トムラウシ山縦走 (3/4)

7月26日 曇りのち晴れ

3時起床。テント内は11.3℃。朝食はうどんだが、湯を沸かし始めたらガスカートリッジが空になった。いつもは3日はもつのに、思ったより早い消費だ。
テントのすぐ近くにシカらしき足跡があった。昨夜のアレはやっぱりシカだったらしい。シカはこの朝も沼の遠くで戯れていた。なんかすごい大自然っぽい。

5:04 ヒサゴ沼発(高度計:1670m)

雪渓
思いのほか斜度のきつい登りの雪渓(05:35)
雪原
雪渓を登りきって振り返る(05:47)
出発する頃にはまた雲が出てきた。
滑落したら沼にドボンのトラバース雪渓は、すぐ目の前を2人が通過中だった。ひとりはテントの人で大荷物、もうひとりはピストンらしくてデイパックのみ。朝早いのでまだ雪が固く、ストックとともにアイゼンが有効だが、我々はアイゼンを持ってきていない。ステップはおろか踏み跡でさえ取り付き点の近くにしかなく、短い距離だが恐怖のあまり通過に15分も費やしてしまった。
次の登り雪渓が近づくと風がひんやりと感じられた。この雪渓もやはり雪が締まっていて、スプーンカットを使ってもちょっと怖かった。迷わず右端の岩塊の上を行った。ここをクリアすれば雪面は平らになって、一安心だ。ちょうど朝日が差し込んできて、雪がうっすらと色づいた。

素晴らしきかな大自然

ナキウサギ
ナキウサギが現れた!(05:49)
雪の上をルンルン歩いていくと、相棒が小さく声を上げた。ナキウサギを発見したのだ。慌てないように、と自分に言い聞かせてレンズを交換して激写した。この日のために望遠レンズを買ったのだ。このナキウサギはサービス満点で、かなり近づいたが逃げなかった。ナキウサギのすぐ近くには野鳥も現れた。ビンズイだった。都会でも見られる鳥だが、自分は初見だったので、これまた嬉しかった。
なおも愛くるしいナキウサギにハァハァしていると左目の隅の方に何か黒い物体が流れるように動いていくのが見えた。・・・あれは・・・相棒とそっと言葉を交わす。「なんかいるんだけど」「うん、見ちゃった」・・・どっから見ても、紛う方なき非常に完璧な熊だった。熊はのんびりと、楽しげに歩いているように見えた。我々だって普段はもちろん熊鈴を鳴らして歩いているのだが、このときはナキウサギ観察のため、息をひそめて物音をたてないようにしていた。そのため熊も我々に気づかなかったのだろう。
距離があるので割と落ち着いていられた。とりあえず写真を撮って、ふと「熊に気付かれたらどうなるんだろう」と考えた。距離はたぶん50mほどだろうが、果たしてこれは熊を刺激する距離なのかどうなのか、まったく見当がつかなかった。熊は我々に気付けば襲ってくるのではないか? 気付かれずにそーっと立ち去ることができるか? そんな具合に固まっていると、熊が何の気なしにこちらを向いた。熊は我々を認めると、「ぁあっ!!!!!」というような顔をして、踵を返して猛ダッシュで逃げて行った。・・・ホッ。前年に尾瀬で熊を見たときもそうだったが、熊を見ても死んだふりをするなんて考えは一切思い浮かばなかった
熊がいなくなってから、少ししてナキウサギも姿をくらました。ナキウサギは結局7分間も姿を見せてくれていたのだった。できあがりの写真は結構ブレていたが、それでもまあまあ満足できた。

6:04 ヒサゴのコル(1770m)

構造土
構造土全景(06:24)
というわけで、雪渓の恐怖と野生動物との邂逅で、コースタイム30分のところを1時間かかった。まあこれは仕方ないだろう。
コルから10分ほど登って台地にあがると、予想通りトムラウシは雲の中だった。まあこれも仕方ないだろう。台地の木道を行くとまたまた野生動物のキタキツネが現れた。嗚呼、大自然。
構造土は相変わらず構造土だった。実は構造土の周辺の花が凄いのだが、道がないので近づけないのが残念。

