おしんでシンハラ語 2
浅草の髪結い師匠おたかさんとの会話2 シンハラ語版「おしん」part52のユーチューブを読む 2015 Jan 09
前回の話に先立つシンハラ語版パート52のおしんと髪結のお師匠おたかさんの会話。酒田へ行かせてほしいというおしんに師匠のたかがあれこれと面倒を見る場面。
シンハラ語を話すおしんは相も変わらずサマーワンナと口走る。サマーワンナ。ごめんなさい。すみません。エクスキューズミー。パードンミー。サマーワンナって、すまんな、に聴こえてしまう。すまんな=サマーワンナ、て素直に入ってくる。
-加賀屋の異変を知らせる手紙を受け取ったおしんは髪結いの師匠たかに暇を取らせていただきたいと願い出る。二人の会話。
おしん
සමාවන්න මැඩම්, මම ඒ ගොල්ලන්ට ණය ගති.
(読み)サマー ワンナ、マダム、ママ エ-ゴㇽランタ ナヤ ガティ。
(直訳)すみません、マダム。わたし、あの人たちに 借りが あるんです。
(日本語台詞)。大恩あるお人です。
●エ-ゴランタのタはシンハラ語のニパータ。「あの人たちに」の「に」に当たる。シンハラ語のニパータは日本語の助詞とほぼ一致。 |
ඔය මරුවේ දරුවම පුංචි කාලේ ඉගෙන මමයි බලා ගත්තෙ.
(読み)
オヤ マルウェ ダルワマ プ ンチ カーレ イゲナ ママイ バラーガッテ。
(直訳)あの なくなった 子は 幼い とき 学んだ(学校へ行っていた)私も 面倒を見ていました。
(日本語台詞)。なくなられたお嬢様は私が子守奉公さ上がって…
●ダルワは「幼い子」、語尾のマは協調の接尾辞で「まさに」。「あの子はまさに私が面倒を見た~」という表現。 |
පුංචි කාලේ කරා පින්නෙන් තෙත් ව්වේ.
(読み)…プティ カーレーカラ ピン ネン テト' ウエー。
(直訳)子供のころ、純真な いい子 でした。
(日本語台詞)…私の背中で大きくなり、---
මං දන්නව, මං ගියා කියලා වැඩක් ඉන්නෙ නැහැ.
(読み)
マン ダンナワ。 マン ギヤー キヤラー ワダック インネ ナェハェ。
(直訳)私分かってます。私 行った と言っても 役に いない。
(日本語台詞)私は行っても何の役にも立たねえけんど…、
●ギヤー(行った) は動詞過去形。キヤラー(言った)は完了形。「行ったと言っても/行ったにしても」の言い回し。「インネ ナェハェ」は「い-ない」。おしんは「ない」をナェーと言わずに、古風にナェハェと言ってる。 |
ඉක්මනට තේරෙන පවුලකට තියෙන්නේ දුක.
ඒකයි,මට ඕනෙ ගොඩ වැඩේ වාඩි වෙනවා.
(読み)
イクマナ テーレナ パウラワカタ ティエンネ ドゥカ。
エーカイ、マタ オー ネ ゴダ ワェデー ワーディ ウェンナ。
(直訳)今 知った 家のほうに あるのは 悲しみ。
それで、私に 行きたい(気持ちが) 殊更 大きく なって。
(日本語台詞)…大奥様や若奥様の気持ちを思うと
何としてでも行かねぇと気がすまねぇんでんす。
●マ
タはママ(私/主格)+タ(ニパータ/方向を示す)で与格の言い回し。この後に無意志動詞が来れば無意志文になる。ここではウェナワを補助動詞とするワー
ディ・ウェナワが来るので、おしんは「行こう」という意思を固めているのではなく、行きたいという気持ちがなぜか強く湧いてくる、という表現になってい
る。これがシンハラ語のロジックだ。この言い回しは日本語ほどに引っ込み思案ではないものの、自己を抑えて表現する日本語の気分に近い。 |
මට සමාවන්න. මේ රේණු කරනුවට.
(読み)
マタ サマーワンナ。メー レーヌ カラヌワタ。
(直訳)私 ごめんなさい。こんな つまらないこと して。
(日本語台詞)勝手なことはよく…
●「マ
タ サマー
ワンナ」は一人称のママにニパータのタを付けてマタ(私に/与格)を作り、サマーワ(陳謝/名詞)に自動詞・無意志動詞を作るウェナワ(補助動詞)を付け
たフレーズ。辞書形のウェナワがワンナという連用形止めになって丁寧な呼びかけを表す。本来、ワンナとなるところだけど、慣用でウェンナとなる。これ、お
しんの得意なフレーズ。日常語だが、おしんはこのフレーズをちょいと使いすぎ。
これを「ママ サマーワ-カラナワ(私は・陳謝-する」などと直截に言わないことに注意。マタの与格主語表現、もっともありふれた、いかにもシンハラ語
らしい言い回し。サマーワンナはexcuseよりsorryに近いのだけど、マタ サマーワンナはsorry
meと言っている感じなので、なんか自虐的。 |
たか
අඃ, මේක තියාගන්න.
(読み) アア、メーカ ティヤーガンナ。
(直訳)ああ、これ 取っときな。
(日本語台詞)これで足りるかい?
おしん
බොහොම ඉස්තුති මැඩම්. හකි ඉක්මනින් ආපස් ගෙවන්නම්.
(読み)
ボホマ ストゥーティ マダム。
ハェキ イクマニン アーパス ゲワンナム。
(直訳)有り難うございます、マダム。
できるだけ 早く お返しします。
(日本語台詞)有り難うございます。必ずお返しいたします。
●ゲワンナムのナムは強調を表すニパータのナムnamではない。ゲワン+ナムではなくてゲワンナ+ム。話者の意思を表す動詞語尾のム/mだから、おしんはやっぱり意志が強いという人物設定がにじみ出る。 |
たか
අඃ, කරදර වෙන්නෙ එපා.
(読み)アア、カラダラ ウェンネ エパー。
(直訳)ああ、心配 いらないよ。
(日本語台詞)いいんだよ、そんなことは。
●カ
ラダラ(心配)はウェナワの補助動詞を付けて「心配する」と言う動詞を作る。「~する」はカラナワを補助動詞に使うが、日本語で言う「心配する」は本来
「心配になる」と言う意味を持つことが、つまり無意志表現だということがこのシンハラ・フレーズから見えてくる。「心配」は私が「する」ものではなくて
「心配」の種がどこからか飛んできて、私の中で目を出して、それで「心配になってしまう」ものなのだ。 |
මහන්සිවෙර හොඳට වැඩ කළා. ඔය සල්ලි ගන්න.
(読み)
マハンシウェラ ホンダタ ワダ カラー。オヤ サルリ ガンナ。
(直訳)一生懸命 ほんとに 働いた。 あんた、お金 取りなさい。
(日本語台詞)。今までよく働いてくれた。私の気持ちだよ。
●ホンダタ・ワダ・カラーのワダ・カラーはワダ・カラナワカラ(仕事・する)の過去形。「仕事」は「なる(ウェナワ)」ものではなくて、明白に「する(カラナワ)」ものだ。上のフレーズのカラダラ・ウエンネの言い回しと比較して。 |
ホンダタは、ほんとに、のこと。大げさに言いたいとき、何でも構わず、ホンダタ、ホンダタ、と言う。シンハラ語の気分は日本語気分だね。ホンダタ、ホンダタ。ほんとに、ほんとに。
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