名詞には女と男の別があるが…

シンハラ語質問箱 Sinhala QA70
2008-Mar-03 2015-May-12 2018-Dec-21



 「シンハラ語の話し方」には「友だち」が男性なら「ミトゥラමිත්‍රය 」、女性なら「ミトゥリමිත්‍රී 」と言うと掲載しました。でも、「友だち」が男性が女性か、まだ分からないときはどう言えばいいのか。



名詞をジェンダー・フリーにする

 「友だちが男性か、女性か、分からないとき、どう言えばいいのでしょうか」と「シンハラ語の話し方」の読者の方からご質問のメールをいただきました。
 シンハラ語の名詞には性の別があります。例えば、「友だち」という場合、男なら「ミトゥラヤ」、女なら「ミトゥリ」と言います。では、「友だち」という言葉を男女の別にこだわらず呼ぶにはどう言えばいいのでしょう?
 日本語には名詞の性別という分類範疇がありません。だから、「名詞には男女の別がある」などと言われると困惑してしまいます。世間には性の尊卑があふれかえっているというのに。男ことば、女ことばのボーダーが明瞭なのに。でも、名詞というくくりで捉えるとそこに性別は、なぜか、ない。
 フランス語の場合、「海(ラ・メール)」は女性、「世界(ル・モンド)」は男性などと、徹底した男女区別がある。
 そう言えば、この間買い求めたストウブの鉄鍋はあんなにごっついのにLA COCOTTEと蓋に書かれている。「鉄鍋」はLAがついて女性になっているのだ。
 でも、鉄鍋だぞ。ごっつくて黒々して重たいから「男」じゃないか? それとも、小さな火力でいつまでも柔らかな熱を保つから「女」? COCOTTEには「かわいい雌鳥ちゃん」という意味もあるとか。ああ、わからない。

 シンハラ語にも名詞の性別がある。これってどう分類されて男と女に分かれるのでしょうか。
 「シンハラ語の話し方」でシンハラ語には「いる」と「ある」という言い方があるということをご紹介しました。「いる」「ある」は存在を表す動詞です。
 存在動詞は日本語と同じように「命あるもの(生物)」を表すとき「いる」にあたる「インナワ」を用いて、「命のないもの(無生物)」を表すには「ある」にあたる「ティエナワ」を使う。ティエナワは口語で使っていて、文語なら「アタ」と書き表す。シンハラ語の「アタ」は日本語の「ある」そのままの雰囲気。シンハラ語テレビのニュース番組でアナウンサーは文語で話すから、しょっちゅう、「ある」を表す「アタ」を耳にします。
 「命あるもの」を言い表す名詞は男性と女性に分けられる。「命のないもの」に性別はない。フランス語のようにシチュー鍋にまで性を付与することはありません。
 性別は名詞の語形を変えるて表す。冠詞で性をあらわすということはない。語形をすべて替える、語末の音節の母音をa音からi音に挿げ替えるといった方法がとられます。
 でも、これだと困ったことが起こります。男と女を含んだ名詞はどうあらわせばいいか。たとえば、「友達」をシンハラ語で言うとどうなるか。  

ポドゥ・リンガපොදු ලිංග の文法規則


 シンハラ語にはポドゥ・リンガපොදු ලිංග podhu lingaという文法規則があります。
 ポドゥ・リンガは男性女性の双方が含まれる名詞に適応される法則です。「赤ちゃん」「子供」などがこれに当たります。そう、「友だち」もこれにあたります。
 ポドゥපොදු は「二つの」「共通する」という意味。リンガලිංග は「性」のことですから、ポドゥ・リンガは「両性名詞」「通性名詞」という事になります。男性と女性を含む複数を表す名詞はこのポドゥ・リンガපොදු ලිංග で表します。
 「友だち」は両性名詞ですが、はて、困ったことがあります。シンハラ語の「友だち」は男性がミトゥラ මිත්‍ර で表され、女性がミトゥリමිත්‍රි で表わされます。両性名詞としての語形がありません。
 ポドゥ・リンガの文法規則はそこで一つの提案をします。
 男性女性が入り混じる名詞には男性形を用いる、という提案です。「友だち」が男性か女性か分からないときには男性形を使っておこうというのです。ですから、「あなたのお友達の名前は?」と聞くとき、その友達のせいが不明なときでも、

ඔයාගේ මිත්‍රගේ නම මොකක්ද?
oyaagee mithra-gee nama mokak-da?
オヤーゲー・ミトゥラゲー・ナマ・モカッダ?
あなたの 友達の名前 何?


と男性名詞のミトゥラ මිත්‍ර で訊くのです。
 女性同士の会話で言及された「友だち」が女性だと想定される場合でも男性形で言い表します。当然、女性だと想定される場合でも、です。 シンハラ語では「全員が女性」であっても「ミトゥラ」という男性名詞を使いますから、どうも男性優位という歴史の残像が言語には根強く残されている気配です。

 スリランカは女性優位だった。
 スリランカ・マーター。母なるスリランカ。これがシンハラ語の原初です。
 はてはて、日本語の原初は男の言語、女の言語?