その6

8/10(火)


そこからは、長い直線の下りが続いていた。かなり気持ちのいい道だ。あまり勾配がついていないのでスピードはそんなに出なかったが、爽快な下りを楽しめた。


坂を下りきったところで、県道28号線との交差点にやってきた。当初は榛名湖の周りを一周してから下ろうと思っていたのだが、時間もけっこう遅くなってきたし、山の天気は変わりやすいので、また雨に降られるかもしれないし、実際山頂は雲に覆われていて天気がよめない、ということでこのまま28号を下ってしまおうか迷った。

止まって地図を開いていると、近くに立っていたおじさんが近寄って来て、自転車を眺めたりし始めた。そして話しかけてきた。うわ〜変なおじさんに絡まれたなぁめんどくせ〜とか思って適当に返事をしていたら、このおじさんはバスの運転手だということがわかった。

せっかくここまで来たのだから、榛名湖を一周するといいと勧められた。榛名湖はもうすぐそこだという。確かに、せっかくここまで来たのだから、せめて榛名湖を一目見ておかないともったいない。とりあえず榛名湖へ行ってみることにした。


少し走ると、榛名湖にやって来た。赤城山もそうだが、ここも地図上でしか知らなかった場所だ。ふとしたきっかけでこの辺りの地図を眺めたことがあったが、あれから数年後に実際に走りに来る事になるとは。時刻がもう16時だということもあるが、榛名湖を静かでのんびりした雰囲気だった。


湖畔に木製の遊歩道が延びていた。ここをカップルが何組か歩いていった。おれは写真を撮っただけで歩きはしなかったけど、けっこういい感じの道だった。


榛名富士山頂へはロープウエイが延びていた。きっとあの上からの眺めは最高なんだろうなぁと思った。


せっかくなので、当初の予定どおり榛名湖の周りを一周することにした。雲の切れ目から太陽の光りが差し込み、湖畔で遊ぶ子供達を照らして、絵になる光景だった。平和な一時だ。

湖畔にはレンタサイクルであろう2人乗りの自転車をこいでいるカップルがけっこういて、他には馬がたくさんいた。馬車を引く馬だ。ビジターセンターの辺りは細い道が入り組んでいていまいち造りが把握できなかったが、なんとか湖畔のサイクリングロードの入口へ。

いきなり人気がなくなり、うっそうと木々が生い茂る、薄暗い道になった。そしていきなり10%越えの激坂現る。これには不意をつかれた。湖畔沿いのサイクリングロードなんて平坦な道だろうと安心していたが、こんな激坂があるとは。勾配のきついヘアピンカーブをダンシングで上っていった。

そこが一番高い場所のようで、その後は下り基調でサイクリングロードは続いた。思っていたより景色がなくて、しかも路面がかなり悪くてパンクしないか心配だった。お世辞にもいいサイクリングロードとは言えないが、そこを走っていたレンタサイクルの2人乗り自転車をこぐカップルはとても楽しそうだった。


榛名湖を1周すると、先ほどの県道28号線が交わるところまで戻ってきた。先ほど話しかけてきたおじさんのバスはもうなかった。ここから松之沢峠(1150m)まで、少し上りがある。もともと標高が高いのであまり上りは長くない。

かなり道が荒れていて走りにくかったが、すぐに峠に到着した。ここからは約10kmで700mほど下る。後は下りだけだ。さんざん上ってきた分、下りが楽しみだ。しかし、結果的には下りを楽しむことはできなかった。感じたのは恐怖だった。この県道28号線、高崎榛名吾妻線の松之沢峠の下りは、すさまじい道だった。

まず、路面が荒れ放題で、ショックが大きい。パンクも心配だし、タイヤをとられるとスリップして転倒してしまうので、かなり気を遣う。そして、勾配が恐ろしいほどきつい。上りだと死ぬほどきつそうだが、下りも正に命がけ。常にブレーキをかけまくっていないとすぐにスピードが上がってしまい、制御不能になる。

カーブもきつく、車もたまに通るので気を抜けない。ブレーキをかけて体を後輪加重していてもかなりスピードが出る。ブレーキを放すと、一気に加速してしまう。道幅も狭く、カーブの先は見えない。それでいてこの路面の荒れ様だ。かなりクレイジーな下りだ。

とにかく、恐ろしかった。途中で砂利道にもなったし、後半はストレートな下りが断続的にあったので、直線ではブレーキである程度速度を調整しても60km/hくらいまで速度が上がった。それでいて路面は悪い。段差などを確認できても、まともに回避できる余裕はない。ひび割れで部分的に穴がある所をかすめたときは本当にヒヤッとした。

