7月17日 快晴
予定どおり2時起床。テント内の気温は13.4℃だったが、やはりそれほど寒くは感じなかった。名物小屋主が頻りに早立ちを説教したせいか、ここのテント場の人たちは行動が早く、3時ごろには半分くらいの人たちがすでに起きて活動を開始していた。前日に続いて、この日の夜明け前の空も素晴らしかった。農鳥小屋は、北岳の肩よりは見える山は少ないし、富士山もほんのちょびっとだけ裾野が欠けて見えるが、それでも素晴らしいものは素晴らしい。
4:05 出発(高度計:2810m)
ちょっと薄暗い中を出発。我々はヘッドライトを点けたが、先行している2人組は点けずに歩いていた。刻々と変わる空を眺めながら歩くのは実に楽しい。やっぱり夏山はイイと思う瞬間だ。歩いていると夜が明けた。間もなく、塩見岳がオレンジに染まった。この時間がまた堪らない。
4:54 西農鳥岳着(3040m)
西農鳥に着いた頃には完全に夜は明けていた。東農鳥の上にちょこんと頭を出している富士山が印象的だった。今日は先が長いので、ちょっと休んだらすぐに出立する。早朝の稜線トラバースがたまらなく気持ちいい。
今回初めて気付いたのだが、農鳥岳の西側斜面も、花が凄かった。しかし、これまで見てきた花畑が凄すぎてちょっとやそっとじゃ感動しなくなってしまっていた。
5:38 農鳥岳登頂(3020m)
農鳥岳からの展望も申し分なかった。富士山は当たり前のように大きく、北岳はここからだと鋭角に見えてカッコイイし、間ノ岳も南アルプスの山らしい大らかな山容だ。そして塩見岳や荒川岳が大きく見えて、随分と南まで来たことが感じられた。6:32 農鳥岳発(3015m)
農鳥岳も、間ノ岳と同じように、東側を斜めに下りていく。で、この斜面にまたまた美しい花がいっぱいなのだ。やはり間ノ岳と同じように、雪田植物が豊富だ。7:08 大門沢下降点を通過(2840m)
大門沢下降点のほんのちょっと手前で塩見岳が見えなくなる。そしてここからは、ザレ、岩、木の根などの悪路が延々と続く厳しい道で、大門沢まで一気に1300mも下る。奈良田までだと2200mだ。樹林帯は日差しは遮られるものの、風が弱くてやはり暑い。
意外なことに、大門沢からの登りの人たちが次から次へとやってきた。朝早く大門沢小屋を出た人たちなのだろうが、それにしても、あの激しい急な道を登ってくるなんて、なんと根性のある人たちだろう。
8:39 標高2200m地点(2200m)
道端の木には、ところどころに標高の書かれた標識がくくりつけてある。2200m地点には、標高の標識とは別に大門沢小屋まで1時間という標識があった。9:39 大門沢小屋着(1755m)
2200m地点から、ぴったり1時間で大門沢小屋に到着。過去2回の縦走ではどちらも3時間かかった下降点→大門沢小屋を、2時間半でクリアできた。ここで大休止して、ゆっくりと足を休める。ここまでですでに標高差1300mほどを下っていて、ちょっと足が覚束ない。と、ここでいろいろ考えた結果、奈良田から身延を目指すのではなくて、広河原に戻り、芦安あたりの温泉でさっぱりしてから帰るのが良いのではないかという結論に至った。奈良田の風呂は相棒があまり好きではないのと、少ない本数のバスの時間を気にしながらの入浴ではのんびりできないのではないかと思ったからだ。しかも、JR身延線は本数が少なくて、帰宅するのに都合が悪そうだ。さらに、このバスに発電所から乗れば、発電所→奈良田間の灼熱アスファルト地獄を歩かなくてすむ。
10:03 大門沢小屋発(1755m)
小屋を出て、3年前の悪戦苦闘の記憶も生々しいアスレチックコースを行く。道は、この3年の間にハシゴが朽ちていたり無くなっていたりしてアドベンチャー度はさらに増していた。下りるにつれて何故か手すりが低くなっていく恐怖のハシゴは(歩いてみると分かるが、実に奇妙な感覚に襲われるのだ)、その上に倒木があってさらにグレードアップ。ハシゴに気をとられていた相棒が見事に引っかかり、激しく頭を打ち付けるアクシデントも発生。大事には至らなかったからよかったものの、あれは実にアブナイ。11:30 大コモリ沢
