No-85 2008-Mar-03 2018-May-30
グーグル・ブック検索で本を探したら…
知りたいことをキーワードに書き込んで「グーグル・ブック検索」に掛けると、そのキーワードが載っている本をずらりと並べて、たちどころに内容を表示してくれる。
例えば、「夏目漱石」「コロンボ」の2語をブック検索のキーワードにかける。すると、漱石に関する書籍に掲載されている「コロンボ」の部分が抜き出されてグーグル・ブックの窓に表示される。
この検索システムを初めて使った私は実に驚きました。なんと、私の「熱帯語の記憶・スリランカ」の漱石に関するページが出てきたではありませんか。
これは便利だ。どんな本でもこれで探り出せる。と、思わず歓声を上げた。
「でも、待って。この『熱帯語』の内容はいったいどこから出たの?」という疑問が後出しで湧いてきました。グーグルに本を送っていない。贈ってもいない。著作者の知らないところで誰かが著作物をどうにかした?
狐につままれた気分です。ちょっとグーグル・ブックスのことを調べました。そうしたら、米国写真家協会からグーグルが著作権侵害で裁判をおこされていることを知りました。知らないうちに作品が市場に無料で提供されていることに写真家協会から異議申し立てがなされていました。
私は出版舎に私の著作のことを尋ねました。私に了解なく私の著作物をグーグルに送っていたことを知らされました。
出版舎としてはグーグル・ブックスが販売戦略として大いに利用できると踏んだのです。 私は米国写真家協会のようにこの行為を拒絶しました。グーグル・ブック検索で著作者の知らぬままに出版物の情報が流されてしまうのはかなわない。出版契約の解除を出版舎に申し入れ、すべての本の権利を引き上げ、本に関する情報を当方にまとめることにしました。出版舎はグーグルブックスから私の著作を引き上げる手配をしましたが、何とも後味の悪い結果を生じました。
現在のグーグルブック検索は、著作の内容をページ立てで開示することはなくなり、その表示もページあたり100文字の、ごく一部分の表示になりました。しかし、何か不穏で、KhasyaReportでは手元に置いた著作物をグーグル・ブック検索へ提供することを留保しています。
また、当方では現在、出版物を独自に扱っております。
著作の権利は当方にありながら、発売に関する権利を他舎にゆだねる契約をしておりました。結果、グーグル・ブック検索のようなことが起こりました。
このグーグルブック検索事件が米国で和解した2年後、日本にアマゾンのキンドルが上陸しました。
グーグルが世界中の図書館の貴重な資料を無料で収集して世界中の人々にあまねく無料で開示しようとしたのに対して、アマゾンは「恐竜のしっぽ」に見立てる著作物をあまねく収集して、キンドル価格の安さで世界中の人々に提供します。有料ですからグーグルの無料のブック検索システムには太刀打ちできないと思われるでしょうが、キンドルは「本の中身のすべて」を読者に安価で提供します。その一方、グーグルは「本の一部」を読者にタダでちらつかせて、食いついた魚から脛を丸ごとむしりとります。キンドルは商品の商業流通という点でグーグルよりもはるかに画期的なシステムです。しかも、著作権管理も含めてキンドル化された本を一元管理するという包括的なシステムです。どんなに小さな出版者(社)であっても権利を阻害されず、販売によるロイヤリティを受けて「恐竜のしっぽ」として生存できる。
以上のような状況などから、「熱帯語の記憶」や「南の島のカレーライス」をグーグルブックスから引き揚げ、同時にそれらの出版権も出版舎から引き揚げて、当社で管理するようにしました。
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