4.3 シューンビル小屋からテットブランシュ

         ベルトールのコル、アローラへ

 6:00起床、7:00頃小屋を出発した。天候は今一つ。マッターホルンをはじめ、対岸の山々は霧に包まれているが、風もなく穏やかだ。シュトックジを巻いて長いトラバースをする。数日前の好天で旧い雪が凍っており、その上に積もった新雪を切って行くトラバースだ。雪崩の危険性がどこかに潜んでいる可能性が高い。ティーフマッテン氷河からシュトックジ氷河へ登って行く部分がかなり急傾斜で、フレデリックが一番危険を感じたところだ。一人づつ登り切ってしまうまで岩の陰で順番を待つ。じっとしていると体が冷えてくる。かなり寒い順番待ちを10分ほどして最後に僕が登った。何事もなく通過できて一息つく。

テットブランシュで 上部は霧の中で視界が悪く、また風は頬も鼻ももぎ取ってしまいそうに冷たい。フレデリックの計器歩行が始まった。後ろを見る余裕がないし、霧の中なので離れないようについてこいと言う。広い雪原が続き、僕の頭に不安がよぎる。このルートは正しいルートなのか?僕は第一フレデリックがどのルートを採ろうとしているのか聞いていなかった。本来はヴァルプリンのコルを越えて行くはずだったが、積雪の関係でモンブルーレのコルの通過をあやうシールを外すんで、モンミネ氷河を滑るつもりかもしれない。途中でフレデリックが右へ折れて、雪庇を越えたときにはそれを確信した。イタリアとの国境を越えられないのは残念だがガイドの判断には従わなくてはならない。僕達は危険を冒しに来ているのではないのだから。

 我々は忍耐強く霧中の登高を続ける。天候は好転していると見えて、時折霧の切れ間からテットドヴァルプリンやマッターホルンが、上部だけだが、姿を見せかけた。そして我々はテットブランシュに出た。向こう側には広い谷がのぞいている。

モンミネを背景に 少し休憩をして、さあ粉雪の大滑降だ。我々の上を太陽と雲の影がかわるがわるよぎってゆく。美しい谷だ。そしてここは風もなく、なんという平和さだろう。眼前に霧の流れるモンミネ、ダンドベルトールを眺めながら、不器用なシュプールを刻んでゆく。他に誰の跡もない全くの新雪。風と水の造形があるのみ。そこに描くただ3本のデッサン・・・。そして十分雪にまみれた後に、ひたすら対岸に向かってのラッセルが続く。トラックを刻むフレデリックは大変だが、実は3番目を行ってる僕はただスキーに乗っているだけで、勝手にどんどん彼らの後を追ってゆくことが出来た。

ベルトールのコルで 降りきったところからはベルトールのコルへ向かってのトラバースが始まった。太陽は眩しくなり、暑いくらいになった。コルからこっちに向かって、これまた新雪を切って近づいてくる一団がある。ヴェルビエ〜ザースフェーのレースに出場するパーティーがトレーニングをしているらしい。そしてやがて僕達のトレースとクロスし、そこからはお互いの営為に感謝しつつ進むことになった。「ボンジュール」しか交わさないが、僕が彼らに感じたのは友情ではなかったか?

 ベルトールの小屋は信じられないくらいの絶壁の上に建っていた。人々は梯子と鎖で出入りしている。僕達はその下で憩い、シールをはずした。さあ再び新雪の大滑降だ。フレデリックの美しいシュプールに続く、モンコロン不器用なピッチの長いシュプール、それがとぎれとぎれに続く。どこまでも粉雪だ。正面にピンダローラが聳え、右手にトラバースしてモンコロンが覗く。雪は徐々に重くなり、アローラ氷河に合流してからは時々石が顔を出していた。そこからアローラまで時々漕ぎながらの長い滑走になった。

 僕達は再びツェルマットに戻った。シャワーを浴びたのはもう10時を回っていた。


ベルトールのコルからの滑降ムービー(675MB)


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