広々とした緩やかな下りを行き、唐突に八丁坂の急降下が始まった。八丁坂には白ロープがコースに張ってあった。転落防止でもないし、登高の補助に使えるでもないし、意味不明なロープだ。ほどなく大コモリ沢に着いて、小休止。ここまでくれば吊り橋までは30分もかからないだろう。バスの時間に間に合う目途がついて一安心だ。
12:11 吊り橋(1200m)
お馴染み感のある吊り橋に到着。ここを過ぎると人里の気配が濃くなる。そしてなんと、長らく「修理中」だった2つ目の吊り橋がピカピカに!! とは言っても、橋桁が木から工事現場の足場に使われるあの細長い鉄板に変わっていただけだった。それでもあの「修理中」の看板はなくなっていた。12:33 登山者休憩小屋着(1120m)
3年前に造成中だったものが完成した砂防ダムを高巻いて、3本目となる超立派な吊り橋を渡り、登山者休憩小屋に到着。丸太のいすに簡素な屋根があるだけの休憩所だが、落ち着いて座れるのはありがたい。発電所のバス停に日陰がないとバス待ちも辛いので、ここでゆっくり休むことにする。しかし、壁に貼ってあるバスや電車の時刻表が古いものなのはよろしくない。いつのものなのか書いていないし、事前に調べてきた現行の時刻と大違いだ。これを鵜呑みにしちゃって酷い目に遭う人とかいるんじゃないのだろうか。
ゆっくり休んで、12:50頃に休憩小屋を後にした。バスの時刻は13:42。ゆーっくり歩いても間に合うだろう。休憩小屋の先にあった、かつての待合ベンチは撤去されていた。
13:16 奈良田第一発電所着(970m)
発電所のバス停に着いてみると、すぐ隣がトンネルでその中はひんやりとした風が吹いていた。もっと早くこっちに来ればよかった。バスを待っている間に結構な数の人が下山してきたが、そのほとんどが奈良田方面に向かって歩いていった。この日の最大高度は3045m、最低高度965m、積算上昇280m、積算下降2130mだった。最終地点の第一発電所は奈良田の集落よりも標高が高くて、積算下降が2200mに達しなかった。
帰路
バス車内は冷房が効いていて涼しかった。40分ほどで広河原着。3日間かけて歩いた道を40分で連れ戻されるのはなんだかやるせない気がした。また、ここでも「利用者協力金」をとられた。なぜ、車を使わずに来た我々が、マイカー族のための駐車場やゲートの管理費を払わなければならないのだ? 駐車場を有料にすればいいだけの話ではないのか? せめて、車利用者とそうでない人の金額に差をつけるべきではないのか? 以前聞いた話では、支払いを拒否する人もいるそうだが、もっともな話だ。連休中日の広河原は、たくさんの登山者でごった返してたいへんな騒ぎだった。広河原からはバスではなく、芦安までの乗合タクシーを選択。バス料金と同額で、しかも乗り心地がいいし、人数がちょうど集まれば時間に関係なくすぐ出発してくれる。しかしまた、ここでも「利用者協力金」をとられた。なぜ、車を使わずに来た我々(以下略)
乗合タクシーの運転手氏に、バス停の近くで風呂に入れるところで降ろしてくれるよう頼むと、ヘルシーハウス山渓園という市営の施設の前で降ろしてくれた。目の前のバス停で時間を確認していると、運転手氏が「上から下りてくるバスは混んでいて途中からは乗れないよ」という。嘘っぺー。でも、確かに、あの山梨交通である。たとえ乗れても通路かデッキに座らされたりするのがオチだろう。と、まんまと運転手氏の作戦にはまって、タクシーを予約することになってしまった。
風呂はあまり広くなかったが、気持ちよかった。芦安から甲府までのタクシー代は6000円ちょいで、1時間くらいで着いた。甲府からは特急あずさもかいじも指定が満席だったので、かいじの自由席で帰った。