ScienceDirect 2020年3月2日
ポリスチレンナノ粒子:環境中の源と発生、
細胞組織内の分布、様々な生物への蓄積と毒性

Kinga Kik, Bozena Bukowska and Paulina Sicinska
ウッチ大学、ポーランド

情報源:ScienceDirect, 2 March 2020
Polystyrene nanoparticles: Sources, occurrence in the environment,
distribution in tissues, accumulation and toxicity to various organisms
Authors: Kinga Kik, Bozena Bukowska and Paulina Sicinska from University of Lodz

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/
S026974911933595X?via%3Dihub#bib78


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2020年3月20日
このページへのリンク
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/research/
200302_SD_Polystyrene_nanoparticles.html


ハイライト

  • 複数の研究がポリスチレン・ナノ粒子は生物体内に入り込むことを示唆している。
  • ポリスチレン・ナノ粒子は食物連鎖中に蓄積する。
  • ナノ粒子は、細胞膜への貫通を許すタンパク質コロナ(訳注1)により覆われている。
  • 試験管内及び生体内研究がポリスチレン・ナノ粒子は有害であり得ることを示唆している。
  • 現在、人体への影響に焦点を合わせた研究はない。

アブストラクト
 文明の発達はプラスチックの使用と関連する。プラスチックが市場に導入された時には、それはガラスより有害性が低いと想定されていた。最近、プラスチックは、分解せず、数百年にわたり環境中に存続するという深刻な環境問題であることが知られている。

 プラスチックは直径が 5,000 nm より小さいマイクロ粒子に、さらには直径が 100 nm より小さいナノ粒子(NPs)に分解するかもしれない。ナノ粒子は、大気中、土壌中、水中、及び汚泥中で検出されている。

 最もよく使われているプラスチックのひとつは、スチレンモノマーを重合化させたポリスチレン(PS)である。それは発泡スチレン及び玩具、 CDs 、及びカップのふたの様なその他の製品に使用される。試験管内(in vitro)及び生体内(in vivo)研究は、ポリスチレン・ナノ粒子(PS-NPs)は、皮膚、呼吸器、及び消化管の様ないくつかの経路を通じて生物体内に入り込むかもしれないことを示唆している。それらは生体に入り込み、さらに食物連鎖中に蓄積することがあり得る。ナノ粒子(NPs)は、細胞膜に入り込み細胞構造と相互作用することを可能にするタンパク質コロナによって被覆されている。細胞のタイプにより、ナノ粒子は飲作用(ピノサイトーシス)又は食作用(ファゴサイトーシス)(訳注2)を通じて、又は受動的に運ばれるかもしれない。現在、ポリスチレン・ナノ粒子(PS-NPs)の発がん可能性を示す研究はない。一方、ポリスチレン・モノマー(スチレン)は国際がん研究機関(IARC)により、ヒトに対する発がん性が疑われる物質(グループ 2B )として分類されている。

 プラスチックの広範な使用及び一次又は二次のプラスチック・ナノ粒子の存在にもかかわらず、これらの物質の人体への影響を評価した研究はない。本研究は、環境中のポリスチレン・ナノ粒子の形成、それらの食物連鎖中の蓄積、及び様々な生物体への潜在的な有害影響に関する文献データをレビューすることを目的とした。


訳注:本文から第2章を抜粋。引用論文のリンクは、オリジナル論文からアクセスしてください。
2. 環境中のマイクロ及びナノ・プラスチックの生成源

 プラスチックは海及び海洋の汚染の70%を占めている。毎年 800万トンのプラスチックが海に放出されている。不十分な有効措置、不測の流出、ポイ捨て、不法投棄、及び沿岸部での人間活動などのために、プラスチック生成物の約 10%が海洋に到達する(Waring et al., 2018)。Worm et al., 2017 は、プラスチック廃棄物は、かつて陸地を”沈黙の春”で脅かした DDT 又はポリ塩化ビフェニル類(PCBs)の様な他の残留性汚染物質と類似していると示唆した。そのようなシナリオが、現在、プラスチックを簡単には除去することができず、生物の体内及び沈殿物中に蓄積し、陸地におけるよりもっと長期間残留する海洋中で起きる可能性があるように見える。