6:37 天沼(1815m)

天沼
天沼全景(06:36)
涸沼を過ぎて日本庭園の中心・天沼に到着。チングルマは少し花期を過ぎていた。天沼の先のぬかるみの花畑にもチングルマが咲いているが、一部ではまだ生きのいい花も見られた。ここではエゾコザクラが盛りだった。
岩塊地帯ではナキウサギが頻りに鳴いているが姿は見えない。クワウンナイ源流に着くと、この日初めての対向者と行き違った。

7:23 ロックガーデン取り付き(1835m)

ロックガーデン
ロックガーデンが見えてきた(07:12)
ロックガーデン
ロックガーデンを見上げる(07:22)
延々と岩の上の跳び歩きが続く。そのクライマックスはロックガーデンだ。
よくロックガーデンが迷いやすいとか言われるが、自分は、クワウンナイを過ぎてからロックガーデンに取り付くまでの岩塊地帯の方が迷いやすそうな気がする。ロックガーデンの斜面に差し掛かると岩にペンキが付いているが、そこに至るまでの道にはほとんどないような感じがするのだ。視界があっても時々「あれっ、どっちだ?」と思うようなことがあるのだ。

7:56 2000m台地(1960m)

道
ロックガーデン上部のウコンウツギの道(07:48)
道
とうとうトムラウシが出てきた!!(08:08)
ロックガーデンの登りは30分ほど。最初の10分は比較的小さめの岩、次の10分が巨岩の斜上、最後の10分はウコンウツギに囲まれた急登というイメージだ。
ロックガーデンを登りきると、2000m台地の丸い丘の上にトムラウシの山頂が顔を出す。が、ここでも雲が邪魔をしていた。しかし雲はもう少しでとれそうな感じにはなっていた。記憶にないコースロープに導かれて丸い丘を登っていくと、その頂上部あたりでとうとう雲がとれて山頂部が姿を見せた。

8:16 北沼分岐(1980m)

トムラウシ
北沼分岐からトムラウシ山頂部(08:16)
北沼のほとりが北沼分岐で、南沼方面と山頂へのルートに分かれる。我々はもちろん山頂を目指す。この近くから見上げる山頂部は絵になるいい眺めだ。
山頂への道が幾筋もついているが、いつの頃からか付いたコースロープのおかげで徐々に一本化しつつあるようだ。岩の道ではナキウサギが頻りに鳴いている。「熊の目」の水の色が美しすぎる。途中、朝方ヒサゴ沼のトラバース雪渓で我々の前を歩いていた男性がちょうど下りてくるところに会った。

8:46 トムラウシ山登頂(2110m)

十勝連峰
山頂からの十勝連峰の眺め:中央下の湖は南沼(10:03)
4度目のトムラウシ山頂は今までで一番空いていたかもしれない。人は5、6人がいる程度だった。みんなトムラウシ温泉から登ってきた人たちで、同宿で顔見知りらしかった。話しているのを聞くともなしに聞いていると、前夜の東大雪荘は、大部屋の宿泊がたった7人だったそうだ。
真上が晴れていて暑いので岩陰で休もうとすると、たいていキジうちの痕跡があった。しかたなく暑い場所に座っていた。そうこうしているうちに視界はさらに良くなってきた。もう暑いとか言ってらんない。十勝は連峰全体が完全に見えるようになった。北は白雲が見えていたが、旭岳だけはなかなか雲がとれなかった。旭川方面の雲海は凄かった。本州の山だと雲海の向こうに他の山が見えるが、ここはそんなことはなく、余計に広大に見えた。みかんを食べたり、テルモスの温かいカフェオレを飲んだりしながら、そんな眺めを飽きることなく眺めていた。間違いなく、過去3度のトムラウシ山頂よりはるかに良かった。

10:47 下山開始(2105m)