勾配がやや緩くなってきて、恐怖の下りも終わりに近づいてきたときに、事件は起こった。小さな川を渡る小さな橋が見えてきた。ほんの3mほどの長さの、どこにでもあるような橋。しかし、道路と橋には段差があった。

惰性で下っていたとはいえ、かなりスピードが出ていた。直前で段差を確認できたので、ハンドルを持ち上げて前輪はなんとかクリアしたが、後輪は荷物があるので段差にヒット。でも、これくらいはよくあるレベルで、いつもならそのまま走り抜けることができた。

しかし、直後に後輪がロックし、状況がわからないままパニックになった。後輪がロックしたまま10mほど進んだ。なんとかバランスをとって、転倒は免れた。確認してみると、キャリアのサイドについている、サイドバッグを固定するプレートがひん曲がっていた。そして、後輪のスポークも一本曲がっていた。

段差にぶつかった弾みでプレートが「しなり」、後輪のスポークに干渉、巻き込まれ、後輪がロックしたようだ。一瞬の出来事。この状況に呆然としてしまった。こんな所で走れなくなったら終わりだ。旅もまだ2日残っているのに、こんな状況じゃあ続けられるかも怪しい。気分が急激に落ち込んだ。

なんとかギリギリ走れそうだったので、再び後輪に巻き込まれないように気をつけながら、そこからは慎重に走っていった。振動には気を遣い、しょっちゅう後輪の辺りを確認した。もう、数時間前までの楽しんでいた気分はどこにもなかった。

でも、凹んでいてもしょうがない。このトラブルを、この状況を逆に楽しむことにした。こういうトラブルがあるほど、旅は思い出深くなる。思い通りにいかないから、意外な展開になるから、旅はおもしろい。そうだ、これも試練の一つだ。これからきっといいこともあるさ。

なんとか県道26号線まで下ってきて、そこから市街地を山子田へ向かって走って行った。この道は道幅が狭い割には交通量があって、トラックも頻繁に通り、かなり走りにくい道だった。できれば2度と通りたくないなと思った。この道の途中のセブンで休憩と買い出しをし、山子田からは今日の宿へ向かった。


宿のおおよその位置と道を曲がる目印は印刷しておいたので、それを頼りに宿を探した。ローカルな道が、穏やかな空が、今日のランの終わりを感じさせてくれた。宿に着くと、思ったより大きな宿で、他にも泊まっている客がたくさんいた。この宿は、学校の合宿などによく利用されるようで、どこかの大学の部活らしき集団がけっこういた。


おれは2階の部屋だった。荷物を展開し、落ち着くと、夕食へ。ここの夕食もかなり立派なもので、とてもおいしかった。他の客は団体なので、一人のおれを気遣って、テレビの前の席にしてくれて、リモコンを渡し、「好きにチャンネル変えて見てください」と言ってくれた。テレビでは高校野球が放送されていたが、おれはマップを見ながら今日のルートや明日のルートを確認したり、SUNA Life用に携帯をいじったりしていた。


夕食の後は風呂へ行き、シャワーで汗を流した。その後、洗濯機で洗濯をした。夜はついついテレビを見てしまった。「トリビアの泉」で郵便ポストへ自分で投函するすごいランナーのやつとか、「学校へ行こう」のマナーのやつとかが、けっこうおもしろかった。特にマナーの「お菓子の渡し方」とかではマジで笑った。

この部屋は、ちょっと歩いただけでも下の部屋に響くので、ちょっと気を遣った。下の部屋には女の子が泊まっていた。SUNA Lifeのモブログを更新したりして、ちょっと遅めの就寝。昨日と違って他にも泊まっている客がいる上に学生がうるさそうだったので、耳栓をして寝た。

130kmと長い距離を走り、そして3000mアップのヒルクライムざんまい。赤城山と榛名山を上り、最後はキャリアと後輪を同時に逝かせたあのトラブル。本当に内容の濃い一日だった。自転車の様子も含めて、明日からも大変そうだ。でも、旅はまだまだ続く。
地図:Map データ:Polar Data
出発:6:23 到着:18:15
走行距離 131.1km
走行時間 7h 14m 05s
平均速度 18.3km/h
最高速度 62.2km/h
上昇距離 2955m
温度(最低/平均/最高) 22℃/27℃/37℃
積算距離 5903km(ロード)
カロリー消費量 1881kcal


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