スリランカ、和平への足跡・和平復興関連 No131 /2007-Jun-04  

 援助兵器を使用した米英独三国


 ファイナンシャルタイムスMay 22 2007 16:53までが、そのニュースを「援助兵器を使用」と書いた。米英独の三国がスリランカへの復興援助資金を凍結したことを指して「援助兵器を使用」と言ったのである。スリランカ内戦は復興援助のドナー各国に見切りを付けられるほどに拡大し、収拾の道を失ってしまった。
 もっともマヒンダ政権はドナー国の援助凍結にも強気で、「援助は要らない。内政干渉をしてくれるな」と英国に対してひじを張った。2年前に故カディルガーマル外相がBBCで「援助にテディベアはいらない、約束の金をくれ」と言ったときよりもマヒンダ大統領のトーンは重く暗い。
 テディベアはいらない。スリランカ政府が欲しいのは援助資金だ。援助国は約束した金をまだ払わない。タミル人の故カディルガーマル外相が早口でそうがなり立てるBBCの画面を見てシンハラ人の多くが喝采した。そして、政府の試算する復興金額を数倍も上回る援助をスリランカは世界中から受けた。その結果(だろうか)、スリランカ内戦は出口の見えないまま拡大し、昨年からは明らかに大暴走と見える事態に至ってしまった。

復興援助が凍結された

 米英独三国はスリランカへの援助を凍結すると発表した。名目はヒューマン・ライツ・ウォッチが指摘するようなスリランカ政府とLTTEが相互に繰り返す市民への人権侵害行為に対する制裁である。援助がなければ、借金をしなければスリランカ経済は成り立たない。その弱点を狙ってスリランカ政府に対し圧力をかけたのである。
 2003年、内戦終結という政治課題とインフラを含む経済の復興支援をセットにして行おうとした東京会議が日本政府の主催で開かれた。ここでスリランカ復興のためドナー各国・国際機関は総額45億ドルの支援を決めた。2005年にはインド洋のツナミで甚大な被害を受けたスリランカへ更に多額の復興支援金が注がれた。スリランカ政府はこの際にも復興に必要と積算された額の数倍もの援助を
(ファイナンシャルタイムスはその額を数億米ドルとしている)世界中から集めた。
 その結果、インフラの回復、被災者への住宅等の再建などが実行されたものの、復興資金が確実に支援を必要とする人々に届かないという声が北部東部のタミル地域から次第に多く聞かれるようになった。そして、誰もがもっとも危ぶんだのは、もしや復興資金の益を一番享受したのは軍ではないかということだった。
 スリランカの国家予算に占める軍事費の割合は統計上2割程度とされる。2007年度では60億米ドルの国家予算に対して軍事費が14億米ドルを占め、それは国家予算の23.28パーセントに上る。07年度は予算上23億米ドルの歳入欠陥が見込まれ、それを国外からの借り入れや供与でまかなうとしている。多重債務のサラ金地獄である。そうした中で軍事費は一方的に増大している。軍事費の膨張は給与の増額によるというのが政府の説明だ。


東京会議は和平成立に自信を持っていた

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この数ヶ月、スリランカ東部へ進攻した政府軍はLTTEを席巻した。勢いを借りて、いま北部をも手中にしようと作戦を進めている。2、3年のうちに北部のLTTE支配地域は政府のものとなると政府消息筋は豪語している。最新鋭の軍事兵器を着実に配備したスリランカ軍は強気の一点張りだ。
 軍部の作戦はいかにも強引だった。シンハラ・タミル双方がなりふりかまわぬ虐殺を行っているという証言が相次いでいる。中でもタミル・ネィション・オルグが具体的に実証するタミル市民の被害は、それが婦人と子供たちへの殺戮を証言しているだけに、スリランカ政府への非難が多くなっている。英米独三国は内戦において市民の権利を無視する空爆、殺戮、テロなどの行為がスリランカ政府、LTTEの双方によって行われていると指摘するが、スリランカ復興援助の見直しや一部の凍結というドナー各国の宣言はスリランカ政府への圧力が目的だった。
 ドナー三国が援助凍結という‘兵器‘を使ったのは表向き、スリランカ内戦で人権侵害が生じていることへの抗議だった。しかし、スリランカへの過剰な資金の投与が政府軍の軍事力を高め、音速ジェット爆撃機クフィルによる連日のタミル村への爆撃という思いもしない結果を招いたことは誰の目にも明らかだった。超借金国には不釣合いな豪華絢爛な爆撃を政府軍が連日繰り広げる悪夢を招いたのは、スリランカ復興を名目にして資金をこの島に注ぎ続けるドナー各国のそれぞれの戦略に最初の原因があることもまた、明らかなことだった。
 東京会議の復興援助がスリランカ政府とLTTEの空爆合戦へと展開するなどとは米英独三国が、(恐らくは明石代表率いる日本国もが)想定していなかったことだった。スリランカ政府に復興資金を流し込み、その一方でLTTEのテロ資金を凍結すればスリランカ内戦は瞬時に終結すると、東京会議のあの当時、赤坂に集まったスリランカ復興の行政担当者や国際機関の職員たちは大方が思い描いていたのだ。

