塩見岳 - 北岳縦走 2003年8月21日 - 24日 テント縦走 3ページ目

8月24日 曇りのち晴れ

夜明け
あまりぱっとしなかった夜明けの富士山
いちおう3時に起床。期待していた日の出は、雲が多くてなんだかぱっとしない眺めだった。まあ今日は下山することだし、曇りの方が下界も涼しくていいか。
12:30のバスに間に合えばいいのでのんびりと出発の準備。ライバルのダイナミックツアーご一行様は7:00出発という情報をつかんでいたので6時くらいを目標にする。

6:25 出発(高度計:2985m, 温度計:16.3℃)

小太郎尾根
小太郎尾根・甲斐駒・八ヶ岳
尾根に出ると昨日と同じく風が強く、Tシャツ1枚では寒かった。しかしこれも小太郎尾根を歩いている間だけで、草すべり斜面に入ってしまえば風はなくなるはずだ。尾根を歩き出すと、前方に大集団が見えた。どうやらダイナミック縦走ご一行様とは別の団体だ。数えてみると30人もいた。
途中の岩場で一ヶ所手を使うが、緑色のペンキで矢印が書いてあった。緑色とは珍しい。段差の大きい方には×印がついていて、段差の小さいところに向かうように誘導していた。なんとも過保護だと思ったが、初心者にはありがたい。

6:49 小太郎分岐(2830m, 17.0℃)

分岐に到着。休んでいる30人パーティに追いついてしまった。20分ほどしか歩いていないが、草すべり斜面の花畑をゆっくり楽しみたかったので、大集団が出発するまでここで休憩することにし、ザックを下ろした。
小太郎山に向かう登山者がひとりいた。以前から、小太郎山からの北岳を眺めてみたいと思っていた。今日なら小太郎山を往復しても余裕があるが、もう気持ちが下山に向いてしまっているし、もし12:30のバスに乗り遅れると帰宅が遅くなるのでやめた。
目の前の30人パーティはそのいでたちからして、おそらく超初心者軍団と思われた。クッキーを頬張りながら様子を窺うと、なんとこの下にはもうひとつ、別に30人の団体がいるらしかった。なんてこったい。後で知ったのだが、そのもうひとつの団体は某スポーツ新聞主催のツアーだった。

右俣コースを下る

花畑
草すべり花畑と北岳
道がとても歩きやすかった。上部の方はもうちょっとザレていて滑ったような記憶があるのだが、整備したのだろうか。この時間になると御池からの登山者が多い。先に出発した初心者軍団は草すべり・右俣コース分岐点で対向者待ちのためストップしていて、すぐに我々は追いついてしまった。やむを得ず抜き去ると軍団もすぐに出発。軍団が御池方面に下りるといいなあと思っていたが、我々と同じ右俣コースをとるようだ。まあ右俣の方が歩きやすいし所要時間も短いのだから当然かもしれない。
右俣コースは相変わらず花が美しい。そして草原の向こうにバットレスが見えるのがまたいい。写真を撮っていると再び軍団に追いつかれた。もういちいち考えるのが面倒なので軍団の最後尾にくっついて歩くことにした。これがまたえらく遅いペースだが、こちらもちょくちょく立ち止まってトラノオやらウメバチソウやらが咲いている斜面を見上げながら歩いていった。

雪解け跡

行列
行列
花畑
キンポウゲの花畑
ぱっと森が開け、草原が見下ろせた。木が入り込めず草原になっているのは雪が遅くまで残るからに違いない。事実、草原を下りきったところは岩がごろごろしていて、いかにも雪解けの跡を思わせた。岩は雪が運んだ堆積物だ。この雪解け跡で、前方のスポーツ新聞30人が休んでいた。彼らが出発するのと入れ替わるように初心者軍団がザックを下ろす。気付くと45分歩きどおしだったので我々も休んだ。
上のほうでは秋の花が咲いていたのにここではなぜか夏の花に戻り、キンポウゲが幅をきかせていた。いつの間にか出てきた太陽が広い草の斜面を眩しく照らしていて、辺りはすっかり夏山の風情だった。そういえば、往きに塩見小屋の小屋番が話していたのを聞いたのだが、今年はえらく花が少ないうえに秋の花がもう咲いてしまったりと異常なんだとか。ここ北岳もそうなのだろうか。
作戦どおり軍団より早く腰をあげて下り始める。人気のない道をジグザグを切って下っていく。樹林帯なので木陰ではあったが、南向きの斜面は陽光が強く、かなり暑くなってきた。ときおり現れる大きな段差を慌てず騒がずのんびりとクリアしていくと、左俣の雪渓が目の高さになってきて、二俣にある目印の巨大な岩が見えてきた。

8:29 大樺沢二俣(2285m, 25.8℃)

大樺沢二俣
二俣を振り返ると夏山っぽかった
なんだか騒々しいなあと思ったら先行するスポーツ新聞30人組がすぐ下にいた。我々も間もなく追いつき、前後合わせて総勢50人ほどで一気に二俣になだれこんだ。ここでみんな休憩。二俣にこんなに雪が残っているのを見たのは初めてだった。
スポーツ新聞の休憩が意外にも短かったので、こいつらより先にと、我々も早々に出発する。道は川原で岩がごろごろしている。後から追ってくるスポーツ新聞が気にはなったが、焦らないように落ち着いて1歩1歩を踏み出す。こういう団体が相手だと自分たちが余計に気を遣わなくてはいけないのが本当に理不尽だ。
しかし順調にライバルを引き離し、灼熱の岩ゴロの道を下っていった。10分以上歩くと林の中に入り、やがて崩壊地の渡渉地点に着く。とは言っても立派な橋がかかっており、全く心配はない。ここまでおよそ20分。ちょっと早いので、もう一度左岸に渡りなおす下流の渡渉地点で休むことにした。

