Kandyフォントの起源はサンスクリット

シンハラ語質問箱 Sinhala QA65
2006-4-25 2015-May-18



 Kaputaフォントの文字は日本語の丸文字みたい。でも、Kandyフォントの文字は角の取れた明朝体のよう。そういえばシンハラ文字はみんな角の取れた明朝体のようで、太いところと細いところがある。どうして?…

 

Kandy書体の手本はサンスクリット

   明朝体は中国の筆文字のイメージから作られています。現代の明朝体の基本は明の時代の文字です。でも、中国の文字は漢字しかありませんから、ひらがなやカタカナの明朝体なんて中国語にはありません。ひらがなの明朝体は日本独自のオリジナル。この日本人が発明した明朝体ひらがながシンハラ文字の書体、たとえばカンディ・フォントのスタイルによく似ています。
 また、印刷文字で使っていた日本語のゴシック体はデジタルにそのまま移行して使われています。これはペンで書いた西洋のアルファベットが手本です。ひらがなのゴシック体はカプタ・フォントの線の流れによく似ています。

Kandy font
たとえて言えば丸明朝体
Kaputa font
たとえて言えば細ゴシック体


 シンハラ・フォントのKandy書体、このお手本はサンスクリット文字にあります。太い線と細い線を組み合わせて、ときに角ばり、ときに柔らかな曲線を描く。印象としては角ばった記号に見えます。シンハラ文字はこの流れを引くブラーフミー文字の書体から進化して、丸文字傾向に流れてゆきます。
 ブラーフミー文字はスリランカの岩山の祠の入り口に刻まれています。それらには文字の姿の美しさなど望めません。パーリのお経を書き写した古代シンハラ文字はやしの葉でつくった紙に鉄筆で引っかいて表しました。文字の太さは一様です。細ゴシック体のような、形状としては丸いようなとがったような文字になっています。これも味気ない細ゴシック体のよう。

サンスクリットは「明朝体」

 でも、サンスクリットは味わい深い「明朝体」で書かれています。これはカッターの刃のような形に斜めに切れ込みを入れた鉄ペンを斜めに動かして葉に傷を付けながら書き込んでゆきます。この傷にヤシ油で溶いた煤を埋め込めば、毛筆で書いたように太い部分と細い部分が浮かんできます。
 このサンスクリット明朝体文字を再現しようとするなら、コンビニで売っている筆ペンの硬筆タイプを選んでお習字すればなんとなくサンスクリット文字が再現できます。もっともウェブでは細ゴシック体のようなサンスクリット・フォントがもてはやされていて、これではサンスクリット文字の魔力も消えうせてしまいそう。

 サンスクリット「明朝体」はデーワナーガリ、ヒンディにつながります。また、海を渡ってランカー島へ行き、シンハラ文字の優雅な丸文字へとつながります。サンスクリットの優雅な書体をウェブで探すのはなかなか厄介な作業になってしまいましたが、A Practical Sanskrit Introductory/ Charles Wiknerのサンスクリット文字はきれいな「明朝体」です。

 さて、シンハラ書体のセンスにこだわる「かしゃぐら通信」は無粋とも取れるゴジック体Kaputaフォントを推奨しています。話の進行からすれば納得しにくいでしょうが、そこにはこんな理由があります。
 キーボードで文字を打ち出すとき、もっとも合理的にストローク出来て、文字打ちに負担がかからないのはKaputaフォントです。その点でKaputaフォントに勝る書体が、残念ながら、ないのです。書体の雰囲気はサンスクリット由来にもとるけど、文字打ち出しの便利さはKaputaに勝るものはない。

 でも、安定感があって伝統を踏まえた書体はサンスクリット由来の書体です。この延長線上にシンハラ書体の定型を導き出すタイポグラフィの勇者は居られないのでしょうか。
 見た目はサンスクリット正統派志向のKandy書体であること。それをKaputa式にキーボードのアルファベット・キーだけを使って打ち出せること。そして、ウィジェーセーカラ・ストロークにこだわらず、アルファベット表記のキー・ストロークでシンハラ文字を表示する。そうしたフォントを開発するシンハラの方はおられないでしょうか。


 シンハラ・ユニコードがウィジェーセーカラ配列で作られましたが、これをシングリッシュSinglishのタイピングで打ち出すソフトが開発されています。デフォルトはスクール・ポタというkandyフォントに似た書体。シンハラ文字のユニコード版も多様に開発されていて、Kaputa2004のユニコード版もあります。2015-May-18