「はじめに ……… この本はここがウリ!」から見出しだけ引用する
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本書の中ほどで、モル比熱が物質によらずにほぼ `3R` であることを統計力学を使って導く方法が解説されている。
ここで `R` は気体定数(= 8.31J/mol・K)である。わたしは気体定数なることばも忘れてしまっているから、モル比熱が `3R` で表されることなどちっとも覚えていない。
おまけに、昔ある物質の熱伝導方程式を解かなければならないときに、その物質は温度によって比熱が変化するのでそれを考慮した数値計算をしなければいけなくて右往左往した覚えがある。
本書は比熱の温度依存性について言及されていないのだろうか。いや、これは統計力学の本だから、比熱の温度依存性など考えないことにしよう。のちに見るとわかるが、
本書の p.105 で、一般には比熱は温度に依存してもいいのだ
と言っているので安心した。
それでは本書に従い、「第3章 正準統計でお手軽計算」から正準統計の方法を使って固体の比熱を導く。まず、固体の原子1個を質点に見立て、1点の振動がバネによっておこるとする。このときの質点系のエネルギーは、 次の式で与えられることが知られている。(p.102)
`E_n = ħ omega_0 (n + 1/2) (n = 0, 1, 2, 3, cdots)`
ここで `ħ = h / (2pi)` はプランク定数 `h` を `2pi` で割った値、`omega_0` は隣の原子との結合の強さと原子質量によって決まるバネの角振動数で、物質ごとに異なる値をとる。
分配関数 `Z` は、物理系の可能なエネルギー状態 `epsilon_j ( j = 1, 2, 3, cdots)` すべてについての和 `Z = sum_j e^(-beta epsilon_j)` で定義される(p.86)。ここで、
`Z_1 = sum_0^oo e^(-beta E_n) = sum_(n= 0)^oo e^(-beta ħ omega_0(n + 1 // 2))`
である。右辺は初項 `e^(-beta ħ omega_0//2)` 、公比 `e^(-beta ħ omega_0)` の等比級数の和だから次のように計算できる。
`Z_1 = e^(-beta ħ omega_0 // 2) / (1 - e^(-beta ħ omega_0))`
後の計算の都合で、両辺の対数を計算する。
`log Z_1 = -(beta ħ omega_0) / 2 - log (1 - e^(-beta ħ omega_0))`
次に、分配関数 `Z` からエネルギー `E` の期待値 `(:E:)`を計算する公式は p.88 で扱われており、次のとおりである。
この式を使ってエネルギー`(:E_1:)` を計算する。以下、`(:E_1:)` を単に `E_1` と書く。
これで質点が1個のときのエネルギーが求められた。次に全体の系、すなわち互いに独立な質点が `N` 個あるときの諸量を求める。全体の系の分配関数を `Z` とすると、 質点が互いに独立であることから `Z` は次の式で与えられる。
`Z = Z_1^N`
計算されている `Z_1` を代入して
`Z = (e^(-beta ħ omega_0 // 2) / (1 - e^(-beta ħ omega_0)))^N`
が得られる。この対数は、
`log Z = N log (e^(-beta ħ omega_0 // 2) / (1 - e^(-beta ħ omega_0)))`
でえられる。次にエネルギー `E` を計算するが、これは質点が 1 個のときのエネルギーと同様に計算できるので
`E = N ((ħ omega_0)/ 2 + (ħ omega_0)/(e^(beta ħ omega_0)- 1))`
これで準備ができた。これで固体の諸量を計算できる。
固体の熱容量 `C` は次の式で与えられる。
`C = (dE)/(dT)`
この式と今計算したエネルギー
`E = N ((ħ omega_0)/ 2 + (ħ omega_0)/(e^(beta ħ omega_0)- 1)) = N ((ħ omega_0)/ 2 + (ħ omega_0)/(e^(ħ omega_0 // (k_BT))- 1))`
から、`k_BT` \( \gg \)` ħ omega_0` の範囲、つまり高温側では、指数関数の近似式 `e^x approx (1 + x) ` \( ( x \ll 1 ) \) が使えるので式を整理できる。
`E = N ((ħ omega_0)/ 2 + (ħ omega_0)/(e^(beta ħ omega_0 - 1))) =N ((ħ omega_0)/ 2 + (ħ omega_0)/(1 + ħ omega_0 // (k_BT) - 1)) = N((ħ omega_0)/ 2 + k_BT) = Nk_BT`
式が簡単になった。常温付近ではこの `k_BT` \( \gg \) `ħ omega_0` が成り立っている。モル比熱は 1 モルの物質の熱量量だから、 `N` をアボガドロ定数 `N_A` で置き換えよう。一方、 `k_B = R//N_A` であることから(本書 pp.48-49)。`E = RT` となり、`C = (delE)/(delT) = R` となる。あれ、固体のモル比熱は実験的に `3R` だというのに、 計算では `R` になってしまった。なぜだろう?
本書 p.107 の議論によれば、今までの扱ってきたバネの模型は一次元(一方向)にしか振動しなかったのが問題であるという。つまり、 原子の振動を `x` 方向しか考慮していないということが問題だった。しかし現実の原子は 3 次元で振動しているので 3 方向の振動を取り扱わないといけない。 したがって、バネと質点の総数は `N` 個ではなく `3N` 個としなければならない。そうすれば、
`C = 3N_Ak_B = 3R`
となり、実験結果が説明できる。それから先は、本書 p.107 から引用しよう。ばかばかしくて好きだ。
「固体のモル比熱が `3R` である」という結果の「3」というのは、原子が 3 方向に動けるということであり、 要するに我々が住んでいる世界が三次元であるということを意味しているのだ。だから、もし諸君が異次元人にさらわれて、異次元空間に連れ去られてしまったとしたら、 まっさきにモル比熱を測定することをオススメする。モル比熱が `R` の何倍になっているかを確かめれば、 そこが何次元の空間かがわかるはずなのだ!
このページの数式は MathJax で記述している。
書名 | ゼロから学ぶ量子力学 |
著者 | 加藤岳生 |
発行日 | 2013 年 3 月 25 日(第1刷) |
発行元 | 講談社 |
定価 | 2500 円(本体) |
サイズ | 222p 21cm |
NDC | 421 |
ISBN | 4-06-154676-9 |
その他 | 草加市立図書館で借りて読む |
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