あなたは日本語に長けてるのね
シンハラ語質問箱 Sinhala QA57 2005-12-09 2015-May-10 2019-Dec-11
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「日本語に長ける」などという言いまわし、もう死語なのかしら、ついぞ聞かれなくなりました。「日本語がお上手」とは言うけれど「日本語に長けてる」などとはもう誰も言わない… |
あなた、日本語がうまいね
シンハラ人は日本語がうまい。いや、日本語ばかりじゃなくて、ドイツ語もイタリア語も、もちろん英語だって、驚くほどに、ときに女王の国から遣って来る方々以上にきれいに話しさえします。
さて、日本国内でのこと。シンハラ人を迎えたホームステイの日本人がこう言いました。
ඕබ ජපන් භාෂාවට දක්ෂයි නෙ
オバ ジャパン・バーシャーワタ ダクシャイ ネ
ここではシンハラ語で話したかのように書きました、ホームステイの家族が話したのは日本語です。
では、日本語でどう言ったのでしょうか?
あなた、日本語がお上手ね
そう、あまりに日本語が上手なので、そうほめたのです。
ここで、ちょっと文法の問題に焦点を当ててみます。上のシンハラ語は、
1)あなたは 日本語に 長けている わね
オバ ジャパン・バーシャーワタ ダクシャイ ネ
2)あなたは 日本語が お上手 ね
オバ ジャパン・バーシャーワタ ダクシャイ ネ
と二通りに訳せます。1)と2)のどちらでしょうか。どっちも同じ? いえ、ちょっと違うところがあります。
結論から言えば、1)と2)はどちらも正解です。でも、文法上は、1)の「あなたは日本語に長けているわね」が正解です。
さて、これはいったい、どういうことでしょう。例文で太字にした日本語の助詞「に・が」と、シンハラ語の「タ」というニパータの相性にそのポイントがあります。
「かしゃぐら通信」では何度もお話ししているのですが、日本語文もシンハラ文も単語を結ぶつける重要な役割を形態素と呼ばれる助詞とニパータに与えています。形態素なんて突き放したような、そっけない名称ですが日本語をシンハラ語と比較するときにはキーワードになります。
日本語の助詞とシンハラ語のニパータは文を作るとき殆ど同じ役割を果たします。名詞に付いたり、動詞の活用語尾に付いたり、そうやって言葉をつなげていきます。膠着語的な(文法用語のオリジナルな意味とは離れますが)、はがせる接着剤のような役割を持っています。
ඕබ ජපන් භාෂාවට දක්ෂයි නෙ
ජපන් භාෂාවට を「日本語が」と訳してしまうとシンハラ文とはすっきりした関係が結べないのです。「日本語が」の「が」は主格を表す主格助詞。でも、
භාෂාවට の
ට は与格を表すニパータ(助詞)です。
ට は「に」と対応しますが、「が」とは対応しないのです。だから、「日本語
がお上手」ではなくて「日本語
に長けている」なのです。
文法のことなんてどうでもいいんじゃない?と思われる方もおられるでしょう。しかし、「日本語に」と言う予格で言葉を表現すると言うことって、話しての位置をどこにおくかということにもつながって、風土の文化を理解するにはとっても大切なことなのです。この大切さって、ワインを吟味するときのテロワールのようなもの。土地の豊かさ、人の温かさ、そこに生まれる言語の様態のやわらかさ。文法で説明するとなんだかがさがさするけど、日本語で「が」と言うとき、シンハラ語では「に」と言うことがある、って事だけでも心の片隅においておくとシンハラ語の気分が読み取れてくるようです。
ただ、それでも
ට が付く名詞は与格だから日本語では「に」が対応する、だから「「が」とは訳せない、と考える方がおられるでしょう。そのときに1)のように、「日本語に長けている」と訳せばシンハラ語との相性がよくなります。これでシンハラ語の
ට は日本語の「に」と対応して、与格主語という文法処理をすることにまで繋がってしまいます。
シンハラ文法では、
දක්ෂයි のような感性を表す単語の主語はට を用いるサンプラダーナ・ウィバクティ(与格)で表す。
という文法ルールがあります。そう、与格主語なのです。
シンハラ語のサンプラダーナ・ウィバクティは
ට の多岐にわたる用法がありますが、、それらは日本語の「に」の雑多と言えるような用法とよく似ていて、ほとんどが対応してしまうのも、不思議。
サンプラダーナ・ウィバクティは与格である、とシンハラ文法では説明されて、英語で説明されるシンハラ語もそれに習っています。
でも、そうした旧来の文法用語ですんなりと腑に収めるより、サンプラダーナ・ウィバクティは「に格」である、とストレートに、今様のニホンゴ文法的に処理してすっきりと納得するほうがシンハラ語の会話学習には好都合のようです。