塩見岳 - 北岳縦走 2003年8月21日 - 24日 テント縦走 2ページ目

8月23日 晴れ

農鳥岳
夜明けの農鳥岳
お隣りさんと同じ2:30に起床。テントから見た農鳥岳の上空は雲が多かった。お隣さんは今日両俣から下山するとのことだった。昨日、4時出発では暗いことがわかったので、今日は5時出発とする。朝食は昨日の反省も踏まえて塩味控えめのエスプレッソパスタ。
高低差だけで言えば昨日よりも今日の方がハードだ。まず間ノ岳まで600mアップ。そして北岳山荘へは300mのダウン。再び北岳へ300m登り返し、肩まで200m下る。名峰2つを結んだりして、なんだかとても縦走っぽい。

5:18 出発(高度計:2570m, 温度計:18.3℃)

登山道
熊ノ平の登山道
井川越
井川越を見下ろす
テント場のすぐ近くから熊ノ平の花畑が広がる。ちょっと見飽きた感のしてきたマルバダケブキが大輪の花を咲かせている。よく見るとほかにもウメバチソウやらが咲いていた。花の道を過ぎると井川越のやせた稜線を通過し、三国平への斜面にとりつき、ジグザグに登っていく。見下ろすと斜面は一面のマルバダケブキで、昨日の北荒川岳の東斜面に匹敵する見事さだった。小屋も見えた・・・うわっ。22人出てきた!! 10分差だ。相棒の歩くスピードがあがった。

6:02 三国平(2735m, 15.1℃)

富士山と農鳥岳
農鳥岳の脇から富士山が
周囲の木にハイマツが混じってくると、みるみる道は平らになってきて、三国平に到着。ハイマツ帯の小石混じりの広々とした台地だ。ここまでワンピッチで登れた。
仙丈・甲斐駒がお目見え。この2つはいつも仲がいいなあ。農鳥岳の脇からは富士山も顔を出していた。振り返れば昨日苦しみながら歩いた塩見岳と仙塩尾根。今日は気分も眺めもすばらしい。朝食が早すぎたせいか、ここで早くも行動食を口にした。道は、次の台地を目指して目の前の広々とした斜面を登っていく。ここから先は風雨を遮るもののない稜線の歩きとなる。斜面を登りきったところで後ろを振り返るとご一行様の先頭が三国平に到着したところであった。

岩稜

岩稜
岩稜を行く相棒K
岩稜
岩稜を行く相棒K
三国平の上の台地は先に進むに従って徐々にやせ細っていく。そのやせた岩尾根の、おおむね東側を進む。両側は切れ落ちているので高度感もなかなかのものだ。手も使って攀じるようになると、一眼レフカメラの入ったウエストバッグが非常に邪魔になる。なんとかザックを下ろせるスペースをみつけ、ウエストバッグを外してザックにつけ、ついでにちょっと休憩。見上げると三峰岳のドーム状の山頂が意外に近いところにあった。しかしラクに登れるはずはないと疑心暗鬼になっている我々は「あれは偽ピークに違いない、騙されるな」と思いながら歩を進める。

7:11 三峰岳(2950m, 14.7℃)

三峰岳山頂
三峰岳山頂ケルンと甲斐駒
休憩地点で岩場はほとんど終了、あとは手を使わなかった。ピークは本物で、意外とあっさりと着いてしまった。山頂は岩がちで狭かった。この山の面白いのは標高が2999mということ。すると山頂に立っている自分のちょうど腹のあたりが標高3000mなのだろうか。そう考えたらなんだか体を輪切りにされたような気がしてきた。
展望もなかなかよく、南アルプスの峰々がほとんど見渡せた。仙塩尾根のちょうど中間点でもあり、樹に覆われた尾根が南北に続いている。なんといっても間ノ岳がどでかく腹をせり出しているさまが圧巻だ。これからこの山稜を登るのだ。(ぐるぐる写真
ご一行様が岩場で苦闘しているのが見えたところで、間ノ岳へ向けて出発。

8:23 間ノ岳登頂(3145m, 19.5℃)

