Science Daily 2021年3月19日
マイクロプラスチック廃棄物は
病原体や抗生物質耐性菌の拠点になる

ジェシー・ジェンキンス
ニュージャージー工科大学(NJIT)

情報源:Science Daily, March 19, 2021
How our microplastic waste becomes 'hubs'
for pathogens, antibiotic-resistant bacteria
by: Jesse Jenkins, NJIT
https://www.sciencedaily.com/releases/2021/03/210319183936.htm

オリジナル研究:
Journal of Hazardous Materials Letters Volume 2, November 2021, 100014
Microplastics as hubs enriching antibiotic-resistant bacteria
and pathogens in municipal activated sludge
Dung Ngoc Pham, Lerone Clark, Mengyan Li
https://doi.org/10.1016/j.hazl.2021.100014

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2021年3月24日
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210319_How_our_microplastic_waste_becomes_hubs_
for_pathogens_antibiotic-resistant_bacteria.html

概要
 遍在するマイクロプラスチックは、家庭の排水溝を流れ出て廃水処理プラントに入ると、その表面に病原体微生物や抗生物質耐性菌が付着して混ざり合い、ぬるぬるした層、すなわちバイオフィルムを形成しつつ、抗生物質耐性菌や病原体が成長する拠点〈ハブ〉になる可能性があることを研究者らが示した。


フルストーリー
 約40万人の住民にサービスを提供する平均的な規模の廃水処理プラントは、毎日最大 200万個のマイクロプラスチック粒子を環境に放出すると推定されている。それでも、研究者らは、化粧品、練り歯磨き、衣類のマイクロファイバーから食品、空気、飲料水に至るまで、長さが 5ミリメートル未満のこれらの超微細プラスチック粒子が環境と人間の健康に与える影響を今もなお研究している。

 現在、ニュージャージー工科大学(NJIT)の研究者は、遍在するマイクロプラスチックは、家庭の排水溝を流れ出て廃水処理プラントに入ると、その表面に病原体微生物や抗生物質耐性が付着して混ざり合い、ぬるぬるした層、すなわちバイオフィルムを形成しつつ、抗生物質耐性菌や病原体が成長する拠点〈ハブ〉になる可能性があることを示した。

 エルゼビア社(Elsevier)の Journal of Hazardous Materials Letters に掲載された調査結果では、研究者らは、都市下水処理施設の活性汚泥ユニット内に形成される可能性のあるマイクロプラスチック・バイオフィルムに生息している特定の細菌株が抗生物質耐性を最大 30倍上昇させることを発見した。

 ”最近の多くの研究は、年間数百万トンのマイクロプラスチック廃棄物が淡水および海洋環境に与える悪影響に焦点を当てているが、これまで、町や都市の廃水処理プロセスにおけるマイクロプラスチックの役割はほとんど知られていない”と NJIT の化学および環境科学の准教授であり、研究の責任著者であるメンヤン・リは述べた。”これらの廃水処理プラントは、さまざまな化学物質、抗生物質耐性菌、病原体が集まるホットスポットになる可能性がある。我々の研究によると、マイクロプラスチックはそれらの担体として機能し、水処理プロセスをバイパスすると、水生生物相と人間の健康に差し迫ったリスクをもたらす。”

 ”ほとんどの廃水処理プラントはマイクロプラスチックの除去用に設計されていないため、それらを常に環境に放出している”と、NJIT 博士論文提出志願者であり、論文の筆頭著者であるズン・ゴック・ファムは付け加えた。”我々の目標は、マイクロプラスチックが都市下水処理施設の活性汚泥から抗生物質耐性菌を濃縮しているかどうかを調査し、そうであれば、関与する微生物集団についてさらに調べることであった。”

 彼らの研究では、チームはニュージャージー北部の 3つの生活排水処理プラントからスラッジ・サンプルを収集し、ラボでそのサンプルに 2つの広く普及している市販のマイクロプラスチック(ポリエチレン(PE)とポリスチレン(PS))を植え付け(接種し)た。チームは、定量 PCRと次世代シーケンシング技術の組み合わせを使用して、マイクロプラスチック上で増殖する傾向のある細菌の種を特定し、その過程で細菌の遺伝的変化を追跡した。

