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影響力

『影響力 −その効果と威力−』
光文社新書  No. 457  \ 861




 
  「はじめに」から抜粋     目 次 へ

 本書のキーワードは、影響力、対人的影響、説得、集団、コントロール感、自動的反応になります。
 本書の主要な問題意識は、「なぜある特定の人から影響を受けるのだろうか」というものです。受け手が、与え手から何らかの働きかけを受けて、与え手の望むように行動した場合、与え手は受け手に対して影響力をもっていたと表現できます。では、その影響力にはどのようなものがあるのでしょうか。まずは、その影響力の源から考えていきたいと思います。

 本書の構成は以下のようになっています。
 影響力の基本となる資源は、賞(報酬、私たちが手に入れたいと思うもの、望ましいもの)と罰(私たちが避けたいと思うもの、望ましくないもの)です。私たちの脳は賞を獲得するようプログラミングされているようです。そのため、賞や罰が影響力の源となるのです。この賞と罰に関わる、(a)賞影響力と(b)罰影響力について第1章で見ていきます。

 影響力の源となるのは、賞や罰だけではありません。専門的な知識をもっていること、あるいは、特定の地位に就いていることによっても影響力をもつことができます。第2章では(c)専門影響力と(d)正当影響力に焦点を当て、併せて、心理学で行われる実験の意味、手続きについて紹介します。

 私たちは、理想とする人、あるいは好きな人からも影響を受けます。特に、理想とする人の場合は、その人から直接、働きかけを受けるというよりも、受け手である私たちの方から進んで理想とする人と同じものを身につけたり、同じ考え方をしたりするようになります。この場合の影響力は(e)参照影響力と呼ばれます。また、私たちが好意的に思う人のもつ影響力を(f)魅力影響力と呼ぶことができます。

 専門影響力の場合は専門家のもつ影響力でしたが、専門家でなくても人を説得する際には、いろいろな理由を挙げて説得しようとします。そのとき、いかに効果的な情報を考え出すことができるか、用意できるかという観点から情報影響力というものを指摘することができます。人を説得する際に関わってくることですので、ここでは説得についても見ていくことにしましょう。

 さらに、今まであげた七種類の影響力の場合には、送り手に何らかの資源(賞や罰、専門的な情報、高地位など)があり、それに基づいて影響力が成り立っていました。しかし、そうした資源がない場合の影響力も考えられます。対人関係影響力、共感喚起影響力、役割関係影響力です。第3章では、これらの影響力について総覧し、最後に、十種類の社会的影響力の相互関係について考えます。

 冒頭で漏れ聞き効果の例を紹介しました。第4章では、このように、与え手自身が人に影響を与えていることを認識することなく影響を与えてしまう現象に焦点を当てます。漏れ聞き効果のほかに、社会的促進、社会的手抜き、行動感染、情動感染、社会的証明という現象を取り上げます。

 第5章では、少し視点を広げて集団における影響についてみていきましょう。二〇〇九年五月からは裁判員制度が始まり、集団で判断を下すことが求められています。集団で話し合って何らかの結論を出す際に、どのような集団内の影響が考えられるでしょうか。本書では、多数派、少数派への同調、集団極性化現象、集団的浅慮(集団思考)という現象を取り上げます。

 第5章までは、影響を受ける側(受け手)の観点から対人的影響を見てきましたが、私たちは受け手であると同時に影響の与え手にもなっています。そして、私たちの心理的健康にとっては、コントロール感が大事なことが指摘されています。しかし、今の世の中は、コントロール感をもつことができても私たちの無意識のレベルに働きかけて私たちの自動的な反応に影響を与えようという方法も見出されています。本書の最終章となる第6章では、コントロール感の重要性の指摘と共に無意識レベルに働きかける手法について見ていきたいと思います。

 本書は社会心理学の研究成果に基づいています。読者の皆さんが本書を通じて人から影響を受けること、人に影響を与えるという現象に興味をもたれ、さらに、心理学や社会心理学に関心をもつようになっていただければ幸いです。