ズリンの空爆、クフィルの空爆

 ●3月26日深夜、音速ジェット戦闘機クフィルを配備するカトゥナヤカ空軍基地がLTTEによって空爆された。クフィルが繰り返すタミル地区爆撃への報復だった。スリランカ空軍にとっては幸いなことにクフィルが格納庫の中にあり、空爆の難を逃れた。
 LTTE空軍はチェコ共和国製のズリン143
Zlin-143を使って、機体の腹に積んだ四つの爆弾を落とした。ズリンは恐らく、ワンニの漆黒の森を飛び立ち、最高速度ぎりぎりの時速200キロちょっとで低空飛行を3、40分続け、カトゥナーヤカ空港へとたどり着いたのだろう。
 LTTEは空軍組織を持っているという噂はあったが誰も実際にはその現実を目にしていなかった。LTTEに空軍という組織が現実に存在して、実質、爆撃機と呼べるものが存在することをこの爆撃が初めて証明した。
 しかし、ズリン143という「爆撃機」は正確には趣味のプロペラ軽飛行機である。eBayのインターネット・オークションでズリン142が99.95セントからオークションされている。オークション・サイトでアクロバット飛行もできると紹介されたズリンは1万円ちょっとで買える。ちなみに、スリランカ空軍が持っているジェット戦闘機と同型のミグ21
MiG 21F USSR Military Aircraftそのオークションにチェコ共和国の所有者から出品されて、これは26.600米ドル(300万円ほど)で今年落札された。
 南の島の戦争は趣味の軽飛行機と中古の軍用ジェット機でやっているの?とは思わないで欲しい。東京会議とツナミ以降、スリランカ空軍はイスラエル製の真新しい音速ジェット戦闘機クフィルを買い入れ「実戦」に使用しているし、今年は1500万米ドルもする最新鋭のミグ29を買う予定だ。The Hindu / Thursday, May 17, 2007

4月26日、カトゥナヤカ空軍基地が再びLTTEに爆撃されそうになった。政府軍の上空射撃でこのときは空爆を回避することができた。

4月29日深夜、LTTEによる三度目の空襲があった。コロンボ郊外ムトゥラージャウェッラのガス貯蔵所とコロンナワの石油精製所がLTTE空軍のプロペラ軽飛行機によって空爆された。爆撃によってガス貯蔵所の一部、周辺の民家が被害を受けた。電力供給が停止し、カトゥナーヤカ国際空港は民間旅客機の発着を停止した。
 コロンナワと言えば第二次世界大戦のとき、パールハーバーの次に日本海軍が爆撃した土地だ。急降下爆撃で米英を震撼させた南雲部隊のゼロ戦と九九式爆撃機が1942年にここを襲った。爆撃の目標はやはり石油貯蔵設備だった。
 スリランカが「他国」から空爆を受けたのは、だから、これで二度目である。もっとも、日本軍の名誉のためにあえて言うがゼロ戦は当時最先端の戦闘機だった。ズリンとは格が違う。LTTE空軍のズリンは4人乗りを2人乗りに改造し爆弾を4つ積めるようにしたハンドメイド仕様の改造プロペラ機に過ぎない。


英米独は援助凍結に踏み切った

 軍用兵器を他国から購入するスリランカでは常に汚職のスキャンダルが沸き立つ。かつてパキスタンを経由して中国製の戦車をスリランカが購入するときにマヒンダ大統領の親族に収賄の疑惑が立ったことがある。噂が大きかったので戦車の輸入を大統領はストップさせざるを得なかった。
 先月、BBCはこんな報道をした。ウクライナからのミグ戦闘機購入に際して政府内に収賄の疑惑があるとして調査委員会を設置するようジャヤラト・ジャヤワルデネ議員が申し立てた。
29 May, 2007 - Published 17:51
 ミグ29の購入はズリン143の空爆に対抗するために決定されたのではなく、古くなったミグ21からの買い替えだと言う。真相はわからない。ここからわかる事はスリランカが音速戦闘機を買い換える資金を持っているということだ。また、ミグを売りたい側が購入者のスリランカには支払能力が充分にあると認めていて、たとえ後払いだったにしても最新のミグを売り渡すということだ。なぜ資金に潤沢か。スリランカは今、借金で借金を返すというローン地獄に陥っている。それでもスリランカに金を貸し付けたいと言うドナーが数多あるということだ。

