シンハラ語の起源はスンダランド?
  Sinhala QA75

2008-Mar-03 2015-May-12

 「縄文語」復元の試みで、崎山理氏の説によると、語彙は、ツングース系よりも、オーストロネシア系の言葉が多いとされているようです。シンハラ語の起源を、オーストロネシア(さらに、スンダランド)と結びつけることは可能でしょうか?


ウェッダ人の言語とオーストロネシア

 百年前、人類史の探求に余念のない英国人たちはスリランカのウェッダ人veddasをプリミティブな、稀有な人種として競って探求していました。
 その中に、ウェッダ人の言語に触れて「ウェッダ語はシンハラ語の方言といえるほどにシンハラ語に近く」、そのために、「ウェッダ語の祖形をたどることは困難」と指摘した研究者がいました。
 その発表があった50年ほど後、シンハラ人研究者がウェッダ研究の一書を著わして約600ほどのウェッダ語彙を紹介しました。そこに挙げられたウェッダ語のほとんどはシンハラ語そのものか、その派生、またパーリ・サンスクリットからの借用語ばかりで、ウェッダ人はシンハラ人との接触が長く続いたため、プロトタイプの、正真正銘のウェッダ語彙はたずねにくいのだ、とあります。
 その当時、シンハラ語の姻戚としてムンダ語とウェッダ語が指摘されていました。でも、スンダランドも、オーストロネシアという名もシンハラ語との関連では触れられていません。当時、そして時々現在でも、シンハラ語はアーリア語から派生した言語でなければならないとされたのです。
 現在、ウェッダ語はオーストロネシア語族に分けられます。この分類がどれほどの意味を持つのかわかりかねますが、シンハラ語との関係は遠のいたような感があります。シンハラの民族と文化はアーリアでなければならないからです。
 それでも、リチャード・スピトルのようにオーストロネシアを含めてシンハラ語は形成されたとする研究が英国ではなされています。

 オーストロネシア語というのはかなり大雑把な分け方です。今のインドネシア当りを中心として、マダガスカルや台湾までが含まれてしまうのです。スンダランドはこの中に納まっています。

伝説のスンダランド

 スンダランドは遥かな古代、海中に没した伝説の大陸。大洪水が起こり巨大な島が沈みました。水没した土地から逃れたスンダランドの人々は周辺の島々やアジア大陸へ移動しました。その移動は日本列島南端の沖縄にまで至り、沖縄で発見された港川人はスンダランドの海没を逃れて海を北上した人々であるという説が行き渡るようにもなりました。それは生存を賭けた人類の飽くなき足取り。「日本人、はるかな旅」でNHKが取り上げたスンダランドの奇跡は日本人起源説への冒険。
日本人 はるかな旅 スンダランド(2001放送)

 このスンダランドの人々の末裔が話す言語がオーストロネシア語族に組み入れられ。この言語グループにウェッダ語が加えられています。
 シンハラ語とウェッダ語との間に統語・語彙・意味の3形態で関連が指摘されるならシンハラ語もオースロネシア語族でありうるのです。
 大変なことです。シンハラ語はアーリア人のことば、インド・ヨーロッパ語でなければならないのですから。

 百年前、英国人らによるウェッダ研究はウェッダ語とシンハラ語に混交のあることを指摘しました。でも、ウェッダ語の祖形は不明でシンハラ語と比較することも出来ないのです。また、オーストロネシア語の研究に現れる基礎語彙はシンハラ語と関連を持ちません。

 かつて英国人H・パーカーは『古代セイロン』で「シンハラ人は既にオルワという単語を持っているにもかかわらず、新に同音のオルワという単語を語彙に加えた」と指摘しました。シンハラ人は身体語彙として「オルワ(頭)」をすでに持ちながら、のちに外来の「オルワ(刳り舟)」を語彙に加えたというのです。
 その昔、カヌーを海原に滑らせてスリランカにやってきた人々がいた。その人々の言語はシンハラ語とは異質なものだった。
 ウェッダ語はシンハラ語を話す部族との接触で消えゆくと、パーカーは嘆きました。シンハラ人は彼を「白いウェッダ」と呼びました。ウェッダも、スンダランドも、現代シンハラ人には無縁のこと。

 NHKのおかげで日本でやたら高名になったスンダランドはインドでも話題に上っています。

Adaptions in North India caused Aryan race and adaptions in
population who settled in South later caused Dravidian race.
Both races have same origin.
How Dravidians are different from Aryans? /india-forum.com

 こちらのブログでは、アーリア人とドラビダ人のルーツは共にスンダランド人ということになっていて、多民族国家の憂鬱を抱える社会はスンダランドに国家統一の希望を託している、と読み取れます。ジャワ原人を生んだであろう幻のスンダランドは混乱するダイバーシティの多民族国家インドでは希望の大陸なのです。