白峰三山縦走 2002年8月9日 - 11日 テント縦走

8月9日 曇りのち雨

中央線の車窓から南アルプス方面を見ると雲の中であった。8時少し前に甲府駅に着くと、バスの列は意外にも短かった。バスを待っていた年配のご夫婦に声をかけられ、我々と合わせ4人でタクシーで広河原に向かうことにした。今日は肩の小屋まで行く予定で、6時間はかかる。少しでも早く行動を開始したい。4人で12,000円で乗せてもらえた。

10:10 広河原発(高度計:1530m, 温度計:29.5℃)

スタート地点から大樺沢を見上げる
スタート地点から大樺沢を見上げる
着替えたりパッキングを直したりしているうちにこんな時間になってしまった。相変わらず空はどんよりとしていて、大樺沢を見上げても、雪渓の尻尾のあたりから上は雲の中だ。
2年前にも往復している道を、そういえばこんなところもあったなあなどと思い出しながら歩く。人気コースだけによく踏まれていて歩きやすく、気分よく快調に飛ばす。

12:00 降雨

道はずっと左岸についているが、途中で崩壊地を避けるように、いったん右岸に渡って高巻く。このあたりでついにぽつぽつと降ってきた。12時ジャスト。すぐに本降りになったので、急いでザックカバーをつけ、カッパを着用。するとみるみるペースダウンしてしまった。いくらゴアテックスでもやはり蒸れる。雨の中の登りなんていつ以来だろう。
つるつる滑る石があった。おっと、これは帰りは気をつけなくっちゃ。・・・と、気が付くと撤退を想定している自分がいた。モチベーションも急下降。

13:22 大樺沢二俣発(2175m, 21.6℃)

とうとう二俣まで3時間もかかってしまった。二俣にある大岩を見ながらの最後のひと登りはしんどかった。二俣でクッキーなどを食べると少し元気が出てきた。蒸れのせいだけでなく、半分はシャリバテだったようだ。
雨は一向に止む気配なし。肩までのコースタイムはあと3時間だ。雨の中をあと3時間も登るのか? 小太郎尾根で夕立に遭ってしまうのではないか? このペースでは到着は18時ごろになってしまうのではないか?・・・というわけで御池に逃げることに決定。

13:57 白根御池着

あと少しの歩きで済むと思うと急に気楽になった。木の根の多く張り出した道を行く。水平なのかと思っていたら結構下ってしまう。コースタイム30分のところを1時間でいいや、というつもりでゆっくり花など眺めながら歩いたのだが、35分で着いてしまった。

御池にて

御池のテントサイトにはまだ3張りほどしかテントがなかった。池のすぐほとりには学生っぽい大テントがあった。我々は小屋にほど近い、水はけのよさそうなところに張った。テントを張ったとたんに雨が激しくなった。急いで中に逃げ込む。肩まで登らなくてよかったと思った。このまま雨が止まなかったら明日はもう家に帰ろう、そんな話をしていたら、いかにも夕立っぽく、突然止んだ。
今日の夕食はハンバーグ。久々にワインのハーフボトルを持ってきた。今回の山行は急に決めたので、ワインは前日に近所のスーパーでテキトーに買ったもの。とても不味かった。
最終的にはテントは15張りほどに増えた。あとから我々の隣にテントをはった女性3人組が夜になってもバカ騒ぎをしていた。こんなことは随分久しぶりだったので張り切って文句を言ったら、すぐに寝静まった。夜中にいったん目が覚めた。テントから出てみると、空は星でいっぱいだった。久しぶりに流れ星を見た。明日は展望が期待できそうだ。

8月10日 晴れのち曇りのち雨のち晴れ

2時起床。まだ他のテントは寝静まっていた。ここのテント住人たちは随分ゆっくりだなあなどと思いながらパッキングをし、パンとマグヌードルの朝食を摂った。

4:35 白根御池発(高度計:2235m, 温度計:21.0℃)

夜明け前の鳳凰三山
夜明け前の鳳凰三山
池のほとりからすぐに草すべりが始まる。小屋の前から見てもすぐわかる、林の木がそこだけ上から下へ一直線に切れて草地になっている、谷状の斜面だ。滑りやすい道を細かくジグザグを切って登っていく。振り返ると鳳凰三山の上空が朝日で美しく染まっていた。
30分以上登ってもまだ御池は見えた。つまり、それだけ直登しているということだ。周囲は日当たりのよい斜面で、だからこそ花が多いのだろう。下の方はヤナギランなどのピンクや紫の花が多く、登るにつれてトラノオやウサギギクで白と黄色に変わっていった。ようやく池が見えなくなるあたりで右に曲がる。休憩に良さそうなスペースがあり、林の中に入って斜面を大きなジグザグで登っていくようになる。谷を高巻くといった感じだろうか。
木が一瞬切れ、北岳が見えた。初お目見えである。