 だが、ドナーのうち米英独の三国がスリランカ援助凍結を宣言した。
 英国は300万ポンド援助の約束に関して既に半額を履行したが、この4月、スリランカにおける人権侵害、軍事費の膨張、報道弾圧を理由に援助の残りを凍結した。
May 4, 2007 / BBC 03 May, 2007
 英国のスリランカ復興援助凍結は先月初めの3日、キム・ハウエルスKim Howells外務担当相が下院で表明した。スリランカ政府が関与するカルナ派部隊のタミル市民に対する、それも子供に対する戦争の強要がハウエルス外相に援助差し止めを決断させた最大の理由だった。

 英国の決定に送れて一週間後、米国は同様の理由をあげて援助の一部凍結を公表した。
The New york Times Published: May 11, 2007 / Reuters 16 May 2007 11:28:33 GMT
 ドイツは既に昨年暮れに援助差し止めを公表した。
World Watch Institude / スリランカ内戦がツナミ復興事業を阻害していること、ドイツが重点施策としているタミル地区への復興支援が内戦を理由に阻まれていることをドイツは援助差し止めの理由としている。それはスリランカ政府とLTTE双方への抗議と忠告だった。ただ、ドイツの援助凍結には英米とはまったく異なる特別な理由もあった。
 ドイツはスリランカのツナミ災害復興に際してタミル地区を重点にして援助した。ところがドイツが援助を差し止めると発表した12月27日の直後、今年始めの1月7日に、アンゲラ・メルケル・ドイツ首相をJHUのジャーナカ・ペレーラらがネオナチと呼んで激しく非難した。アンゲラ・メルケル首相はヒットラー、プラバカランと互いに肩を組むネオナチだと呼び捨てたのだ。
European double game to 'tame'Sri Lanka says Janaka Perera in Sri Lanka State controlled Sunday Observer 14 January 2007(この記事に関してはディワイナ2007年1月7日号のニュースソースを未確認)
 それはスリランカならではのあけすけなものの言いようだったかも知れない。彼は以前からヒットラーとプラバカランを並べてLTTEを非難していた。だが、激高して自らを省みることのないドイツ批判はただ、スリランカを孤立させる結果を招いてしまった。ドイツはコロンボのドイツ大使館を通してプレスリリースを流した。援助見直しは費用効果の点で問題があるためであり、そのほかの理由はないとわざわざ言明している。
German Embassy Colombo press release 11 January 2007
 もっとも援助兵器の使用は核兵器がもたらすような終末を招かない。援助兵器は最終兵器ではないからだ。スリランカ政府は援助兵器を使った英国に対して「援助は要らない。自国の復興は自国で出来る」と見得を切った。「スリランカは英国の植民地ではないのだから内政干渉は許さない」と脅しも入れた。
 だが、英国からの援助が止まったわけではない。英国赤十字は英国政府が援助差し止めをした後にスリランカに対して援助物資を送り、在コロンボの英国高等弁務官事務所がその情報を流している。英国からの援助は続いている。
 コロンボに置かれた英国高等弁務官事務所は大使館ではない。高等弁務官事務所の名称が使われることはスリランカが英国植民地であったことの烙印であるし、それが英連邦の一員としてのスリランカにとって名誉でもあった。今回のように英国から辛らつな忠告があれば、名誉は転じて過去の不徳となり、もはや植民地ではない、内政に口を出すな、と英国への罵倒が口をつく。英国と旧植民地との関係は非常にセンシティーヴなのだ。英独のこうした入り組んだ事情は米国にはない。

 かつてLTTEの少年兵を非難していたヒューマン・ライツ・ウォッチが昨年、スリランカ政府と同盟するカルナ派が使う少年兵に関する報告を示し、スリランカ政府を非難した。ユニセフもまた、東部でのタミル少年誘拐や徴兵に関してカルナ派とその政治部門のTMVPが政府軍の補助部隊であることを指摘している。
UNCEF/press center COLOMBO/GENEVA, 27 April 2007 カルナ派は少年兵の徴用を「大したことではない」としており、今年3月末の時点で285件の少年徴用があり、その194件が未解決であるとしている。スリランカ内戦は子供を巻き添えにして激しさを増している。