 分析により、一般的な抗生物質であるスルホンアミドへの耐性を助けることが知られている 3つの遺伝子、特にsul1、sul2、intI1 は、マイクロプラスチック・バイオフィルム上で、砂バイオフィルムを使用したラボの対照試験よりも3日後に最大30倍大きいことが明らかになった。

 チームが抗生物質であるスルファメトキサゾール(SMX)をサンプルに添加したところ、抗生物質耐性遺伝子が最大 4.5倍まで増幅されたことがわかった。

 ”以前は、我々はこれらのマイクロプラスチック関連細菌の抗生物質耐性遺伝子を強化するために抗生物質の存在が必要だと考えていたが、マイクロプラスチックは自然にこれらの耐性遺伝子の取り込みを可能にするようである”とファムは言った。 ”しかし、抗生物質の存在は重要な相乗効果をもたらす。”

 マイクロプラスチックには、8種類の細菌が高度に濃縮されていることがわかった。これらの種の中で、チームは、呼吸器感染症に通常関連する 2つの新たなヒト病原体、ラウルテラ・オルニチノリティカ(Raoultella ornithinolytica)とステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)が、マイクロプラスチック・バイオフィルムに頻繁に便乗(hitchhiking)しているのを観察した。

 チームは、マイクロプラスチックに見られる最も一般的な菌株であるノボスフィンゴビウム・ポッカリ(Novosphingobium pokkalii)が、そのような病原体を引き付ける粘着性のバイオフィルムを形成する重要な開始剤であり、それが増殖するにつれて、それはプラスチックの劣化に寄与し、バイオフィルムを拡大する可能性があると述べている。同時に、チームの研究は、マイクロプラスチックに結合した微生物間で抗生物質耐性遺伝子の交換を可能にすることに主に関与する可動遺伝因子である遺伝子 intI1 の役割を強調した。

 ”マイクロプラスチックを単なる小さなビーズと考えるかもしれないが、それらは微生物が存在するための巨大な表面積を提供する”とリは説明する。 ”これらのマイクロプラスチックが廃水処理施設に入り、スラッジと混ざり合うと、ノボスフィンゴビウムのようなバクテリアが偶然表面に付着し、接着剤のような細胞外物質を分泌する可能性がある。他のバクテリアが表面に付着して成長すると、DNA を相互に交換することさえできる 。これが、抗生物質耐性遺伝子が個体群中に広まっている方法である。

 ”バクテリアがアミノグリコシド、ベータラクタム、トリメトプリムなどの他の抗生物質に対してもこのように耐性を示したという証拠がある”とファムは付け加えた。

 リは現在、ラボがマイクロプラスチックのバイオフィルム形成におけるノボスフィンゴビウムの役割をさらに研究していると述べている。チームはまた、紫外線や塩素などの消毒剤による廃水処理中のマイクロプラスチック・バイオフィルムの耐性を研究することにより、そのような病原体を運ぶマイクロプラスチックが水処理プロセスをバイパスする可能性の程度をよりよく理解しようとしている。

 ”一部の州では、消費者製品でのマイクロプラスチックの使用に関する新しい規制をすでに検討している。この研究は、廃水システムでのマイクロプラスチック・バイオフィルムのさらなる調査と、水生環境中にあるマイクロプラスチックを除去するための効果的な手段の開発を求めている”と、リは述べている。


記事の出典
 オリジナル記事は Jesse Jenkins によって書かれたものがニュージャージー工科大学(NJIT)によって提供されている。内容はスタイルや長さが編集されているかもしれない。

Journal Reference:
Dung Ngoc Pham, Lerone Clark, Mengyan Li.
Microplastics as hubs enriching antibiotic-resistant bacteria and pathogens
in municipal activated sludge. Journal of Hazardous Materials Letters, 2021; 2: 100014
DOI: 10.1016/j.hazl.2021.100014


訳注:当研究会が紹介したマイクロプラスチック関連記事


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