9:17 崩壊地の下の渡渉地点(2000m, 28.8℃)

崩壊地
崩壊地渡渉点のようす
登山道
涼やかな沢沿いの道
右岸の道は15分くらいで通過し、下の渡渉地点に到着。上よりも日陰が少なかったがなんとか涼しい休憩場所を確保できた。高度計を見るとちょうど2000mで、肩から1000m下りてきたことになる。二人とも、そろそろ足の踏ん張りがきかなくなってきたところで、岩に座り込んで足をリラックスさせる。もうここまで来ればスポーツ新聞の脅威は感じなかった。
左岸に渡り返してしばらくすると道に水があふれ沢状になっているところがある。布の靴だとびしょびしょになってしまうだろう。そして桟道を通り涼やかな沢に沿って行く。過去2回、いずれも8月にここを通ったときは沢の脇の大きな石に座って休めたのだが、今年は水量が多すぎてびしょ濡れになってしまう。途中、イメージと違って、何度か樹林が切れて日差しが強い。やはり足にきているらしく、3回くらいこけた。

10:08 分岐(1760m, 29.4℃)

同じような歩きにそろそろ飽きてきた頃、堰堤が現れる。堰堤の脇の高まりを乗り越えるとそこが御池との分岐だ。二俣から1時間ちょっとで着いた。もうあと20分もすれば広河原に着くだろうが、ちょっと広くなっていることだし、しっかり休むことにした。登ってくる人も結構多い。今日は暑くてたいへんだろう。

10:37 広河原(1645m, 29.5℃)

北岳
広河原から北岳を振り返る
ここで怪我をしたら元も子もないので、必要以上にゆっくり歩き、吊り橋を渡ってゴール。達成感でいっぱいになった。我々が感慨にふけっているその脇を、格好から見ておそらく初心者ばかりの50人近い団体が、北岳目指して吊り橋を渡っていった。人で埋め尽くされた吊り橋は壮観だった。それにしても橋の定員は何人なんだろう・・・
振り返ると大樺沢の上に北岳がよく見えた。そういえば広河原から北岳を見るのは初めてだ。過去はいつも曇っていたのだ。素直に、とても嬉しかった。

バスを待つ

アルペンプラザに行った。建物の中はひんやりとしていて静かだった。
今年は春先の道路崩落により広河原と夜叉神峠間の林道が不通になっている。奈良田からの林道は使えるが、もちろんバス路線ではない。したがって広河原に至る公共交通機関といえば、北沢峠からのバスしかないのだ。というわけで、我々は広河原 - 北沢峠 - 戸台口 - 高遠 - 茅野とバス4本を乗り継いで帰ることになったのだった。次の北沢峠行きバスは12:30発。トイレを済ませ、着替えると気分もさっぱりした。ベンチに座って缶コーヒーを飲んだりして涼んでいたら、いつの間にかバス停に長蛇の列ができていた。なんとその中にはスポーツ新聞30人組もいた。バスは5台を連ねて出発。おかげで我々の乗った車は最後尾であった。北沢峠で次のバスに乗れるだろうか。こいつらのせいで家に帰れないかもしれない。

12:55 北沢峠

北沢峠はかつりんの予想をはるかに越えたすさまじい混雑であったが、JRバス乗り継ぎの乗客を優先してくれたのですぐに乗ることができた。ほっとした。
運転席のすぐ後ろに陣取って、運転手の無線でのやりとりを聞いていると、長谷村営バスは全部で10台くらいあるらしい。全車両がフル回転で、もうすぐすれ違いだからどこそこで待っていろだのと指示する方もたいへんだ。しかしさすがプロフェッショナル、見事な連携でまったくよどみなくバスは進んでいった。

13:50 戸台口

しかし乗り継ぎのために戸台口で降りたのはわずか10人ほどであった。あまりにも少なくてびっくりした。他の人はみな、終点前の仙琉荘で降りてしまったのだ。仙琉荘で汗を流してから、車で帰るかあるいは新宿行きのバスにでも乗るのだろう。
戸台口のバス停はターミナルではなく、街道の真っ只中にぽつんとあって、日を遮るもののない灼熱のアスファルト地獄だった。やってきたバスは空っぽだったのですっかり登山専用バスとなった。乗客は、我々の到着前からバス停で待っていた人と合わせて20人くらいだった。

14:24 高遠

高遠からは伊那行きのバスも出ている。関西方面の人はそちらに向かったようだ。どうやら乗り継ぎ割り引きもあるらしい。
高遠には立派な待合があった。数年前に桜を見に来たときのことを思い出した。待合の自販機でジュースを買ったりして飲んだ。向かいの売店でアイスクリームを買う人もいた。登山者の他に地元の人が3人ばかり乗った。そのうちの2人は途中で降りた。茅野に近くなって、杖突峠でハイカーが大挙して乗ってきたが、それでも席はちょうど埋まったくらいだった。

15:37 茅野

特急「はまかいじ」に乗ると帰りがラクだったが、指定席はすでに満席だった。そこで茅野始発の快速「ホリデービューやまなし」に乗った。乗り継ぎ時間は10分ほどだったので、とりあえず280mlのペットボトルのお茶を買って急いで乗り込んだ。
全車両が2階建てで座席もたっぷり。大きなザックは階段の踊場に置いておける。これで19:30には家につけるなとほっとしたそのとき車内放送が。「この電車には車内販売はありません。また飲み物などの自動販売機もございません」・・・八王子まであと2時間半、280mlの水で過ごさなければならないのか・・・さすがは南アルプス、下山後も水に不自由するとは・・・
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