Environmental Health News 2019年10月11日
マイクロプラスチック汚染への注目は歓迎されるが
科学者らはもっと良いことをできるはずだ

様々な方法でマイクロプラスチック汚染研究に取り組む老練の海洋生物学者は元気づけられる。
ジュディス・シュルマン・ワイス(訳注1:海洋生物学者
情報源:Environmental Health News, October 11, 2019
The attention on microplastic pollution is welcomed.
But scientists can do better.
An expert marine biologist on the many ways microplastic pollution research can be bolstered
Judith Weis
https://www.ehn.org/better-microplastic-pollution-
science-2640872954.html?rebelltitem=1#rebelltitem1


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2019年10月16日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_19/191011_EHN_
The_attention_on_microplastic_pollution_is_welcomed_But_scientists_can_do_better.html

 過去数年で、サイズが 5 mm までのプラスチックの小片であるマイクロプラスチックは多くの注目を浴びるようになったが、全ての研究を同一視することはできない。科学者として、問題及び可能性のある解決をよりよく理解するために、我々は研究を強化する必要がある。

不正確なサンプル採取

 マイクロプラスチックは様々な発生源に由来し、様々な形状、色、サイズ、そして化学的組成を有する。例えば、マイクロビーズは洗顔料や歯磨きなどの製品中にスクラブ剤として導入されている小さな球形である。ナードル(nurdles)と呼ばれるレンズマメ(ヒラマメ)くらいの寸法のプラスチック樹脂粒は、もっと大きなプラスチック製品を製造するために使用される。

 毎週、マイクロプラスチックに関する新しい記事が科学誌に発表されるが、それらの全てがオリジナル又は重要というわけではない。多くの論文はある水域中で発見されるマイクロプラスチック粒子の数を報告している。

 これは現地の住民や政治家にとって興味深いことかもしれないが、標準化された採取方法又は分析方法がないので、これらの調査は不正確であり、互いを比較することは難しい。

 それでもこのサンプリングによって、いくつかのことが明確になる。第一に、網によるマイクロプラスチックの採取は、それらのほとんどを取り損なう。なぜなら、水サンプル全体を分析すれば最も多く見つかるであろう細長い微小線維タイプのものは、網の目を通り抜ける傾向があるからである。これらの微小線維は、主に合成繊維の衣類に由来し、それらは洗濯機で洗濯中に衣類から排水中に微小線維が抜け出す。

 第二に、全てのマイクロプラスチックが網を引く水の表面の近くに浮いているわけではない。密度の高いプラスシックは沈む。

 第三に、マイクロプラチックが採取されると、ある調査者はそれらを顕微鏡で勘定するが、それは誤差が大きい方法である。他の者は非常に高機能な化学的分析機器を使用するが、それはプラスチックの化学的性質を特定することができる

 もし正確に数えたいなら、異なる深さで全ての水サンプルを採取し、化学的分析機器を使用すべきである。

魅力と摂取

 もう一つのよくある調査は、ある種の魚、又はプランクトン、又はカニがマイクロプラスチックを食べるということを報告している。それは調査対象となったどの動物もそれらを食べているように見える。

 なぜそれらはマイクロプラスチックを食べるのかを−ある動物は臭いによって、他の動物はそれらの食物に似た外観によって惹かれる−見つけることは非常に興味深いであろう。

 マイクロプラスチックを食べる動物に関するほとんどの実験室での研究では、市場で入手可能な小さな球体を使用する。しかし微小球の存在は自然界ではまれであり、不規則な形状及び微小線維の方が一般的である。自然界で一般的なマイクロプラスチックの形状を使用する研究の方がより有用であろう。


海表面のマイクロプラスチック
 マイクロプラチックは、径が 0.5cm 以下の浮揚性のプラスチック材である。将来の海表面での世界の蓄積総量は、3つのプラスチック排出シナリオの下に示される。(1) 海洋への排出は2020年に止まる。(2) 2020年の排出レベルで停滞する。(3) プラスチック製造の過去の実績に準じて 2050年まで増大する。

 動物がそれらを食するが、どのくらいの量が、そしてどのくらいの速度で動物により取り除かれるのか検証した研究はほとんどない。

 マイクロプラスチックが原因の影響は、実際には栄養不良の症状、又は消化管の閉塞かもしれない。多くの場合、顕著な影響を引き起こすことなく、腸を通過するかも知れない。形状は重要かもしれない。球体は、 おそらく不規則な形状のものより容易に通過することができるが、鋭いエッジを持つものは組織を傷つける、又はプラスチック繊維は腸を閉塞させるかもしれない。

 最近のある研究は、ある種のエビは球体は排出するが、線維は吐き戻すことを見つけた。すなわち一度、食べられたプラスチックを排出するためにひとつ以上の方法があるということである。

 給餌と食物連鎖への取り込みに関する将来の研究は、主にマイクロファイバーを用い、実際的な給餌を行ない、排出に必要な時間を考慮すべきである。

どの様に有害物質を特定するか

 マイクロプラスチックは、環境から PCB類や農薬の様な有害化学物質を引き付け、プラスチックに結びつける。プラスチックは、汚染物質を動物に、そして食物連鎖に運ぶ”媒体”であるとみなされる。化学物質のこの移動はいくつかの研究で示されているが、動物に”現実の”食物を与え、またマイクロプラスチック及び付着した化学物質をともにを排出する時間を与えるというような、現実的なシナリオをもって実証していないことがしばしばある。

 腸の酵素が、マイクロプラスチックが通過している間に付着した汚染物質のどのくらいを処理することができるかを知ることは重要である。これはその生物種の消化系の長さと複雑性に依存するであろう。

 マイクロプラスチックはまた、エラの中にも見いだされるので、科学者はエラからの化学物質の暴露と摂取の呼吸経路を調査すべきである。

 我々はマイクロプラスチックは大気中と土壌中に一般的に存在することを知っており、したがって、土壌と陸生生物に関する研究が拡大されるべきである。

 衣類から環境中へのマイクロプラスチックの流れを削減するために、どのタイプの洗濯機が、合成繊維が、及び洗濯方法が、最も少ないマイクロプラスチックを排出するのかが調査されてきた。

 問題の根本において我々は、マイクロファイバーの抜け落ちを少なくするために線維の製造方法をどのように変更するかを発見するために化学工学者と繊維科学者を必要としている。

 我々は、マイクロプラスチック研究を過去10年間の長きにわたり行ってきた。しかし、科学を前進させ、意味ある解決を勧告するために、研究者は、量より質に焦点を合わせ、現実世界のシナリオを最も密接に模擬する手法を使用すべきである。

 ジュディス・ワイスは、ニュー・ジャージー州ニューアークのラトガース大学の生物科学の名誉教授である。ワイスは最近、Environmental Research 誌にマイクロプラスチック研究における問題点と潜在的な解決の概要を示す”マイクロプラスチック研究を改善する(Improving microplastic research)”と題する論文を発表した。


訳注1:ジュディス・ワイス
Judith Weis/Wikipedia



化学物質問題市民研究会
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