その3

8/11(水)


道の駅を過ぎてからが、この道の本当の楽しさが始まった。よく晴れた青空と相まって、妙義山の姿を始めとする景色の良さに気分はどんどんよくなっていった。相変わらず汗が絶え間なく流れ落ちるような暑さだが、これなら苦にならない。


小さな川を渡る橋の上で立ち止まる。車も滅多に通らないので、道はとても静かだ。なので、小川のせせらぎがよく聞こえる。暑さの中に、ここちよく涼しげな音。


まだ時間的には余裕があるので、写真を撮ったりすることにした。こんなに楽しい道を、ただ走り抜けるだけではもったいない。どんどん立ち止まって写真を撮っていこうと思った。


橋の脇に登山道の入口があった。これはわかりやすい看板だ。せっかくなのでちょっとだけ入ってみることにした。こんな風にちょっと寄り道できるのも、自転車の良さだ。


SPDシューズなので登山道も難なく歩ける。これがSPD-SLのロードシューズだと足下が覚束ないで川に落ちていたかもしれない。小川の近くまで近寄り、自然を満喫できた。


しばらく走っていると、景色が開けた場所にやってきた。何かが中を舞っているなぁと思ったら、パラグライダーだった。FZ2の望遠能力を活かして、うまく追いかけながらアップで撮った。ほんとは豆粒みたいに小さく見えていた。


高いところから下界を見下ろす形なので、地形がよくわかる。純粋にこういった景色を眺めるのは楽しいが、自転車でここまで上ってきたからこそ、楽しさも倍増。


上信越道など、地図と見比べれば、おもしろいほどよくわかる。この辺りは自然が多いので、近代的な建造物と森などの自然が融合して、とても絵になる。


先ほどの眺めのいい場所から少し走ったところに、またよさげな場所があったので、自転車と一緒に写真撮影。汗を拭い、再び出発。


たまたまなのか、日程的に穴場だったのか、とにかく車がたまにしか通らない。これほど気持ちいい道を、車を気にすることなく走れるのは素晴らしい。全く通らなくてもちょっと不安になるけど、これくらいだとバランスがいい。赤城山や榛名山などはとにかく車やバイクなどに気を遣っていたが、この点でも妙義山は他の上毛三山と違う。


下仁田町に入った。だからといって景色がガラリと変わるわけではなく、引き続き気持ちのよい素晴らしい景色が続く。この道を走っているときが、この旅の中で一番楽しかったような気がする。他がつまらないというわけではなく、とにかく最高の道だった。


もう辺りは深い山々に囲まれ、こんな山の深いところまで走ってきたのかという気持ちが沸いてくる。遠くまで幾重にも連なった山々が見える。今日も、これからこの山々の山腹を走り、そして山を越えて行くのだ。


カーブを曲がるたびに目に入ってくる素晴らしい景色。時速10kmというゆっくりなスピードなので、その景色が少しずつ見えてくる。ADSLになる前のインターネット環境で画像がちょっとずつ表示されるような感じだ。暑さと荷物と上り坂でスピードは上がらないが、楽しむにはこれくらいのスピードでちょうどいい。


これから走るのであろう道や、裏道っぽい細い道が見えてきた。辺りは蝉の鳴き声や小鳥の囀りしか聞こえないほど静か。ステムに付けているサングラスのレンズを覗き込むと、映し出される雲や木々が後ろに流れていく。


曲がりくねった道ばかりなので、直線区間は珍しい。あのカーブの先にはどんな素晴らしい景色が広がっているのだろうと思わずにはいられない。


どこを見渡しても、どこまでも山山山…。いつの間にかとんでもない所までやってきたんだなぁと思う。


遠くに見える山の形で、気になる部分があった。山が急に崖のように落ちている。あそこはどうなっているんだろうなぁと思った。アップで撮ってみたら、何かリーゼントのヤンキーっぽくも見えて、おもしろい。地面に顔が埋まっているところはグラディウスのモアイっぽくもある。


この日の印象的なワンシーン。多くを語らなくても、この写真を見れば伝わると思う。


そびえ立つ妙義山。この山の脇を縫うように道が続いている。遠くから眺めて楽しめ、そして間近を走って見上げても楽しめる。


後半になると勾配がややきつくなってきた。それまでは緩やかで鼻歌気分だったけど、峠っぽくなってきた。それでも蛇行するようなきつさではない。


桜の里という施設の前を通る。上りもそろそろ終盤だ。


じっくりと、一漕ぎ一漕ぎペダルを回し、前に進んでいく。ゆっくりだけど、確実に前へ、上へ。呼吸をしながら、汗を流しながら。聞こえてくるのは蝉や小鳥の声、そして自分の呼吸音、静かなタイヤの走行音のみ。白い雲が透き通った青空に浮かび、流れていく。見えてくる景色が自分のペースで流れていく。とても、「生きている」と感じる。


最後は、走りきってしまうのが寂しいと感じるくらい、楽しい道だった。こんな道が地元にもあったら素晴らしいと思うが、遠くの地まで来ているからこそ感じる楽しさもあったと思う。


登山道入口の階段が崩落していて、代わりに仮設の階段が設けられていた。おもしろそうなので、ちょっと上ってみることに。


妙義山の岩肌を間近に見る。見上げると、空に吸い込まれそうな感覚になる。


階段を上ると、いかにも登山道という道になる。目の前の木には丁寧に「足下注意」というかわいい看板が付いていた。少しだけ先に歩いてみてから引き返した。登山もおもしろそうなのだが、今はサイクリング中だ。


階段を下りる前に、停めておいたわがロードを見下ろす。ご主人様のお帰りをお待ちのようだ。


ほどなくして、上りが終わった。頂上だ。そこからも素晴らしい景色の続く道は続くが、これまでと違って下り坂。快適に下りながら景色を楽しめる。


下りといえども素晴らしい景色を写真に収めないわけにはいかない。これはと思うような場所ではブレーキをかけて止まり、ガードレールに自転車を立てかけて写真を撮る。一瞬のシーンが一生の画像として残る。


青い空に突き刺さるようにそびえ立つ妙義山の岩肌を後にするのを惜しみながら下って行った。またいつか、機会があれば走りに来たいものだ。


中之岳神社の鳥居を過ぎると、いよいよ妙義山沿いの道も終わる。ここからはつづら折れの下りが県道51号と合流するまで続いた。妙義山沿いに走るこの道は、とても印象に残る素晴らしい道だった。

その4へ

3日目へ   1 2 3 4 5 6  5日目へ