トムラウシ山縦走 (2/4)

7月25日 曇り時々雨

2時に起床。テント内の気温は13.4℃だった。天気の状況は前日と変わらず。テンションがあがらないが、とりあえず4時出発を目指して準備を進めた。
前日の花がよかったので自分はもう満足してしまい、白雲連泊で周辺散歩に変更してもよかった。天気が悪ければなおのことだ。しかしここは初志貫徹でヒサゴ行きに決定。幸い、時間がたつにつれて雲は高くなってきた。

4:50 白雲小屋テント場発(高度計:2005m)

道
まずはキンバイに彩られた道を下る(04:56)
予定をだいぶ遅れて出発。エゾノキンバイソウやらエゾツガザクラやらの花がきれいな道を下っていく。朝露で体はびしょびしょになってしまった。しかも間もなく雨がぽつぽつと降ってきた。テンションはだだ下がりだ。ただ、気にならない程度の小雨だったので、とりあえずザックカバーをつけ、カッパの上着だけを着て再出発した。
エゾツガザクラが咲き乱れる雪渓沿いの道を下って行って、あるところで右のハイマツ林を抜けて稜線--と言ってもだだっ広い高原で「稜線」のイメージはないのだが--に上がると、いよいよ高根が原の高原漫歩が始まる。荒涼とした大地は、実は高山植物がたくさん咲いている。まず目についたのはチシマキンレイカだ。メアカンキンバイも咲いている。そして少し歩くとエゾツツジが混じってきた。
割と近くに地味な鳥が派手に鳴いていた。写真を撮って拡大して見てみると、マシコ系の鳥だった。そこで、ギンザンマシコの雌と勝手に認定した。

5:57 三笠新道分岐(1785m)

忠別岳
ガスがとれて忠別岳が見えた(06:06)
コマクサ
高根が原のコマクサ群落(06:43)
分岐はウルップソウとキバナシオガマの群落地だが、ウルップソウは前日の小泉岳同様、ほとんど花期は終わっていた。
なおも拳大の石がごろごろして歩きにくい道を進んでいくと、ようやくコマクサが近くで見られるようになってきた。やはり、赤岳のコマクサ平よりも量・密度ともにはるかに多い。それでも、過去に見た最盛期の花はもっと凄かった。
エゾツツジとチシマキンレイカの組み合わせもヴィヴィッドでいい。そのチシマキンレイカが単体で群落を作っているところは、地面が黄色く染まって見える。

6:51 平が岳あたりを通過

道
ある意味で大雪山らしいぬかるみの道(06:46)
道
ある意味で大雪山らしいブッシュの道(06:58)
雲が低くなってきて視界が数十mになったりしながらも、雨らしい雨は降らないままだった。石ごろごろのあとは、ぬかるみとハイマツのブッシュの道となる。ある意味で大雪山らしい。
ブッシュ道の中間には開けた湿原状の広場があって、いつもチングルマとエゾコザクラの群落が美しいところなのだが、今回はちょっと時季が違ったようだ。代わりに、と言っては何だが、ハクサンボウフウがきれいで、ほかにエゾカンゾウがちらほらと咲いていた。
ふたたび笹の道を抜けると、また石ゴロの道になる。

7:50 チシマキンレイカ大群落

道
チシマキンレイカの中の道:左の凸まで行けば忠別沼が見える(07:53)
花
チシマキンレイカとヨツバシオガマの組み合わせ(07:56)
道はじわじわと登っていく。忠別沼手前の小ピークへ続く道だ。で、今回はここのチシマキンレイカが凄かった。なにしろ地面が遠くまで黄色く染まってみえるのだ。一体全体どうしたんだ、というくらい咲いていた。一部ではヨツバシオガマと混生していて、当然そういうところは黄色とピンクで艶やかだ。もう天気が悪いとか言ってらんない。テンションはMAXなのだった。大喜びで写真を撮っていると、白雲で隣にテントを張っていた人が追い抜いて行った。

8:10 忠別沼着(1800m)

花
忠別沼北斜面の大花畑(08:10)
沼
ハクサンイチゲやらの群落と忠別沼(08:15)
小ピークを超えると忠別沼だ。ここで今日初めて対向者とすれ違った。ここの北側斜面の花畑は鉄板だ。案の定、斜面の上のほうにエゾツガザクラ、その下にハクサンイチゲなどの大群落が咲き乱れていた。ここに来るのは4回目だが、いつも、絶対、必ずきれいなのだ。

8:35 忠別沼発(1795m)

花
花畑と雲海(08:33)
木道
木道沿いも花でいっぱい(08:34)
忠別沼にはあれほど花が咲いているのに、忠別岳へと登る道は打って変わって花が少なくなり、コケ類が目立つ。石もごろごろで歩きにくい。

9:21 忠別岳(1960)

花
忠別岳山頂付近のハクサンイチゲ大群落(09:37)
ガスに包まれた山頂は、予想通り誰もいなかった。15分ほど休憩してから下り始める。山頂の東斜面は一面のハクサンイチゲ。晴れていれば南にトムラウシ、北に白雲岳が見えて最高の場所なのだが。
さて、この下り道は何度もハイマツ漕ぎで苦しめられたところ。しかし先般購入した2011年版山と高原地図には、2010年にハイマツを刈り払ったとある。これは歩きやすくなったはずと期待満々で下り始めた・・・

10:22 忠別小屋分岐(1710m)

