シンハラ文字の旗坊マークはどうして出来た?

シンハラ語質問箱 Sinhala QA65
2006-2-13 2015-May-17



シンハラ文字は日本語の「あかさたな」と同じ音節文字。「ア」行を除いて「子音+母音」がワンセットの音のまとまり(音節)になっている。この音節文字に”旗坊"マークをつけると子音が作れる。これってなかなかのアイデア。誰が考えたのかしら?

 

音節文字から子音を作りだす二つの"ハル"記号

   例えばシンハラ文字で「か」はの文字。ここに“旗坊“を付けてක් 文字の右上の記号にご注意 とすれば「かka」から母音 a が取れて子音の k だけになります。
 この"旗坊"を"ハル記号"と呼びます。“ハル”は音節文字から子音を作りだす記号で、この子音抽出をハル・キリーマと言います。
 インドや日本のことばは原則、1音節(子音+母音)のまとまりが音の最低単位。音節毎に音を捉えて聞き分ける。そして、日本以外の音節文字を用いる言語は子音だけの音も聞き分けて子音文字を音節文字から抽出します。シンハラ語の場合、ハルの記号を文字の肩や頭に乗せて子音を作ります。
 
 “ハル“には文字の形状に合わせて用いる2種類のサインがあります。
 ひとつは上の「kaか」の例のようにKaの文字などに載せる"旗坊"コディකොඩි 。また、もうひとつはmaの文字などにかぶせるです。こちらは通称「縄」ラェハェナරැහැන 、縄のようにくねって文字の上に載っています。
 "旗坊"の場合、Kaputaフォントではのように縦棒1本で簡単に表しますが、本来はのようにたなびく旗の形です。
"旗坊"と"縄"の正式名称は、シンハラ語で“ハル・ラクナ“。“ラクナ“は「記号、マーク」という意味です。


 この子音記号はシンハラ語独自のデザインですが、同じような記号はサンスクリットにもあって、やはり、その記号は“ハル“と呼ばれています。ただし、サンスクリットでは文字の右下に右肩下がりの線をひいて“ハル“マークとしています。
 サンスクリットでは”ハランタ“。”ハランタ“は一語のようですが、もとは”ハル+アンタ”の2語で、「ハル+止め」のこと。サンスクリットでは“ハル“が子音を表しますから「子音止め」ということになります。この「子音止め」をシンハラ語ではハルするという言い回しで表して、“ハル・キリーマ“と言います。

 シンハラ語は本来、異なる子音を並べる音はなかったとされています。二重子音はなかったのです。もちろん、三重、四重子音というものもありません。サンスクリットではK,M,N音などがその発音の性質から二重になることが頻繁に起こります。
 サンスクリットでは異文字の重なりが1音として理解されますが、シンハラ語では“ハル“して子音を作ってはじめてその子音が1音として生きてきます。

 シンハラ語文法はサンスクリットの文法用語を借りて自らの文法を語りますが、サンスクリットとシンハラ語はまったく性格の異なる言語です。文の作り方が違うし、個別の品詞も、たとえば名詞の格変化や動詞の屈折(シンハラ語の場合、屈折ではなく活用です)が異なります。シンハラ語がサンスクリットから借りて来たのはその文法用語名だけということが多く見受けられます。

 さて、サンスクリットの子音止め法がシンハラ語ではなぜ変化したかと考えると、これはシンハラ語の領域を離れてしまって、私には到底見渡せない。
 アーサー・C・クラークがスペース・オデッセイで生み出したコンピューターの“ハルhal“が元気なうちに旗坊の訳を訊いておけばよかった。