6:33 右俣コースとの合流点(2715m, 22.2℃)

トラノオの見事な斜面
トラノオの見事な斜面
トラノオと北岳
トラノオと北岳
歓声をあげながらなおも林の中をいくと、突然森林限界に。ぽっかりと開けた草原は、一面トラノオの花で埋め尽くされていた。北岳に向かってトラノオの草原を斜めにあがっていくと、二俣からの右俣コースと合流。立派な標識が立っている。
振り返ると、ずっと見えていた鳳凰三山のほか、八ヶ岳の赤岳が見えた。そして合流点から少し登ると、富士山が見えてきた。ここから見る富士山は、裾野が完璧な弧を描いていてたいへん美しい。

6:51 小太郎分岐(2815m, 24.9℃)

小太郎分岐から甲斐駒
小太郎分岐から甲斐駒
ずっとトラノオの草原が続き、稜線に出たところが小太郎分岐だ。ここで甲斐駒が目に飛び込んできた。小太郎山の方にちょっと行くと仙丈岳も見える。

7:02 分岐発(2820m, 23.7℃)

北岳稜線から仙丈岳
北岳稜線から仙丈岳
展望を楽しんでから、肩へと続く稜線を歩き始める。最初西側の斜面をトラバースする形になり、右手に仙丈があるのだが、その仙丈の山頂にどんどん雲がかかり始めた。しかもよく見ると、雲の流れてくる方向が悪い。これはひょっとして、山頂に行くと南側の山は見えないのかな?

7:35 北岳の肩着(2930m, 12.9℃)

北岳にガスが
北岳にガスが
途中で2ヶ所の岩場を越え、30分あまりで北岳の肩に到着。と・・・見る見るうちに山頂方面にガスが!
水を補給。ここの水は消毒薬がきついので粉末ポカリにしてみたが、それでも臭いが感じられた。軽く行動食を口にし、20分ばかり休んでから山頂へ向けてガスの中を出発。

8:42 北岳登頂(3190m, 12.8℃)

北岳からは富士山が
北岳からは富士山が
2度目の北岳は、またしても雲の中であった。上空は晴れているのに・・・しかし雲の流れは速く、ときおり富士山が見えた。富士山が顔を出すと周囲の登山者はいっせいにカメラを構えて写真を撮りまくっていた。全員東、つまり富士山の方向を向いて座っているのが可笑しかった。

9:23 北岳発(3175m, 27.4℃)

北岳を振り返る
北岳を振り返る
かなりネバったが、雲は晴れそうにない。また、もし晴れたとしても周りの山自体に雲がかかっていたのではしょうがないので下山することにした。
途中で振り返ると北岳の立派な姿が見えた。どうも山頂付近だけが晴れているようだ。

10:27 北岳山荘着(2855m, 18.6℃)

間ノ岳は雲の中だ
間ノ岳は雲の中だ
山荘に着くと、2年前に工事中だった建物ができていた。立派なバイオトイレだった。個室の中に入るとセンサーが人を感知して明りが点くようになっていた。びっくりした。1回500円。

トイレのあとは軽食をとりながら今後の作戦会議。
1.北岳山荘止まりにして、今日は巻道の花畑散歩、明日北岳に再び登り広河原から下山
2.予定通り農鳥小屋まで縦走
どちらかを選択しなければならない。

11:09 北岳山荘発(2875m, 25.4℃)

ガスの北岳をバックに歩く
ガスの北岳をバックに歩く
決断しなければならなくなった。今日はここまでにするか。でもそれじゃあ、2年前と似たようなコースになってしまう。南を見ると雲がときおり晴れてまるで誘っているかのようだった。というわけで、我々にしては異例ではあるが、雲の中の縦走に踏み切った。歩いている最中に、ときどきでいいから雲が晴れて周りが見えればそれでいい。それよりも、明日農鳥できれいに晴れればいい。雨が降っていないだけマシだ。風は西から強く吹いていた。

11:51 中白峰通過(3055m, 15.3℃)

中白峰南面のチシマギキョウ、ツメクサ
中白峰南面のチシマギキョウ、ツメクサ
中白峰南斜面のジャコウソウ
中白峰南斜面のジャコウソウ
ゆる〜く登ると思っていたら、意外な急坂が待ち受けていた。道は相変わらずよく踏まれていて歩きやすい。
景色も見えないし寒いので、中白峰の山頂は巻いた。山頂の東側に広いスペースがあり、風も避けられて休憩には好適だが、すぐ直前に休憩をとっていたのでここでは休まずに先を急ぐことにした。
中白峰をちょっと過ぎたところは花が多かった。ジャコウソウがひと塊になって咲いていたところはぼうっとピンク色に見えた。