分岐
忠別小屋分岐(10:23)
こ、これは、な、なんと歩きやすいことか。ほとんどハイマツに触れることなく歩けた(ちょっと大げさか)。
避難小屋分岐へは、下りきってからの水平移動が長すぎるのが精神的によくない。もう着くだろう、次の岩の向こうが分岐だろう、と思うがそのたびに裏切られるので、精神的なダメージが大きいのだ。
それでも、過去はいつも1時間以上かかっていた道を、45分という史上最短タイムで突破。ちなみに山と高原地図のコースタイムは40分だ。ずっと歩いていて暑くなったし、次は登りなのでここでカッパを脱いだ。
五色岳への登りも2009年にブッシュの刈り払い完了とあり、期待したところやはりこちらも歩きやすくなっていた。ただし刈り払い度は忠別の下りに比べると控えめだった。こちらの方がハンノキなどが多くて再生が早いのかもしれない。

11:15 五色岳(1860m)

五色岳
うら淋しい五色岳山頂(11:31)
トムラウシ
ようやく裾だけトムラウシが見えた(11:51)
五色岳の山頂で休んでいると、トレラン風のいでたちの男性がひとり、化雲岳方面からやってきた。結局、この日の対向者は先ほど忠別沼ですれ違った人とこの人のわずか2人だった。
20分ほど休んでいる間にまた小雨が降ってきたので、再びカッパを着てから出発。五色岳から化雲岳への道の五色岳寄りもやはりハイマツのブッシュだが、やはり刈り払われていて、歩きやすくなった印象。20分ほどでハイマツ林を抜け出ると、この山旅で初めてトムラウシの裾野が見えた。が、またすぐにガスに隠れてしまった。

12:23 化雲平着(1865m)

道
花が咲き誇る化雲平の木道を行く(12:25)
道
ハクサンイチゲでいっぱいの道(12:53)
その後は途切れ途切れの木道を進む。途中の雪田はまだ融け始めたばかりといった風情で、花はなかったし、木道も雪に埋もれていた。
化雲岳への分岐の標識に着いて、少し過ぎたところの木道の待避線にザックを降ろして大休止。この化雲平は、大雪山の中でも我々の一番のお気に入りスポットだ。なんと言っても花がきれいなのだ。この日はエゾコザクラとミヤマキンバイの混生群落と、チングルマとハクサンイチゲが凄かった。晴れていればバックがトムラウシ山で最高なのだが、まあしかたない。

13:06 化雲平発(1900m)

花
化雲岳南斜面の大花畑(13:04)
花
化雲岳南分岐付近の木道とハクサンイチゲ(13:05)
たっぷりと花を堪能してから、ヒサゴ沼へと下る。南側の分岐の木道の周辺は、ハクサンイチゲが盛りだった。そう、ここも凄いのだ。
雪渓の下りは視界が心配だったが、この時間は幸い雲が上がっていて見通しはバッチリだった。この雪渓は、真下ではなくて少し斜めに下りるので分かりにくい。この日は踏み跡すらほとんどなかったので、ガスに巻かれたらかなり危険だったろうと思う。まあ、晴れてりゃあどうってことないのだけど。

13:49 ヒサゴ沼テント場着(1690m)

道
雪渓と雪渓の間の道はエゾコザクラでいっぱい(13:28)
短い雪渓をもうひとつ下り、さらに融雪と踏みつけでえぐれた道を10分ほど行くとようやくヒサゴ沼の畔の木道に到達する。付近はエゾコザクラがきれいだった。それから間もなくテント場に着いた。
この日の最高高度は2005m、最低高度は1690m、積算上昇は455m、積算下降は820mだった。標高差300mあまりの間を細かく登降しているのが分かる数字だ。
テント場は奥が空いていたので確保。このサイトは個室感がイイ。テント場から振り返ると、午前中に忠別沼の手前で我々を抜いて行った人が、ヒサゴのコルの方から雪渓をトラバースしてくるのが見えた。

まったりとしたヒサゴ沼の午後

早く着いたがヒサゴ沼には陽射しがあって暑く、なかなかテントには入れなかった。15時を過ぎてちょっと陰ってきてようやく入れるようになったので、テントの中でコーヒーブレイク。カフェオレを淹れ、サン蔵人のお菓子などを食べてくつろいだ。
16時になって気象通報を聴き天気図をつけたが、前日朝にホテルのテレビで見たものと、台風の位置以外はあまり変わらなかった。それから夕食を食べた。食事を終えて一息ついていると、沼の奥の方にエゾシカがいるのが見えた。子鹿を含む10数頭の群れだった。シカは遅くまでずっと草を食べていた。
ラジオの天気予報によると、翌日の道内はおおむね晴れるということだった。良い傾向だ。ただし山沿いなどでは午前中まで雲が残るらしかった。この日のテントは6張りだった。ここもまたえらく静かだった。20時前には眠りについた。
森の木がガサガサいう音で目が覚めた。21時だ。何かがいる。ガサガサがずっと続く。どうしても気になって、テントから顔を出して外を見てみた。何も見えない。・・・思い切って、ヘッドライトで照らしてみた。ライトに反応し暗闇に青白く光る8つの眼がじっとこちらを見ていた。ま、まさか、キツネに囲まれている!? ・・・(汗)・・・動きで分かった。シカだった。シカは人間がいると理解したらしくて、ゆっくりとその場を離れて行った。
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