象は鼻が長い シンハラ語でどう言う?

シンハラ語質問箱 Sinhala QA60
2006-01-23 2007-12-09 2009-07-30 2015-May-26


 日本語文法の奇妙さが引き合いに出されると決まって「は―が」構文が揶揄される。「は」「が」は共に主語を表す助詞です。だから、「象は鼻が長い」は主語が二つあって文法破綻している、とそう言われるのです。はて、日本語の「は‐が」構文をシンハラ語はどう表現するでしょう?…
 

「は―が」構文をシンハラ語から読めば…

  日本語文法の奇妙さが引き合いに出されると決まって「は―が」構文が揶揄される。「は」「が」は共に主語を表す助詞です。だから、「象は鼻が長い」は主語が二つあって文法破綻している、とそう言われるのです。
 「は」「が」の助詞は主語を表す。ここには主格主語が二つある。だから、どうにも英語に訳せない。The elephant is nose is long では文にならない。グーグル翻訳は、Elephant has a long noseと訳してくれるけど、これは意訳で日本語文の影も形もない。これだと「象は長い鼻を持っている」だから主語の問題をスルーしています。

 では、「象は鼻が長い」をシンハラではどう表現するでしょう?ちゃんと「は」「が」を使い分けいる?  
 テキスト「シンハラ語の話し方・増補改定」の助詞(ニパータ)の章で触れていますがシンハラ語には日本語の「は」「が」にあたるニパータがありません。
 シンハラ語には日本語の助詞に対応するニパータが必ずあるのですか、この「は」「が」だけは対応するニパータがないのです。日本語だって昔は「は」「が」を使わなかった。たとえば「伊勢物語」に「は」「が」は出てこない。だから「象、鼻長き」みたいに昔は言っていた。
 シンハラ語には主格を表す形態素(助詞、ニパータ)はない。それは、つまり、「象は鼻が長い」は「アリヤ(象) ナーハヤ(鼻) ディガイ(長い)」とだけ言うってこと?

  アリヤ(象) ナーハヤ(鼻) ディガイ(長い)

 でも、「は」「が」の助詞にあたるニパータがシンハラ語にないのですから、そもそも「~は~が~である」という構文をシンハラ語では作ろうというのが無理というもの。

 「象は鼻が長い」という日本語の二重主語文、割と新しい言い回しのようです。だから、厄介な構文だということになって国語では手を焼いているのですが、この奇妙な「は‐が」文、シンハラ語の与格主語文を用いると文法上も分かりやすく簡単に表現できてしまいます。どういうことかと言うと、アリヤ(象)を与格の主語として表すのです。 

   アリヤ-タ ナーハヤ(鼻) ディガイ(長い)
   象-に(あっては)  鼻(が)  長い

 上記のように転換すると、俄然、日本語の二重主語文が分かりやすくなる。
 まず、「象aliyaaඅලියා 」と言い切ったところで(これが主題)、「にあっては」という説明を加える形態素(ニパータ)を添えてඅලියාට とします。これが与格です。与格だけど、主語。与格主語といいます。次に「鼻naahaනාහ 」が来て、これは文法上対格ということになります。これに述部の「長いdhigayiදිගයි 」を据えて、
අලියාට නාහ දිගයි
 アリヤー  ナーハ  ディガイ
aliyaa-ta  naaha   digayi
象-に(あっては)  鼻   長い
 与格主語  対格目的語  述語

 のようにします。これをそのまま日本語に転換すれば「象に-鼻を-長い」となってしまいます。擬古文を装えば「象(にありては)鼻(をして)長くあり」ということで、シンハラ語の仕組みは決定的なまでに日本語の古文調にできているのです。
 シンハラ文法を蛇足で補えば、象の鼻が長いのはその象の責任ではないので、主格で言い表すのは適当ではない。主格(ここでは象)の意思で鼻を長くしたのではない。ここに与格が主語を演じるという余地があります。主格主語を避ける言葉の意味、シンハラ語の気分は日本語の「は‐が」構文を訳すとき明瞭に現れます。

【参考】 ちなみにグーグル翻訳は「象は鼻が長い」をඅලියාට දිග නාසයක් තිබේ と訳します。これは「象は鼻が長い」のグーグル英訳「Elephant has a long nose」をマシンがシンハラ翻訳した結果です。「象は鼻が長い」が「Elephant has a long nose」という意味を持ちえたとしても文の訳にはなりえていないことを踏まえれば、グーグル翻訳の日本語⇔シンハラ語がまだ使える状況にないことが読み取れます。