その3

8/9(月)


補給と休憩を済ませると、セブンを出発。青空が広がり気持ちがいいが、その分気温が上昇。日を遮るものがないため、常に直射日光を浴びながら走ることになる。気温はすでに体温と同じくらいまで上がっている。大量の汗を流しながら進んでいく。


じわじわと上っていく坂道。山がどんどん大きくなってくる。上林あたりで道幅がいきなり狭くなり、バスがおれを追い越せないほどに。さらに路面が荒れまくり、かなり走りづらい。とどめに勾配がきつくなり、うだるような暑さも手伝って、急に苦しくなってきた。


しばらく走っていくと、頭上に道が見えた。ついにループ橋にやってきたのだ。地図上でグルリとループしている道があるのを見て、数年前から興味があった。それを、ついに実際に走るときがきたのだ。


ループ橋の下。ちょうど日陰になっているので、写真を撮りつつ、汗ふき休憩。日陰は本当に重要だ。ボトルの中身はどんどんなくなっていく。


ループ橋を上っていく。勾配もそこそこある。路面には滑り止めのために石のようなものが埋め込まれている。


グルリと一周して、先ほど走ってきた道の真上までやってきた。遠くに、数十分前に走っていた辺りの街が見える。だいぶ高いところまでやってきた。



上はループ橋の上からのパノラマ合成写真。クリックするとさらに大きな画像が見れます。


ループ橋は、短い面積で一気に高度を上げることができる。車もまばらで、走りやすかった。バイクも一台止まって、写真を撮っていた。おれが左車線に戻って上って行くと、おれの写真を撮っていたようだったけど、その写真を見てみたいなぁ。


ループ橋を過ぎると、さらに勾配がきつくなり、10%のきつい上り坂が続いた。荷物無しでもきつい勾配だ。後ろに荷物を積んでいると最低ギア39X27Tでも足がいっぱいいっぱい。ロードの高いギア比では限界だ。暑さもジワジワと体力を奪っていく。

あまりにもギアが重くて苦しいので、「ちくしょ〜、フロントトリプルやコンパクトドライブだったら…」などと文句をもらす。「MTBのときは軽いギアがあったから、きつい坂でも何とか上って行けたけど、この装備では無理だ」なんてことも考えた。

きつい上り坂をヘロヘロになりながら上っていると、上から荷物満載のMTBが下ってきた。それも数人。恐らくサイクリングサークルのグループで、合宿なのだろう。すれ違い際に挨拶を交わす。あぁ、彼らはもう渋峠を越えて、下ってきたのかぁと感心した。

彼らのMTBに積まれている荷物の量を見て、改めて考えた。荷物だけで15kg以上はありそうな、大量の荷物。第一印象は「てんこ盛り」だ。キャンプ装備だとあれくらいいく事は、自分でも体験してわかっている。自分がMTBで荷物満載で旅をした姿を思い出した。

大量の荷物。後ろにかかる重量は半端ではない。今の装備を考え直した。後ろにはサイドバッグが2つ、そしてキャリアの上に輪行袋があるだけだ。第一、車重からして、前のMTB14kgに対して今は8kgしかない。サドルバッグやキャリアを足しても10kg台だろう。機材の重量も今の方が断然軽いのだ。


さっきまで、ロードの高いギア比だから…とか言い訳していたが、本当にそうだろうか? と自分に問うた。あれだけの大量の荷物を積んで重いMTBで峠を上ってきた。ギア比は高いが、軽量な今の装備で、果たして本当にあの頃とくらべて今の方がきつい状況だろうか。

いや、違う。昔だって、MTBの軽いギアだって、同じくらいきつかったはずだ。ロードのギア比なんか言い訳に過ぎない。きつさは大して変わってはいない。そして、同じなら今はただギア比を理由にすることで甘えているだけだ。

急に自分の中で意識が変わった。目が覚めた。そうだ、何弱音吐いているんだ、おれはそんなに弱い男だったのか? 今までどれだけの峠を越えて、どれだけ荷物を積んで旅してきて、その経験の上に自分がいて、それなのに、あんな理由をつけて弱音を吐いている。違うだろう、おれはもっと走れるはずだ。このきつい坂だって、昔のきつい状況と比べて、それほど飛び抜けているわけではないはずだ。

相変わらず坂はきついし、きつい日差しと37℃の気温が体力と水分を奪っていく。しかし、意識は変わった。もう言い訳はしない。きつさは昔と同じだ。そう思った。しかし、しばらく走ったところでさらに勾配がきつくなり、「……やっぱり、ここまでくるとロードのギア比では…」と思ってしまった。実際、これは仕方ないと思う。


しばらく走っていくと、勾配がやや緩くなった。先ほどまではちょっときつすぎたが、ここからは5%ほどの勾配に。山沿いに続く道。ふと左側を見てみると……。


何やら高いところに道が見えた。これからあんな所まで上るのかぁ…と思った。でも、落胆は1割くらいで、楽しみが9割だ。最初どんなに高いところに見えた道でも、じっくりと上っていけば、そのうちそこへ到達できることはわかっているから。


少しずつ高度を上げ、いよいよ先ほど見えていた部分に近づく。山肌から道がはみ出ていて、空中に道が続いているように見える。


上りながら陸橋になっているため、前に見えるのは空。まるで空中を走っているようだ。がんばって上ってきた分、見える景色も素晴らしい。


先ほどここを見上げていた辺りが、遙か下に見える。高いところへ上ってきた達成感を感じられるのも、自転車のいいところだ。


どんどん高度を上げていく。車の量もそこそこ増えてきた。ただ、クラクションを鳴らすようなドライバーはいない。もうそろそろ志賀高原のはずだ。


上り坂の先が見えなくなった。この先に下りがあるのかな? と思ったら、ほんとに下りになった。渋峠までひたすら上りだと思っていたが、下りの区間もあるようだ。ここは道幅が狭いので、気をつけながら下って行く。


距離は短いが、久しぶりの下りが気持ちいい。最後は平坦になり、沼の脇を通った。沼には観光客がチラホラ。少し先に駐車場があって、そこで自転車を車から降ろして走る準備をしているおじさんがいた。その先は再び上りになった。

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