第1次試験科目

作成日:2000-10-19
最終更新日:

中小企業診断士の第一次試験の科目紹介です。


経済学・経済政策

公式な目的と内容

私は経済学を全く勉強しなかった。数学は好きだったが、単位に円がつくと急にやる気がなくなる、 というのはどこかに書いた。また、経済学には相変わらず不信の念を抱いている。 外部不経済という言葉を聞いたことがあるだろうか。 経済学ですべての枠組みが説明できるという、 経済学者の思い上がりから生まれたのがこのことばだ。高度経済成長に伴って、 公害も増えてきた。そんな公害を説明する手段を経済学は持たなかった。

経済学に関する小咄はたくさんある。その中で、私が聞いたある小咄を紹介しよう。 ある無人島に物理学者、エンジニア、経済学者の3人が流れ着いた。 食料は難破した船からかろうじて持ち出した缶詰のみ。この缶詰が開けられなければ、 3人は飢え死にする。3人は頭を絞った。物理学者はいった「俺のメガネは老眼鏡だから、 太陽の光を集められる。この凸レンズを利用して太陽光を集めれば缶のフタが融けて空くだろう」。 エンジニアは別のアイディアを出した「弾力のあるヒモを集めてパチンコを作ろう。 このパチンコで小石を缶にぶつければ衝撃で缶が空くだろう」。二人の話を聞いていた 経済学者がおもむろに口を開いた「諸君、ここに缶切りがあると仮定したまえ」。

もっともこの小咄は私がどうも自分の中で変容させてしまったらしい。もとネタは、 たとえば、都留重人編「経済学講義」上(岩波セミナーブックス)にあるものだろう。

とにかく、経済は嫌いだ。一度はまじめに勉強しようと思ったこともある。森嶋通夫の 「無資源国の経済学」(岩波全書)を買ったが、結局通読できぬままに終わった。 森嶋さんは、日本で初めてノーベル経済学賞をとるならこの人、といわれるほどの大学者であるが、 私は森嶋さんの業績をまるで知らない。 で、この本は「これこれの条件を無視して」とか、「これこれは一定と仮定して」という調子で、 ずんずんと進んでいく。経済学の本であるから数式がけっこう出てきて小気味いいほどだ。 最初は簡単そうに見える一次式がいつのまにかよくわけのわからん式になるのには なんともいえぬ感慨を覚え、そしてここで挫折した。「これが経済学なのか」。

読み物程度の本ならば読んでいる。佐和隆光の「経済学とは何だろうか」とか、 先ほどの森嶋通夫の経済学者列伝(正式名称は失念)とかである。また、 岩波セミナーブックスの経済の本はけっこうある。しかし、真面目に体当たりをしていない。 さて、試験の内容として提出されたことを、果たして私は理解できるだろうか。

なお、私は「応用経済時系列研究会」という学会に、 所属だけはしていたことがある。

財務・会計

公式な目的と内容

財務も会計もまるで私にはわからない。2 + 3 = 5 はできても、2000 円 + 3000 円 = 5000 円が ピンと来ない。私が八百屋でアルバイトをしていた時は、 釣り銭の勘定があるといつもどきどきしていたものだ。 お金の話は面白いかもしれないが、どう面白いのか見当がつかない。 たとえば、オプション取引など、考えた人は偉いと思う。

財務・会計がわからない方は、まず慣れるのがよいだろう。合格するためには、 同じ問題を何度でも、確実に正答が得られるまで訓練するのが早道である。 むやみに難しい問題に挑戦する必要はない。

企業経営理論

公式の目的と内容

旧試験の「経営基本管理」、「労務管理」、「販売管理」を含む、大変難儀な科目である。 旧試験を受けた人にはわかりやすいのかもしれない。

運営管理(公式な目的と内容

この科目は旧試験制度での商業分野の専門科目と工鉱業分野の専門科目を合体させた結果、 できたのだろう。 小学校低学年の社会科と理科を併せた生活科が誕生した時のことを思い出した。 閑話休題、この科目を教える先生は大変だろうな、と思った。出題者も一人では賄えないだろう。

これも受験生にとっては量が多い科目である。自分ができる領域(商業分野、工業分野)に絞るのが、 よい結果を産むだろう。どちらも苦手ならば、商業分野がよい。 通常の生活では、工業分野は馴染みにくく、イメージも浮かびにくいからだ。

経営法務(公式な目的と内容

これまた全くわからないのが経営法務である。 私の知り合いの方で、会社を作った方がいる。正確には、ある大きな会社から 分離独立したときに、他の仲間と新しい会社を作ったのである。その方がいうには、 「会社を作るのは大変だったけれど、一度経験すればこわくはありません。 どんとこい、という気分です」この方にも教えを乞うことを考えている。

