その4

8/9(月)


坂を上っていくと、道の両脇にホテルが見えてきて、ついに県道471号との交差点にやってきた。2年前のロングツーリングではこの奥志賀スーパー林道を通ってきた。ここからは2年前と同じ道を走る事になる。今回の旅で、唯一昔走った事のある区間。

ここまでの上りですでにドリンクが切れてしまったので、ホテルの自販機でアクエリアスを補給。高い上に量が少ないので2本買ってボトル一本分しか満たせなかった。ここでも上から下ってきたサイクリストを一人見かける。


再出発して少し上ったところから一ノ瀬の方向を眺める。2年前の風景がフラッシュバックする。ただ、2年前は気持ちのいい青空だったが、今回は雲が多くて山がよく見えなかった。


さぁ2年ぶりにこの道を走る。その矢先に10%の激坂現る。渋峠まで緩い坂がひたすら続いた印象があったので、こんな激坂あったっけ? と思いながら上っていった。しかしその先のカーブで「あぁ、ここあったあった」と昔を思い出した。


志賀高原にはこのような地名の看板が所々に立てられていて、地名と標高が確認できるのがいい。これらは2年前と全く変わっていない。木戸池など、普段はすっかり忘れていた地名を鮮明に思い出す。木戸池は標高1650m。もう1200m以上も上ってきた。


空は一面灰色の雲に覆われていった。2年前はこれでもか!! というほどよく晴れていて、そのイメージが強かったので、なんだか残念だ。見えるはずの景色も見えなそうだ。


ものすごい勢いで煙が吹き出ている所があったので、自転車を止めて写真を撮る。「ほたる温泉」というらしい。2年前も見た光景だ。


横手山へと続くリフトの先が、霧で全く見えない。本来なら山の頂上まで見上げることができるのだが…。今回は前回のようにはいかないと感じてくる。曇りならまだいいが、雨だけは降らないでほしい。


振り返ると、今まで走ってきた辺りは青空が見える。晴れている区間が終わり、雲のあるエリアに突入しているのだろう。


ここらへんも2年前の記憶が強く残っている。あのときは、前日に大雨とどこまでも続く上り坂、食料が尽きたので死にそうになった。本当に何もない山奥のキャンプ場に何とかたどり着き、寒さに凍えながら寝た。その翌日、それまでの苦労が実ったかのように気持ちよく晴れたものだ。


九十九折りが始まる手前、霧の中に横手山のドライブインが見えた。今からあそこまで上るのだ。ここから横手山ドライブインまで、グニャグニャと曲がりながら高度を上げていく。


FZ2で274mm望遠撮影。最大420mmまで望遠撮影ができるが、そこまでいくとズームしすぎて構図が悪すぎる。標高が高く、太陽が出ていないために気温が低い。半袖短パンでは肌寒い。


2年前の事を思い出しながら、同じ道をじっくりと上っていく。あのときは、晴れていたけど気温は道路にあった温度計で13℃と涼しく、太陽が雲に隠れると寒いほどだった。今は19℃くらいなので、曇りだけどまだ暖かい方だと言える。標高は2000mを超え、下界との気温差は相当大きい。


先ほど見上げていた辺りを見下ろす。少しずつ、高度を上げていく。走った分だけ上る。がんばった分だけ先へ進める。


雲の色が濃くなり、霧が強くなってきた。雷の音が聞こえる。これはやばそうだ。昨日のおばちゃんの話から想像すると、もうすぐ雨が降ってくることになる。


とうとう小雨がぱらぱらと降り出した。これくらいの雨なら、なんとか我慢できると走り続けるが…。


雨粒が大きくなり、本格的に降ってきた。地面がどんどん雨で濡れていく。ここまでくるとこのままではきつい。バッグからレインジャケットを取り出し、レージャーの上から着る。レインシューズカバーは最初から履いていたので、慌てることがなくてよかった。初日にチェーンリングでサクッと穴を開けてしまっているんだけど。


雨は容赦なく降り続け、雨脚はどんどん強くなっていった。腕に当たる雨が痛いほど強い。霧で視界が悪くなり、道の先が見えない。灰色の空が一瞬光り、直後に雷鳴が鳴り響く。世界は一変して地獄のようになった。


雨で気温がさらに下がり、16℃。半袖ジャージの上に薄っぺらいレインジャケットを着ているだけなので、凍えるほど寒い。全身ずぶ濡れで、風が濡れた体をさらに冷やす。路面には水が川のように流れている。霧の中から車のライトが現れる。


下を見下ろしても、霧で何も見えない。2年前は、それまで上ってきた道が眼下に延びていて、すごくいい眺めだった。今回は、すべてが違っていた。


雷鳴の鳴り響く中、土砂降りの雨の中、ずぶ濡れになりながら、寒さに凍えながら、ただただペダルを回して上っていった。ここらは、今日一番気持ちのいい区間になるはずだった。すべてが台無し。当然、心は沈んだ。

しかし、これが旅というもの。すべて思い通りにならない所が、トラブルやハプニングがあるところが旅のおもしろさでもある。気持ちは沈んでいたが、「あぁ、旅しているなぁ」と強く感じた。ただ凹んでいてもしょうがない。この過酷な状況を楽しむようにした。


そしてついに横手山のレストハウスに到着。吸い込まれるように軒下に入った。2年前はここはスルーしたところだ。ここからもう少し上ったところが渋峠。今はここで休憩することが第一だ。


荷物はレインカバーと中にも袋を入れているので濡れる事はないが、自転車全体は「自然の洗車」を受けて全部濡れている。軒下から土砂降りの駐車場を眺めると、「よくこんな中上ってきたなぁ」と思った。


時刻は13時前で、ちょうど昼時。ここで昼飯を食べる事にした。2階に上がり、丼ものを注文し、席に着く。そしてすぐ窓際へ。外の様子は、先ほどまでの強い雨は止んで、小雨になっていた。雨を降らせていた雲が通り過ぎていくところだろうか。


しばらくすると、青空まで見えるところもあった。山の天気は本当に変わりやすい。どのタイミングで走るかで、ずいぶんと違う。今上ってくれば降られなかったが、結局その前で降られただろう。今の場合、どこで降られるかの問題か。おれの場合、「あと少しがんばればレストハウスだから」と思えた距離から降られたので、まだマシだったのかも。


雨の止んだ駐車場は、路面は濡れているものの、先ほどまでの土砂降りだった光景がウソのように和やかな雰囲気。なんだか雨が降っているときに走ってきて損した感じもするが、今は雨が止んだことが素直に嬉しい。草津側へ長い曲がりくねった下り坂を下るのに、雨が降っていようなら事故を起こしかねない。


ようやく昼飯にありつける。かなりエネルギーを消費しているので余裕で食べきれると思ったけど、意外にも最後の方はおなかいっぱいだった。まだ胃袋が旅のサイズになっていないのかな? この丼とカフェオレを注文し、ギリギリ電波があったので、SUNA Lifeのモブログを更新したりした。


再び外を見てみると、またどんよりした雲に覆われていた。もう晴れ間はどこにも見あたらなかった。

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