その4

8/10(火)

大沼の周りを回って赤城道路を走っていくと、上りになった。後は下るだけだと思っていたので、これは堪えた。もう足がいっぱいいっぱいだ。ようやく頂上に着くと、今度こそ下りになった。まずは直線の下りが続く。それまでさんざん上ってきたので、解き放たれたかのようにガンガン下りだした。


直線が終わるとヘアピンカーブの連続。スリルがあっておもしろい。ここを下っているとき、下からローディが一人上ってきていた。挨拶を交わす。ここは山頂付近で、かなり高いところ。彼もかなりがんばってきているのだ。


序盤のヘアピンゾーンは、路面が凸凹していた。スピードが出ないようにしているのだろうが、自転車だとこれがけっこう不快だ。荷物も積んでいるので、余計に振動する。でも、峠などによくある細かい凸凹の減速帯よりは百倍いい。あれはほんとに恐いから。


辺りは山々に囲まれていて、自然の景色を眺めながら下っていける。とにかく長い長い下り。直線では車と同じ速度で60km/hですっ飛ばす。標高1400m以上から1000mも下る。その間、次第に気温が高くなって、カラッとした空気が湿っぽくなるのを感じた。

後半は道幅も狭く、普通の道になった。路側帯も荒れていたりしてちょっと恐かったが、とにかく坂なのでガンガンスピードを出す。最後は傾斜が緩くなってきて惰性だけではスピードが足りないので、アウタートップでガンガンペダルをこいだ。


R353を横切り、県道34号の交差点まで下る。ここには大きな鳥居があった。ここを右折し、渋川方面を目指す。ここからも緩やかな下り基調。上りもいくつかあるが、基本的にはあまり力を入れなくても走って行けた。

しばらく走ったところにセブンがあったので、ここで昼飯休憩をすることにした。道路の反対側だったが、この際そんなことを気にしてはいられない。トイレを済まし、おにぎりなどの食料やドリンクを買ってコンビニの外に出る。この日一番暑い時間だろう。気温は37℃で、むわっとした蒸し暑さがすさまじい。

日陰で空きケースを椅子にして食事をとった。下りでだいぶ足の疲れは治まってきたが、この暑さではこれからもジリジリと疲労が溜まっていきそうだ。でも、とにかく行くしかない。また灼熱の日なたに出て、走り出した。


決して走りやすいとは言えない県道34号を渋川方面へ走っていく。しばらく走っていったところで、昔ながらの丸いポストがたくさん置いてあって、かなり驚いた。こういったものを収集している人の家のようだ。それにしても、このポストが本来の役割をまだもっていたら、ここに郵便配達に来たら大変そうだなぁ。


先ほどのポストがたくさんあった家の前を過ぎると、緩やかな上り。上りの途中でのろのろ走っている原付が抜いていった。乗っているのはおじいさんのようだ。その後、トラックが後ろから迫ってきたのでスピードを緩めてやり過ごす。しかし、そのトラックは先ほどののろのろ原チャを抜けないでいた。

下りになるとおれも30km/hオーバーで下って行くが、前に先ほどののろのろ原チャが。あまりにも遅いのでギアを掛けてペダルを回し、一気に抜いた。原付の制限速度は確かに30km/hだが、あそこまでノロノロ走られるとなぁ。


関越道の下をくぐり、ローカルな道を進んでいく。路側帯があまりにも狭いところは、無理せずに歩道を走っていった。けっこうトラックが通るので、ひたすら車道ではきつい。自転車にとっても、トラックにとっても嬉しくない状況になる。


夏の風物詩、ひまわり。ツール・ド・フランスは広大なひまわり畑の中を走るシーンが印象的だが、規模は小さくとも、自分もツールを思い浮かべながらこのひまわり畑の横を通った。自分にとって「熱い夏」は、今なのだ。


だいぶ渋川に近づいてきた。田んぼの広がる開けたところから、榛名山が見えた。しかし、そこにはどんよりした雲が広がっていて、山頂は雲の中。あそこでは、明らかに雨が降っているだろう。これから上ろうとしている山があんな状況なので、一気に気持ちが萎えた。


ただ上るだけでもきついのに、わざわざ雨の降っている中に突入していくのは気が進まない。きついし、危険。ずぶ濡れになりながら上っても、展望はないだろう。本気で上るのを辞めようか考えた。とりあえず、渋川まで走る。


とうとう渋川までやってきた。R353にぶつかり、大正橋で利根川を渡る。さすがにここらは栄えていて、交通量が多い。大正橋は当然のように歩道を走っていった。


大正橋から榛名山を見上げる。相変わらず、どんよりした雲に覆われている。雨雲だ。気持ちが沈んでいく。ここで無理せずに榛名山には上らないで宿を目指してもいいが、この旅の目標の一つ、「上毛三山を3つとも上る」という目標が達成できず、旅を終えてもポッカリと穴が空いた感じになるだろう。そう簡単には来れない場所だし、そのためだけにまたここに来るとは思えない。今しかチャンスはないのだが…。


心の中で行くべきか辞めるべきかグルグル思考が回りながら渋川市街へやってきた。あの雨雲に包まれた榛名山を見て「現実を見ろよ、あれじゃ上ってもしょうがないって」という誘惑がかなり強かったが、考えた末、おれは上ることを選択した。

今までと同じなら、今あの榛名山を覆っている雨雲も「通り雨」。おれが上っているうちにその雨雲がどこかへ移動して、晴れるかもしれない。晴れなくても、雨は止むかもしれない。そんな都合のいい状況になることを期待して、とにかく走っていけるところまでは走ろうと思った。

本当に雨に降られてきつかったら、無理せずそこから引き返せばいい。行く前から諦めてしまって、宿にルート変更した後から晴れてきたら、絶対後悔する。それだけは嫌だ。このおれの走る意志を、自転車の神がいるなら受け止めて欲しい。この意志を無駄にせずに、天気を回復して欲しい。そんな願いを抱きながら、伊香保方面へ向かって行った。自分と運命を信じて。

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