日本の冷ややかな対応

 英米独三国はスリランカ内戦がもたらす人権侵害と軍事費の増大を懸念して復興援助凍結を表明した。これに対して日本は「援助兵器は使わない、復興援助はこれまでどおり継続させる」としている。
 5月29日のAPF、アジアン・トリビューンがこう報じている。
 
 日本はスリランカへの最大援助国である。その日本が他の三国と歩調をあわせて援助凍結をすれば、スリランカの軍事拡大は防げる。
 日本は東京会議以来、ドナー各国・機関の援助総額の実に60パーセントを越える額をスリランカに供給し続けている。スリランカ政府に最大の影響を与えられるのは日本であり、ドナー国のリーダーとしてスリランカの市民を守り人権を守ることに専念して欲しい。
 東京で日本の外務省高官と会合を持ったヒューマン・ライツ・ウォッチはそう要請した。だが、日本の外務省高官は従来の援助路線を取り続けると応えた。
Colombo, 29 May, (Asiantribune.com) 

 外務省がこれまでどおりの規定路線を取り続けるのは、2003年東京会議当時の新ODA路線マニュアルに従わざるを得ないからだ。東京会議のために描かれた「紛争と開発:JBIC の役割」(スリランカの開発政策と復興支援・国際協力銀行)が垣間見せてくれたスリランカ紛争解決への大団円のシナリオはとっくに反故となっているのに、いまだその三流劇画サスペンスとしか言いようのない荒唐無稽な大団円のストーリーのままにドラマが演じられている。東京会議を契機としてドナー各国・機関からスリランカに注入された援助資金は紛争の火種に油を注いでいるのに、次のドラマを仕立てて和平へのストーリーを語ることができない。
 事態は流れて進んでゆく。饒舌すぎる「紛争と開発」のシナリオ(その117-119ページはお笑い種だ)に一度登場するドイツのバーゴフ財団はドイツのスリランカ支援見直しとともに変形して生き延びてゆくのに、スリランカ再生シナリオの原作者である日本政府の国際協力銀行は来年解体され滅び去る。スリランカ再生の原作者は消える。

そのシナリオには書き込まれなかったが、欧米三国とは違って日本にはスリランカとの現状の関係を維持しながら関わりを続けなければならない特別な理由がる。
 経済政策一本やりだとか、日本向け石油タンカーの往来の安全のためだとか、国連での賛成票欲しさだとかの言い古された功利の理由が日本のスリランカ援助の陰口として叩かれることはあるだろう。
 だが、日本の戦後のODAが戦前の朝鮮でのダム開発の延長路線であったり、戦後のアジアへの賠償を再び吸い上げるあくどさを持っていたにしても、戦前の思想家たちが夢想した汎アジア主義を批判しながら新たなアジア連携の樹立を模索する人々や、戦後のサンフランシスコ条約でスリランカの故ジャヤワルデネ首相が日本独立のためにオペラ・ハウスで熱弁を振るった経緯を知る人々は、日本がスリランカに対して、それでも援助を続けると言い張ることの意味を知っている。ただ東京会議の失敗を引きずる後では、政府軍の音速爆撃機が復興援助を爆弾に変えてタミルの村に落とす現状の中では、その特別な事情を説く事前の説得力さえ今の日本は失っている。

 BBCサンデーシャは先月末の29,30日、2日間にわたってジャヤンタ・カルナティラカUNP報道官の声を流した。「コロンボを国防長官が車で通るとき、人々は長官の車を見ることを制限される。車道に首を向けてはならず、歩く方向をも見られず、ただ、建物の壁に顔を向けさせられる。学校へ行く子供でさえそうさせられる」
 UNPはシンハラ市民の身近に起こる不安をあおりマヒンダ政権の転覆を狙っている。
 チャンドリカ・クマーラトゥンガ前大統領は今月下旬にスリランカへ戻り政治活動を再開するとマヒンダ政権に対し宣言した。
 今日4日、明石日本政府特別代表は日本を発った。火曜から金曜までの4日間スリランカに滞在し、東京会議のシナリオを再演する。
 
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 ズリンがコロンボを再び空爆するのではないかという不吉の予感は、かつて日本がかの島国にもたらした爆撃の悪夢を呼び起こした。南雲部隊の空襲で疎開を余儀なくされた時代が人々の心によぎる。あのときコロンボの人々は牛車に世帯道具を積んでコロンボを逃げ出した。ズリンの空爆後、千ルピーを手にしてガソリンスタンドに立ち寄り、コロンボを離れ山中に一時疎開したのは私の友人家族ばかりではない。