QアンドA87
「行くことはない」という不要を表す言いまわし
シンハラ動詞は日本語の動詞のように活用します。
動詞活用で肝心なのが語幹と活用語の絶妙な取り合わせ。
動詞語幹の連用形に打ち消し語をつけると日本語の不要をあらわす言い回しになるという優れ技がシンハラ動詞にはあるんです。 |
No.87 2008-Mar-03 2015-Apl-14
日本語学校文法に沿って理解するということ
「行く必要はない」の代わりに「行くことはない」といっても意味は同じ。「必要」という単語を省くだけ軽い言い回しになっている。
この言い回しをシンハラ語の動詞に当てはめるとどうなるか。
「行く」を意味するヤナワ(終止形)の語幹は「ヤ」。この「ヤ」が未然形で「ヤ-ンネ-」、連用形で「ヤ-ンナ-」と活用する。
未然形語幹の「ヤ-ンナ‐」に打ち消し語「ナェ(ない)」をつければ「ヤンネ-ナェ」(行か-ない)となり、連用形語幹「ヤ‐ンナ-」に「オーナェ(必要)」をつけると「行くことは必要→行かねばならない」となる。更に「オーナェ」の後に「ナェ」を付けて、「ヤンナ・オーナェ・ナェ」とすれば「行くことは必要・でない→行くことはない」となる。シンハラ語の動詞は膠着語独特の単語後付をすると、どんどん意味が膨らむ。
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語幹/ya- |
活用語尾 |
未然形 |
ヤンネ ya-n'ne-
行か- ik-a-
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ナェ naee
ない -nayi
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連用形 |
ヤンナ ya-n'na-
i行き- ik-i-
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オーナェ oonae
たい -tayi
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終止形 |
ヤ ya-
行く- ik-u
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ナワnavaa
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連体形 |
ヤナ ya-na-
行く- ik-u-
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(エカ) (eka)
(こと -koto)
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※連用形の語幹ヤンナに未然形の活用語尾ナェを加えると「行くことはない」という表現を作る。 |
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ところで、連用形語幹「ヤ-ンナ-」ය-න්න - に直接、打ち消し語「ナェ」නෑ をつけると「ヤンナ・ナェ」යන්න නෑ となる。だが、これはこれは打消しの語法にはならない。「ナェ(ない)」は未然形の「ヤ-ンネ」に付いて初めて打消しを表すからだ。
でも、この打ち消しにならない「ヤンナ・ナェ」が口語で使われることがある。
「ヤンナ・ナェ」をそのまま訳せば「行くこと・ない」となる。そして、この日本語訳のとおりに「行くことない(行く必要はない)」という意味をつくってしまう。
シンハラ語の動詞活用はサンスクリット文法の動詞変化を当てはめてもどうにも解けない。だけど、日本語の動詞活用規則を当てはめると面白いほどに簡単に読み解くことができる。
以上は日本語の学校文法に合わせて理解するシンハラ語の動詞活用の解釈法だけど、同じように学校文法チックな解釈でシンハラ文法にせまれば、これ以外の品詞でもすんなりとその仕組みや規則性がわかってしまう例は案外に多い。
右表はシンハラ動詞の活用例。日本語は音節文字で表記するから活用規則を子音と母音に分けるところまで入ってはいけない。シンハラ語も同じように原則は音節文字。でも、この文字は理論的で、「あいうえお」の母音文字以外は「あ」音の文字に子音記号を加えると子音が表記できる。日本語の動詞にもアルファベット表記を加えたので、両者を見比べてほしい。シンハラ動詞も語根と活用語尾に分けられることがわかるだろう。シンハラ語の動詞は日本語の動詞以上に活用が複雑で、こんな風にすべての動詞が分解できるわけじゃないけど、動詞活用ルールが基本的に適用する。
でも、ヤンナ・ナェが「行く必要はない」という意味を作ってしまうのはそのルールとは離れた例外の活用形。この例外ってやつが面倒で、だけど、実に面白い。
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