間ノ岳
間ノ岳山頂標識と北岳
塩見岳
間ノ岳山頂から見る塩見岳
三峰岳から少しだけ下り、それからじわじわと岩まじりの道を登っていく。斜度はほぼ一定で、特に危ないところもなく快調そのもの。途中1回休憩をはさんだだけでわずか1時間ほどで登頂できた。
山頂は西からの強風が吹き荒れ、寒くて1分といられない。早速カッパを着込んで岩屑の東側に回りこむが、風が巻いてきて結局無意味だった。寒いので早々に出発しようと相談していたら、突如風が弱くなってきたのでまた腰を下ろした。昨年白峰三山を縦走したとき、それまで降っていた雨がこの山頂で突如晴れたのだが、今度もまた同じようなミラクルだ。我々と相性の良い山なのかもしれない。

9:15 間ノ岳発(3185m, 28.3℃)

登山道
3000mのスカイライン
のんびりとしていると、9時少し前にご一行様も山頂に到着し、にわかに山頂は騒がしくなった。ガイドが「富士山が噴火している」と言って笑っていた。見ると、キノコ形の雲がちょうど富士山の山頂部に乗っていた。昼寝をしていた登山者がひとりいたが農鳥方面に逃げていった。かわいそうに。
ご一行様が9:20に出発するというのでちょっと早目に山頂を後にした。憧れの3000mスカイラインの始まりだ。昨年はこの区間がガスだったのでとても楽しみにしていたのだ。
間ノ岳を出るとすぐにライチョウが現れた。まさか、天気が崩れる前触れだろうか? 我々のあとを追うようにしてご一行様もやってきた。

10:23 中白峰(3020m, 19.6℃)

登山道
中白峰直下のトウヤクリンドウ群落
やはり午前の稜線歩きは気持ちいい。30分ほどで小ピークに到着。立派なケルンに道標が嵌め込まれていて「中白峰山」と書いてあるがこれは間違いで、本当の中白峰はまだ先に見える顕著なピークだ。誰かがマジックで書いたらしい。もしガスっていて、この道が初めてだったら騙されていたかもしれない。迷惑を通り越して危険だ。すぐ後ろにご一行様がいると気分が落ち着かないので、ここで先に行ってもらうことにした。こういう団体が相手だとこちらが余計に気を遣わなければならないのが理不尽だといつも思う。
小ピークから岩礫混じりの道を再びゆるゆると下る。あたりはトウヤクリンドウが一面に咲いていた。右手には噴火中(笑)の富士山。下りきってやや登りかえすと本当の中白峰に到着。山頂手前数10mのところで道が二手に分かれる。左(西)は山頂へと続くが、我々は右の巻き道を選択。頂上部の高まりによって風が遮られ、休憩に最適なのを知っていたからだ。軽食をとって休み、山頂のご一行様が去ってからカメラだけ持って登った。

10:42 中白峰発(3040m, 24.2℃)

間ノ岳
中白峰より巨大な間ノ岳を望む
山頂で真っ先に北岳を見る。距離が近くなったせいか、はたまた見上げる目線になったせいか、間ノ岳では鋭利な刃物を感じさせた三角錐は、胴体の膨らみをちょっと増して、気品に溢れた実に優美な姿となっていた。間ノ岳から見た凛々しさに、この中白峰からはさらに迫力がプラスされて息を飲むほど美しい。
南を振り返ると間ノ岳の巨体が広がっていた。三峰岳から間ノ岳山頂へと続く稜線はほとんど直線を成していて、先ほどの登りがほぼ一定の斜度だったことを思い出す。その尾根の上に、塩見岳の鉄兜がちょこんと見えていた。東峰がちょっと出っ張っているのがよく分かった。しかし北岳と間ノ岳に囲まれるロケーションでは、昨日あれほど苦労した塩見岳の印象はほとんど薄れてしまう。
充分に眺めを堪能してからちょっと急な下りを北岳山荘へ。

11:11 北岳山荘(2885m, 24.2℃)