また別の方から経営法務に関係する話を聞いた。その方が勤める会社は、 近々株式を上場する予定なのだそうだ。その方が、上場となると、 いろいろな書類や資料をそろえないといけないのでとにかく大変だ、と大変そうにいうのだった。 で、「なぜ上場をするのですか」とバカなことを聞いてみた。 そして、「資金が株式市場から調達できるからですか」とつけ加えて出方を伺った。 すると答は、「いや、優秀な人材を確保したいからですよ」ということだった。 「資金は潤沢にあり、心配はない。やっぱり、人材をとれる幅が広がりますからね」 としみじみいうのだった。その伝でいくと、 私は最初に上場会社に勤めてから途中で非上場会社に転社したので優秀でないということになる。 それはともかく、上場することで本当に優秀な人材が確保できるのか? 領域を広げることができるのはいいが、それが本当に会社の成長の一助となるのか。 客観的に見て優秀な人材は上場会社を目指すのか。そもそも優秀な人材とは何か。 そんなことを考えつつも、年上の人に対して何も返すことばがみつからなかった。

最後に、法曹関係の知人のことを書く。この知人はある法律事務所に勤めていたが、 最近ネットビジネスで有名な企業に入った。この知人曰く、「いま弁護士だからといって、 法律事務所にいるだけで食っていけるわけではありません。法律事務所も淘汰されます。 そのような危機感がありました。もちろん、その事務所の仕事もやりがいのあるものでした。 しかし、不満も感じていました(中略)。昨今の情報技術の進展を目の当たりにし、 法曹の人材も積極的にこの分野に参画していくべきだと考えたのです。」 その意気やよし。またこの知人からもいろいろ教えを乞うことにしなければ。

ところで、私が逆にみんなに与えることができるものは何かあるだろうか、と自問した時、 何もないのだ。


新規事業開発(公式な目的と内容

ある診断士の方から聞いた話である。創業者から新規事業に関する相談を持ちかけられたのだが、 その創業者は事業分野のことを何も知らない。需要予測や同業他社の動向、顧客ターゲットなど、 全く素人だという。それでいて元気は人一倍ある。いやあ、大変ですよ、といっていた。 診断士の方は困ったようなそぶりをみせつつ、やはり元気である。 いろいろアドバイスしていますよ、ということだった。

人はいろいろな理由で事業家を目指し、独立をする。 そのとき、最初から順風満帆でいくことはまずない。いろいろな関係者や機関に助力を仰ぎ協力をとりつけ、 資金調達や企業間競争、市場の不況などの困難と戦い、道を切り開いて行かねばならない。 そんなときに、ここの新事業開発の項は力になるはずである。 そして、今述べたことは診断士自身にもあてはまる。 たとえ企業内診断士といっても、独立する時が来ることが通常のサラリーマンより機会が多い。 そんなとき、この試験内容を自らが実践することになる。

註:2006年から第1次試験から新規事業開発が除かれた。


経営情報システム(公式な目的と内容

こんな話を診断士のAさんがしてくれた。

ある酒屋なんですけど、そこは電子メールもなければウェブもない。FAX さえないんです。 どうやって注文取るかというと、みんな電話なんですね。居酒屋からの注文は電話だけ。 かかってくるときは、 「ビール1ケース、至急ね」 としか言われない。だけど、その声色でどの居酒屋からの、どのメーカーのどの銘柄かをぱっと判断して、 すぐに届ける。こうやって、お客さんを増やしているんだ。 居酒屋の主人はITなんて使えないけど、その使えないことを逆手にとって商売をしてるんだね。

この話に対して、「でも、今はいいかもしれないけれど、そのうちITが必要になりますよ」 と診断士のBさんは意見をした。

事業としてはあっぱれである。小さな企業が生き残るにはAさんの話にある、 ニッチな分野を取るのがいいだろう。しかし、もっと競争の激しい業界や事業ならば、 Bさんの意見が当たっている。診断士自身は情報システムを組める必要はないが、 その情報システムの必要性を、経営の立場から判断する必要が高まっている。 そのために、経営情報システムが独立した試験科目になったと考えられる。

この方面の熟練者を目指すには、情報処理技術者の上級システムアドミニストレーターや、 ITコーディネーターを取得するのがいいだろう。ちなみに、上記のAさんもBさんも、 ITコーディネーターである。


中小企業経営・中小企業政策(公式な目的と内容

旧制度の中小企業診断士試験では、第二次試験に悪名高い「中小企業対策」という科目があった。 これは、中小企業の施策を600字で1問、200字で2問書かせるものである。 今は第二次試験からはなくなったが、代わりに第一次試験にこの分野が出てきた。

もし、この科目を「試験のためのだけの科目」と見ていたらそれは大間違いである。 わたしもかつてそのような考えをしていたので、過去の自分に向って説教することとなる。 実務でコンサルテーションするときに、直面する多くの問題は金策である。 そこで、中小企業ならではの、各種の融資・補助金制度や法律・政策を知っておくことで、 依頼された企業を支援することができる。そしてこういった制度を熟知しておけば、 審査に通りやすい書類の書き方や面接の受け方を指導することができる。 侮ってはいけない。


助言能力(公式な目的と内容

コンサルティングを陽に行なわない診断士でも、業務分野を問わずもっとも身近に感じるのが、 この「助言能力」だろう。この表記を再考すべきだ、と提言した方もいるくらい、 実際は「コミュニケーション」に近い。そのための理論がちりばめられている。 なお、ここの分野は外来語が頻出する。日本人は意思疎通の手段を極めることができなかった、 という現象を裏付けるもののようだ。

註:2006年から第1次試験から助言能力が除かれた。


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MARUYAMA Satosi