後で決めます      

8. 題名:後で決めます 011214


目を覚ますと、一時間十分寝過ごしていたと勘違いさせるために、屋敷中の時計の針を進ませていたというわけです。単純なトリックですよ。」
 針井探偵はそう言った。彼の記録係であることを自認している僕は驚いて聞き直した。
「そんな馬鹿な。たとえそうだとしても、被害者が寝ている間にこの広い屋敷中の時計を全部進ませて、犯行の後また全部を戻すなんてことができるとは思えない。」
「単純な仕掛けさ。この家の時計はすべて標準時の電波を受信して時刻を自動的に合わせる電波時計なのだ。この家の構造はさっき説明したように壁に金属製の網を埋め込んだ構造で、家の内部には電波が入ってこないようになっている。その代わり家の中に標準時刻電波を発生する装置を独自に設置しているのだ。その装置を操作すれば、館中の時計が一斉に狂うというわけさ。」

「もう一つの謎。すなわち、犬小屋(十数匹が飼育できる大きな建物)に設置してあるクリスマスツリーに椅子がぶら下げてあったのはどう説明するんだい。犯人だとしたら何故、そんなことをしたのか?」
「簡単だよ。Chr「is」tmas即ち、Christmasの真ん中にはis=「椅子」があるという駄洒落さ。」
「なるほど! これで全ての謎が解けた。犯人は容疑者2だ!」
「慌ててはいけないよ、ワトソン役君。もしそうだとしても証拠が無い。」
「なるほど。これは私としたことが早まったことを。ところで、この話、登場人物で名前がついているのは針井探偵だけで、あとはワトソン役とか容疑者2とか固有名詞がついていないのは何故だろう。」
 証拠もなしに犯人を特定するということをしてしまった恥ずかしさを隠そうとして、事件に関係ない話をしてしまうという、つい茶目っ気をだしてしまう私だった。
「しらんよ。なんとなくわかるが、名前を考えるのが面倒くさいのであろう。まあ、君たちはその他大勢ということで。」

 犯人を特定するために、探偵は罠をかける。罠にはめられたことに気がつき逆上した犯人は、探偵に襲いかかるが、探偵は犯人を取り押さえる。

「犯人がつかまってよかった。しかし、まさか容疑者2に罪をかぶせるために容疑者3が仕組んだ罠を容疑者4が利用しようとしたのを容疑者5が密かに邪魔しようとしたためかえってこんな複雑な事件になってしまったとは。」
「話の展開が不自然だが仕方がない。不自然さをカバーするためにここから一気に話を終わらせよう。」
「うむ、犬小屋に置かれたクリスマスツリーに飾られた椅子というささいな謎から、このような大事件になるとは。まあ、解決してよかった。」
「この事件のおかげで二日徹夜だ。もう私は寝させてもらうよ。」 そういうと針井探偵はソファの上に横になった。
「ところでワトソン役の私はこの事件の記録を残そうと思うのだが、題名は何にしたらよいだろう。『針井探偵と犬小屋の椅子』でどうだろう?」
「あれは犬小屋といっても十数匹飼える大きな建物だから、犬小屋と言うよりも犬舎と言うにふさわしい。それと、題名に僕の名前だけ出すのはおこがましいから、他の人も出てくるということをはっきりさせておいたほうがよい。」
「すると?」
「そうだな、時期的に言っても『針井(他)と犬舎の椅子』が適当だろう。」

針井探偵はそう言うとソファに寝ころび壁の方を向いて眠りに就くのだった。


クリスマス雑文祭参加作品
 (通常縛り版)
 始め 「目を覚ますと、一時間十分寝過ごしていた」
 結び 「眠りに就くのだった。」
 文中に以下のフレーズ
  「なんとなくわかる」
  「つい茶目っ気を出してしまう」
  「クリスマス駄洒落」を入れる。


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