北岳山荘
北岳山荘
稜線の縦走路にザックをデポして山荘に。トイレを済ませる。それにしてもこのトイレは設備が過剰すぎる。環境保護を訴えるなら、このような建物よりも塩見小屋方式の方がよほど心に響くと思った。とはいえ、ここにトイレがあるのはありがたいこと。感謝して使わせてもらう。
小屋はペンキを塗りなおしたばかりなのかぴかぴかで、重かった入口の扉も開きやすくなっていた。牛乳を買って飲みながら残りの行程を考える。14時までに肩に着いたら、御池まで下りるつもりであった。しかしこの天気で下ってしまうというのはどうだろう。やはり山頂でのんびりして肩までとしよう。過去2回の北岳はいずれも雲の中だったのだ。今日のこの天気で山頂を楽しまないというテはない。それに肩なら水場は遠いが、朝焼けの富士山が見られる。

11:30 北岳山荘発(2895m, 23.7℃)

北岳
縦走路より北岳を見上げる
間ノ岳に登ったことですっかり一仕事終えた気分でまったりしてしまったが、気合を入れなおして出発。これまで半袖Tシャツ1枚だったので風が吹くと寒かった。そこでウールのシャツを引っ張り出して着た。カッパより涼しく、かと言って寒くはない。
道はガレているが、さほど急というほどでもなく難しいところもない。いいタイミングで平坦になったりするのでこまめに休憩をとる自分にはありがたい。途中1回だけハシゴを経由する。クサリの付いている道もあるが今はそこは通らない。
振り返るとご一行様も山荘を出てきた。トラバース道を経由して山頂を目指すようだ。

12:29 八本歯分岐(3070m, 20.5℃)

登山道
山頂直下のトラバースを行く
分岐の周辺は少し広くなっている。ずっと尾根に沿ってついていた道は、最後まで登り詰める前に、頂上直下で山腹を左(西)にトラバースする。そのトラバースが見えると、あともうちょっとだという気がする。
先行していた相棒が手招きしていた。珍しい花があるという。見るとタカネマンテマだった。こんな形でもナデシコの仲間らしい。確かに葉っぱはナデシコと同じだ。北岳固有の花というとキタダケソウがあまりにも有名だが、このタカネマンテマも日本では北岳でしか見られない(キタダケソウと違って外国にはあるらしいが)。変わった花を見られて、しかもそれが初めて見た花だったので、とても得した気分になった。
山腹のトラバースが終わると左の尾根を乗り越え、山頂標識が見える。頂上はすぐそこだ。

12:57 北岳登頂(3175m, 23.3℃)

富士山
まだ噴火している富士山
3度目にして初めての、快晴の北岳の頂であった。360度の大展望に歓声をあげた。北アルプスと中央アルプスは残念ながら雲の中だったが、南アルプス周辺は素晴らしい快晴で、居並ぶ山々が全て見渡せた。富士山は相変わらず噴火中だった。暑かったが渇きは感じなかった。

山頂でまったりと過ごす

地蔵岳
地蔵のオベリスクに雲が湧く
やがてご一行様も到着し、騒々しくなった。バットレスを登ってくるクライマーが見えるだの、カメラの電池がなくなったが替えがないだのと、とにかくやかましかった。しかしそんな騒ぎも、まだ下りが残ってはいるもののここまで歩いてきた充足感にどっぷりと包まれていた自分には関係なかった。とにかく気持ちよかった。強い日差しを避けるように岩陰に身を潜めていると、いつの間にか眠ってしまった。これまで山頂で昼寝なんてしたことはなかったのだが。
ご一行様は20分ほどいてから肩へと下り、あたりにはまた静けさが戻った。少しして、ザイルを肩に掛けたヘルメット姿のクライマー数人が大樺沢の方から登ってきた。するとそれを見た中年女性が「電信柱もないのに電気工事の人がきたわよ」これが一番のヒット作だったが、ほかにも「地蔵のアラベスク」がなかなか面白かった。いつもの自分なら、そんなことも知らんで山に来るなと腹を立てるところだが、もうどうでもよかった。

14:20 北岳発(3200m, 28.7℃)