 我々は、製造プロセスの過程におけるのと同様に、分解プロセスの結果として環境中に形成されるマイクロプラスチックについて多くを知らない。マイクロプラスチック粒子は直径が 5 マイクロメートル(μm)より小さい。生物学的、物理的、及び化学的要因の下に、それらは、100 ナノメートル(nm)以下の径を持つナノ粒子に分解される(Singh and Sharma, 2008; O'Brine and Thompson, 2010)。

 マイクロプラスチック及びナノプラスチックはそれらの生成源の観点から、一次及び二次として分類されるかもしれない。ポリスチレン粒子を含んで一次マイクロプラスチックは、産業により製造され、環境中に放出される(Shim et al., 2018)。これらの粒子の一次発生源には、医療用品及び電子機器だけでなく、化粧品、薬剤、塗料などがある(Koelman et al., 2015; Efimova et al., 2018)。化粧品産業では、それらはほとんど、洗顔用品(face cleansing)、手洗い用角質除去剤(exfoliating agents)、及び剥脱剤(peeling formulas)の成分である(Andrady, 2011)。ナノ粒子はまた、高温工業プロセス中で放出される(Snopczynski et al., 2009)。他の一次発生源はプラスチック容器製造プラントである(De Falco et al., 2018)。二次発生源は、物理的及び化学的プロセスの下に、プラスチック分粒子をより小さい粒子に分解する場合である。それらは、合成繊維から洗い落とされる粒子であり、不適切なプラスチック」廃棄物管理」の結果として放出される(Figure 3)。

Fig. 3. 環境中のナノプラスチックの一次及び二次発生源

 プラスチック分解がナノ粒子を自然環境中への放出をもたらすことを示す多くの報告がある(Koelman et al., 2015; da Costa et al., 2016; Hernandez et al., 2017)。それらは汚泥中に見られるが、汚泥は耕地土壌中におけるこれらの物質の源となるかもしれない(Habib et al., 1998, Jambeck et al., 2015)。川によって運ばれるプラスチックは、年間 800万トン、海や海洋に流れ込む(Jambeck et al., 2015)。マイクロプラスチックは機械的及び光酸化による分解中に形成される。最近の研究は、紫外光照射により分解プロセス(Lambert and Wagner, 2016)、又は海底泥の打ち上げ波帯における機械的破砕(Efimova et al., 2018)をシミュレーションすることにより、環境中でのポリスチレン製品(コーヒーカップのふた、使い捨ての皿、ポリスチレンフォーム)の分解を評価した。Ekvall et al.(2019)は、日常用途のポリスチレン製品(コーヒーカップのふた及び発泡ポリスチレンフォーム)の機械的な分解中のポリスチレン・ナノ粒子の形成を観察した。

 Lambert and Wagner (2016)による研究は、ポリスチレン製の使い捨てカップ・カバーの分解プロセス中に形成されるプラスチック・ナノ粒子に焦点を当てた。彼らは、56 日間にナノ粒子のわずかな放出を見た(1.26 x 108 粒子/mL)。

 これらの研究は、ナノプラスチックとマイクロプラスチックは実際に環境中で形成され、特に成形ポリスチレンが分解する時に様々なサイズで球形になることを実証した(Efimova et al., 2018)。


訳注1:タンパク質コロナ
訳注2:食作用/飲作用
  • 食作用/ウィキペディア
     食作用( phagocytosis/ファゴサイトーシス)とは、単球やマクロファージ、好中球等の細胞が体内(組織内、血液内など)にある程度大きなサイズの異物(細菌、ウイルス、寄生虫)や異常代謝物(ヘモジデリンなど)をエンドサイトーシスによって細胞内へと取り込み、分解する機構のこと。食作用は異物に対する免疫機構の最前線であり、自然免疫に分類される。

  • 飲作用/ウィキペディア
     飲作用(Pinocytosis/ピノサイトーシス)とは、細胞が行うエンドサイトーシスの形式の一つ。 細胞自身の栄養行為、細胞シグナル伝達等の、細胞というシステムの基本を構成する機能の1つであり、ほぼすべての細胞がこの機能を持つ。食作用が細胞外液に浮遊する粒子(壊れた細胞や病原菌)を選択的に細胞内に取り込むことを指すのに対し、飲作用は細胞外液を非選択的に細胞内に取り込むことを指す。

化学物質問題市民研究会
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