書物にもなるよう配慮した。例えば、通常の心理学の教科書とは異なる順序で章立てを作ったり、わかりやすい表現の章タイトルを付けたり、なるべく日常的に遭遇するようなエピソードを章の冒頭に置いたり、本文中のゴシック体で太字にした専門用語について、事項索引で説明を付したり、読者の理解を促すような図表を本文中にできるだけ多く載せるようにしたりして、工夫を施した。

 記憶研究で明らかにされているように、私たちは既に知っていることに基づいてしか、与えられた情報を覚えることはできない。アラビア語を知らない人が、アラビア文字を覚えるように言われても、すぐには覚えられないという例を挙げれば、理解してもらえるであろう。その意味では、心理学の初学者にとって、新しい学問を学ぶということは、多くの努力を要求されることになる。つまり、その学問で採られている研究の枠組み(パラダイム)や専門用語について知識がないので、入門書を読んでも、書かれていることがすぐには頭に入ってこないのである。下手をすると、読んでいるうちにだんだん眠くなってきてしまう。

 それでは、新しい学問(この場合は、心理学)を学ぶときにはどうすればよいのであろうか。まずは、本書を通読してほしいと思う。途中、わかりにくい専門用語もあるかもしれないが、とにかく最後まで読み進めていってほしい(本書の場合は、前述のように、事項索引で主要な心理学用語の意味を確認することができるようになっている)。そうすると、心理学とはどのような学問なのか、頭の中におぼろげながらそのイメージができてくると思われる。その後、本書を再読するか、あるいは、他の心理学の入門書を読むと、以前わかりにくかった点が理解しやすくなってくる。頭の中に心理学というスキーマ(心理学に関連する知識が集積したもの)が形成されてきているからだと考えられる。

 心理学の基本的な研究上の視点や枠組みとしていくつかの点を挙げることができる。すなわち、@人間の行動(反応)を研究対象としていること、A刺激(光、音などの物理的エネルギーをもったものの総称)が人間に与えられ、それに対して人間が何らかの行動(反応)をしているという、「刺激−反応」の枠組みで人間の行動を捉えること、B心理学の研究の目標は、どのような刺激がどのような人間の行動を引き起こすのか、その関連性(法則性)を明らかにすることなどである。そうした法則性には、例えば、ある刺激に何回も接触する(見たり聞いたりする)と、その刺激に対してだんだん親しみが湧いてきて、好きになってくるという単純接触効果(第1章参照)、ある行動の後に報酬が与えられるとその行動が生じやすくなるというオペラント条件づけ(第7章参照)がある。最近では、脳科学の進展ともに、私たちの行動が脳のどの部位との関連性が大きいかに関する研究も盛んに行われてきている。

 本書は、全部で9章から構成されている。心理学のすべての領域を網羅しているわけではないが、その主要な部分を理解することはできるであろう。すなわち、人を好きになる、恋をする(第1章)、人に働きかけ、交渉する(第2章)、人と集団行動をとる(第3章)、精神的な不調を診断し、治療する(第4章)、個人差に注目する(第5章)、周囲のものごとを認識する(第6章)、新しい行動を身につける(第7章)、ものごとを覚え、思い出す(第8章)、年齢とともに発達する(第9章)である。前述したように、読者が興味をもちやすいと考えられる、対人魅力、説得と交渉、集団に関するテーマから書き始められている。その後、カウンセリングと関連する臨床心理学やパーソナリティー(性格)に関するテーマが続いている。そして、知覚、学習、記憶、発達という心理学の中でも基礎的な領域に関するテーマを取り上げている。本書を通じて、心理学に関する基礎的な知識を習得し、さらに心理学に対する興味が高まるようになれば、執筆者一同、嬉しく思う。

 本書を刊行するに当たっては、八千代出版の大野俊郎社長、編集部の深浦美代子さんに多大なるご支援、ご協力をいただいた。ここに執筆者を代表して厚く御礼申し上げる。

    2011年5月1日
                         編者 今井芳昭