名探偵は死んでいる      

19. 名探偵は死んでいる 020602


(前回までのあらすじ)
 「後で決めます」でデビューした針井探偵の活躍については、「針井探偵の今後の活躍について」、および「アナグラム」、で述べたところであるが、ついに「名探偵最後の事件」において連続殺人犯として逮捕され、針井探偵シリーズは幕を閉じた、と思われた。が、「なんとなく逃亡した」と思いきや、「官憲に利用されたり」している。

【プロローグ】
 逃亡に成功した探偵は、最後の対決に向かった。探偵としての名誉をかけて…。生きて帰れないかもしれない。探偵はそう思った。

【第一章】
 通報を受けた警部(聖書原理主義者)は、密室のドアを蹴破る。部屋の中で人が倒れていた。探偵は目を見開いたまま、頭から血を流していた。どこからどう見ても死んでいる。
警部は、振り返り皆に告げた。
「これは殺人です。」

【第二章】
 死んでしまった探偵に追悼の言葉を述べる人々。死んでから名探偵と言われても嬉しくないだろうに。

【第三章】
 「さて、ここにお集まりの関係者の皆さん。密室の謎は古典的なトリックでした。」
 針井探偵登場。密室のトリックを暴く。犯人は、針と糸を使い巧みにドアの鍵を部屋の外から閉めたのだ。いまどき古くさいトリックである。この絶海の孤島でその特殊な針と糸を調達できる人、すなわち、この島唯一の雑貨屋の主人が犯人です。
「しかし針井探偵、殺人の動機は?」

【第四章】
 針井探偵は言った。
「雑貨屋の主人と殺された探偵とは、実は古い知り合いだったのです。そう、探偵とその助手。そうですね、小林(シャオリン)さん?」
皆が驚く。
「まさか、雑貨屋のあなたが、あの小林少年?」
針井探偵が小林氏を指さす。
「そう、『日月智探偵を』殺害したのは、かつて小林少年と呼ばれた、あなたです。」
「小林さんは少年時代、日月智探偵の助手として名声を得た。そしてその後、日月智探偵から独立したあと、卓越した頭脳と行動力を発揮し、みるみる頭角を現した。…但し、暗黒街で。雑貨屋とは表の顔、裏の顔は暗黒街のボスだったのです。」
小林氏が喋り出す。
「その通りです。私が悪の道に走ったことを知った日月智探偵は、私に足を洗うように何度も説得しようとしました。しかし、私は聞き入れませんでした。結局日月智探偵は私と命をかけて戦うことになりました。その結果どうなったかは皆さんのご存じの通りです。」

【エピローグ】
「なんか、後味の悪い事件だったなあ。」
「ばかもの、後味の良い殺人事件があるものか。さて私は、ささっと終わらせてこの島から逃げ出さねばならない。なにしろ脱獄中だからな。それにぐずぐずしていると、江○川○歩のファンに刺されるかもしれん。」
「有名な古典探偵小説の登場人物の名前に良く似ていることは、偶然の一致としらをきることだな。ところで、この事件、記録するときの題名はなんとすれば良いだろう。」
「ふむ、犯人の職業を考えればよろしい。それと時節柄…」
「時節柄?」
「『針井(他)と小林雑貨(小林ザッカー)』が適当だろう。」

と言い捨てダッシュで逃亡する針井探偵の後ろ姿を見つめながら、やはりこの長さでは叙述トリックは無謀であったかと思い馳せる私であった。


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