山
山頂部の荒々しい眺め(10:50)
2時間近くいる間に多くの人が登ってきたが、ほとんどが単独か2人組くらいで、とても静かないい時が過ごせた。日帰りの7~8人程度のグループがやって来て一気に騒々しくなったのを気に、下山することにした。当初は南沼を周ろうと思っていたが止め、往路をそのまま帰ることにし、その分の時間をナキウサギ探しのために使うことにした。
この下りでは何人かとすれ違った。美しく青い北沼を見下ろしながらの下りだ。

11:15 北沼分岐(1975m)

道
トムラウシ山をあとに2000m台地の丘を登る(11:18)
北沼分岐で振り返り、あらためて山頂部を眺めた。もうまたしばらくは来ることはないだろうと思うと感慨もひとしおだ。

11:43 ロックガーデン突入(1955m)

ロックガーデン
ロックガーデンを見下ろす(11:51)
ロックガーデン
ロックガーデンに雲がかかってきた(12:24)
ロックガーデンを下りる前にまた振り返り、丘の上のトムラウシを見た。大雪山中でも最も好きな景色のひとつだ。
気分よくロックガーデンを下り、下りきったところで大休止。レンズを望遠に換えて、行動食を食べながらナキウサギの出現を待つことにした。結構粘ったが、ナキウサギを目撃はしたものの、結局写真は撮れなかった。朝、あんなに近くであんなにたくさん撮れたのは、かなりラッキーだったのだ。
休んでいる間にかなり雲が増えてきた。

12:37 クワウンナイ源流(1805m)

12:58 天沼(1815m)

道
巨岩地帯(12:50)
天沼
天沼に戻ってきた(12:56)
天沼でザックをおろしてまた少し休憩した。水面には雲しか写らない。それでもなんだかミョーに暑かった。
歩き出してから、構造土のあたりでトムラウシ山頂は見えなくなった。

13:35 ヒサゴのコル(1790m)

雪渓
雪目に苦しみながらのヒサゴ沼への下り(14:05)
コルで大休止。まだ時間が早いので、化雲岳に登って花畑を楽しんでからテント場に帰るという案が出た。そうすれば、帰りにあの恐怖のトラバース雪渓を通らなくて済む。しかし暑さでかなり疲れている体に化雲岳への30分の登りはちょっと厳しそうだ。ここは素直にヒサゴ沼に直行することとなった。
雲が増えたとはいえ、この一帯の空は見事に晴れていて、雪渓の下りでかなり目を痛めた。結構涙が出てきたので、正直ちょっとヤバかったかもしれない。こまめに立ち止まり目をつぶったりして、注意しながら歩いた。雪の区間は長くないし、ここは耐えるのみ。サングラスを持ってこなかったことを後悔した。

14:36 ヒサゴ沼帰着(1670m)

花
トラバース雪渓付近のエゾコザクラとミヤマキンバイ(14:27)
トラバース雪渓は、雪が緩んでいて朝よりは少し気楽だった。しかし、コルからテント場まで43分もかかった。雪渓上で、雪目対策でしょっちゅう止まったからだろう。
この日の最高高度は2110m、最低高度は1670m、積算上昇は505m、積算下降は485mだった。完璧なピストンなのに上昇と下降の数字が違うが、まあ誤差の範囲だろう。

ヒサゴ沼第2夜

ニペソツ
沼越しのニペソツはいつも美しい(15:54)
この日は前日以上に暑くて、前日以上にテントに入れなかった。気象通報も外でテントの陰で聴いた。台風はさらに東に去って行ったようだ。翌日の天気予報は、道内はおおむね晴れるが、午後は一部山沿いで降るかも、ということだった。明日は天人峡ルートのあの悪路だ。早めに下りるのが吉だろう。
18時頃になると、またまたこの日もシカがやってきた。ニペソツをバックに沼の畔で戯れるシカの群れは、ネイチャー系番組でよく見るアフリカの国立公園とかそんな感じで、いい雰囲気だった。
シカを見ていたおかげで夕食は少し遅くなった。サラサラのカレーはスパイシーでなかなか旨かった。この日はテントは少し増えて10張りになった。前日、近くに張っていた人はこの日はいなくなり、その跡には誰も来なかったので、限りなく個室に近かった。小屋の方が少し人が増えたのか、談笑というか笑い声が前夜に比べて大きかったように思う。
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