風と雨の縦走路を行く

雨の縦走路、山頂はいずこ・・・
雨の縦走路、山頂はいずこ・・・
中白峰からは、稜線の西側をほとんど標高を上げずにだら〜っと進む。西側なので先ほどからの風にずっとさらされる状態だ。
この冷たい風で寒くなってきたので途中でカッパを着込んだ。すると12時をちょっと過ぎたところでとうとう雨が降ってきた。昨日と全く同じパターンだ。ほとんど霧雨のような雨だったが、おりからの西風で真横から吹き付けてくる。大粒にならないうちに急いで通過しよう。
なおもだら〜っと歩いていると急坂にあたった。地図的には、これで一気に高度を上げて山頂に着くと思われた。この急坂を登りきったところで一瞬雲が晴れ、山頂が見えた! この距離だとたぶんあと20分くらいで着くだろう。雨も降っていることだし、山頂に着いたら5分くらい休んで、夕立が来る前に急いで農鳥小屋に向かおう。

13:12 間ノ岳登頂(3185m, 15.9℃)

間ノ岳から南を見渡す
間ノ岳から南を見渡す
山頂がちらっと見えた地点から15分で登頂。雨は止んだようだ。上空には1ヶ所だけ雲に穴が開き、青空がぽっかりと見えていた。雲の動きが速い。東に目をやると雲の間に富士山がちらちらと見える。へえーさっきの北岳と同じだな・・・富士山が少しでも見えてよかった・・・ん? 空がいやに明るいな・・・なんと晴れてきた! 見る見るうちに雲が退散していく。ふっと北を振り返る。「北岳だ!」かつりんが思わず声をあげると、周辺の登山者がいっせいに顔を北に向けた。北岳に続いて鳳凰も見えてきた。山頂はにわかに活気付いた。「農鳥だ!」「あれは悪沢だ!」「甲斐駒はどこだ!」みんな口々に叫びだした。先ほどまでの雨が信じられないくらいのド快晴になった。(ぐるぐる写真

14:01 下山開始(3175m, 18.5℃)

ふたつの農鳥と農鳥小屋
ふたつの農鳥と農鳥小屋
というわけで長居してしまった。それでも飽きず、下りるのが惜しかった。山頂を去るのがこれほど名残惜しいのは初めてだった。しかし下りてテントを張らねば。
間ノ岳の南側斜面は岩が多く歩きにくかった。明朝登るはずの農鳥の尾根がどかーんと張り出しているのが見える。キツそうな登りだ。農鳥小屋のテント場も見える。どこに張ろうかと考えながら下っていった。

15:13 農鳥小屋着(2835m, 20.8℃)

農鳥小屋と西農鳥岳
農鳥小屋と西農鳥岳
斜面をいったん下りきると、それから平坦な岩ゴロ道をゆく。このあたりは鞍部なので、再び西からの風があたるようになってきた。一日の最後の行程でもう脚はふらふらだ。あと少し・平坦という気のゆるみもあるだろう、ちょっとの風でもふらつくようになってしまった。よろめきながらゴールイン。

テント場

農鳥小屋のテント場はふたつに分かれている。ひとつは小屋に着く手前、つまり北側だが、こちらには誰も張っていなかった。小屋や水場から遠いということもあろうが、風が強いからであろう。それはテントの形に石積みが残されていることからも分かる。もう一方は小屋の東側。先客はみんなこちらに張っていた。東斜面なので、西からの強風は防いでくれる。到着が遅かったのであまり良い場所が残っておらず、ちょっと斜めの、登山道の脇に陣取った。でもまあテント前からの眺めも悪くない。鳳凰と甲府の街並と富士山が一望できる。そして北に間ノ岳の大きな体と、南に農鳥の厳しい尾根。それに水場も近い。・・・とは言っても、水場はテント場のずいぶん下の方で、下り12分・上り18分かかった。しかしその努力にあまりある、めっぽう美味い水がえられる。
本日の夕食はビーフシチューとシウマイ。小屋の売店では、山小屋にしては珍しくスーパードライの他にモルツビールも売っていた。

そろそろ寝ようかという頃、突然風が強くなった。風向きが東に変わったらしい。テントごと体を揺さぶられ、なかなか寝付けない。そうこうするうちに、ばたっと奇妙な音がしてフライが本体にぺったりと張り付いた。数年前の、暴風雨にテントを破壊された記憶がよみがえった。慌てて外に出て見ると、石に止めておいた張り綱が石から外れていただけだった。ペグを出して打ち込み、対策を完璧にして眠りについた。
23時頃、やはり風に揺さぶられて目が覚めた。トイレに行くついでに周りを点検しようと外に出たら、甲府の街の夜景がきれいだった。でも苦労して山に入ったのに、こんな人工的な景色見るのもなんだかなあと思った。
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