北岳と間ノ岳
間ノ岳から北岳に続く稜線
みかんやゼリーを食べたりしながら、たっぷり1時間以上も頂上を満喫してから肩へと下った。途中振り返ると、先ほど歩いてきた間ノ岳から北岳へと続く稜線がきれいな曲線を描いていた。
下り一辺倒の岩場となり、肩のテント場が見下ろせた。おっ、一番崖よりの一等地が空いてる。あそこに張れば、ご来光劇場は誰にも邪魔されずにテントの中から見られるぞ。急いで下りたかったが、怪我をしては元も子もないので、落ち着いて慎重に下った。はるか下に御池も見えた。テントは1張りしか見えなかった。
軽装の人と多くすれ違うようになった。みな肩に泊まって山頂をピストンするらしい。

14:55 北岳の肩(2995m, 21.0℃)

肩の小屋前
夕暮れ前の肩の小屋の賑わい
最後にザレザレの急斜面を下りると肩の小屋のすぐ裏に出る。早い時間に到着できたのがほんとうに嬉しかった。
結局、一等地を占領することができた。しかしテントの形、また風向きから、入口を谷側に向けることはできなかった。仕方なく、富士山が見えるように横向きに張った。

水場

100m下ったところにあるという水場へ。先ほどまで見下ろしていたはずの鳳凰三山が、自分より高くなったような気がした。水場には黄ペンキでぶっきらぼうに「水」と書いてあった(「木」に見えるかも知れない)。流量がちょろちょろだったのでもっと下まで探索したがどこにも水は出ていなかった。普通なら水場で新鮮な水をがぶ飲みするのだが、そんなわけでその夢はかなわなかった。500ml汲むのに1分くらいかかったと思う。このとき気付いたのが、今日は水をわずか2Lしか消費していなかったということ。朝食がしょっぱくなかったからだろうか。
水汲みは疲れるが楽しい。花畑の中を下りていくのが好きだ。それに、特にこういうテント場から離れた水場だと、他の登山者との間に「水場仲間」みたいな妙な連帯感が生まれるのが面白い。テント場では他の人とはほとんど口をきかないかつりんも、水場ではどういうわけか饒舌になってしまう。このときも、水場で一緒になった人ととりとめのない話をしながら根気よく汲み続けた。その人は前日、本谷山でカメラのシャッターを押してあげた、100Lザックのソロの人だった。そういえば今朝も熊ノ平のテント場で見かけたっけ。今日は農鳥に寄ってからここまで来たという。タフな人がいるもんだ。
汲み終えて、トリカブトやフウロソウが咲く草原を休み休み登る。日陰なので周りはひんやりと涼しく気持ちよい。タイムは下り13分、登り18分だった。テントに帰ったらくたくたになってしまった。水はもったいなくて飲めないので、小屋で缶コーヒーを買って飲んだ。水汲みに行って喉が渇いて飲み物を買う・・・なんだかなあ。

夕景

地蔵岳
夕日に輝くオベリスク
富士山
富士山と雲
稜線で缶コーヒーを飲みながら夕暮れの富士山や鳳凰を眺めた。雲がいろんな色に染まって面白かった。地蔵のオベリスクはきらきらと輝いていた。稜線には、3日間同じ行程ですっかり顔を覚えてしまったご一行様の面々が溢れていた。相棒によれば、他にもツアー(しかも同じ旅行会社)が入っているということで、小屋はたいへん混雑しているようだった。風が強く、あっという間に寒くなったのでテントに帰った。テント場は東の斜面にあり、ほとんど無風で暖かい。
夕食は我が家の定番となったうな丼。デザートに、残ったゼリーを全部平らげた。ヘッドランプなしでの食事はこの縦走で初めてだった。食後、明日の朝食用に水1Lを買った。小屋の水は天水なので消毒薬がきつくたいへんまずいため調理専用にし、さっき汲んできた水を行動中の飲み水にするつもり。
就寝も早く、19時くらいには寝てしまったと思う。昨日一晩斜めに寝たら、今日は完璧に平らだったのでヘンな感じだった。テントは最終的には20張りくらいだったと思う。静かでよかった。
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