「まえがき」から引用する
高校卒業程度のレベルから始めて、なんとか物理数学っぽい「微小振動の理論」や「フーリエ変換」等にたどり着けるように題材を選んで書いた。
第1章の前に、「落ちていくアリス」という2ページの章が置かれている。この本の進行はアリスという少女が担っている。アリスといえば、「不思議の国のアリス」だろう。 私は「不思議の国のアリス」が苦手だ。読んだことがないからだ。それはともかく、この「落ちていくアリス」はこのように始まっている。
アリスはお姉さんと川のほとりへ遊びに来ていました。でも、何もすることがなくなってだんだん退屈しはじめていました。 お姉さんの読んでいる本を覗き込んでみても、グラフも数式もないのです。 「グラフも数式もない本なんて一体なんの役に立つの?」とアリスは思いました。
この、アリスが思ったこの疑問は、私が本を読むときにもあてはまる。
第1章は『縮むアリス「微分方程式とは?」』である。p.17 にこんな記述がある。
三本足の机「1960 年代、学生運動の時代、『おまえらは専門バ〇だ!』と学生につきあげられて 『ワシらは専門バ〇だが、おまえらはただのバ〇だ』とやり返した教授がいたという話だ。これも言えてるとおもうが……」(後略)
これは小平邦彦氏のことばだろう。小平の名言「専門バカでないものは唯のバカである」のことをいっているのだと思う。
第4章は『発明家T氏「線形微分方程式、減衰振動と強制振動」』である。p.82 の脚注 *8 を見てみる。
*8 某女史は、`omega` は猫のキン〇マにしか見えないと申しておりました。本人になりかわり陳謝しておきます。
こういう脚注を見ると安心する。ということは、わたしも立派なオヤジである。
同じく第4章の p.100 のコラムでは、俵万智の父の発明した Sm-Co 系磁石を抜いて現在の最強は佐川によるネオジウム系(Nd-Fe-B)磁石で 1 T 程度だ。
そういえば、最近の新聞で俵好夫の訃報を目にしたのだった。単なる偶然だろう。なお、佐川
とは、佐川眞人のことである。俵も佐川も、
最強磁石を作り出したときは大学の研究者ではなく企業の研究者だったことは興味深い。
第5章は『またミツバチが…「行列式、固有値、対角化」』である。p.143 の Column を見てみる。ここでは、対称行列を複素化したものがエルミート行列であること、 直交行列を複素化したものがユニタリ行列であることを示したあとで、こういっている。
(前略)エルミート行列とは、実数の概念を行列の場合に拡張したものだ。同様に、ユニタリ行列は `e^(itheta)` を一般化したものだ。
このさっぱりした記述に感心した。ちなみに、本書ではエルミート行列やユニタリ行列の定義がない。エルミート行列とは、自身の行列とその随伴行列が等しいものである。ここで随伴行列とは、行列の共軛転置をいう。 また、ユニタリ行列とは、自身と随伴行列の積が単位行列となるものをいう。
p.100 の下から 2 行目ネオジウム系(Nd-Fe-B)磁石
とあるが、正しくは《ネオジム系(Nd-Fe-B)磁石》である。
p.177 の図 7.4 のキャプション線積分 `W` (分割をどんどん細くしていく)
とあるが、正しくは《線積分 `W` (分割をどんどん細かくしていく)》である。
p.222 の Column 本文、上から 8 行め、ドとソの比は `2^(6/12) ~~ 1.498 ~~ 3/2`
とあるが、正しくは《 `2^(7/12) ~~ 1.498 ~~ 3/2` 》である。
なお、もう少し小数点以下を増やせば、1.498307... と続く。
p.227 [3] の参考文献である「線形代数入門、斎藤雅彦、東京大学出版会」
は、
正しくは、《「線型代数入門、齋藤正彦、東京大学出版会」》である。
なお誤植ではないが、文章が多少口語的であるのでどうも落ち着かない。たとえば、本文に「い抜きことば」が散見される。p.176 脚注14経路を表す記号に C を用いることが多いのは英語 contour に対応してるから。
、
p.190 本文上から 8 行め学問の枠や昔の偉い先生の価値観や問題設定にとらわれててはいけない。
など。また「い抜きことば」ではないが、p.139 では、ほんとは Ω(`t`)は
などのようなことば遣いも見られる。
このページの数式は MathJax で記述している。
書名 | ゼロから学ぶ物理数学 |
著者 | 小谷岳生 |
発行日 | 2004 年 7 月 1 日(第1刷) |
発行元 | 講談社 |
定価 | 2500 円(本体) |
サイズ | 238p 21cm |
NDC | 421 |
ISBN | 4-06-154659-7 |
その他 | 川口市立図書館で借りて読む |
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