Environmental Health News, 2020年12月14日
水で風化したマイクロプラスチックは、
動物の細胞に浸透する可能性が高くなる

カスラ・ザレイ

情報源:Environmental Health News, December 14, 2020
Microplastics weathered by water are more likely to infiltrate an animal's cells
Kasra Zarei
https://www.ehn.org/microplastics-in-water-2649475744.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2020年12月23日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_201214_
Microplastics_weathered_by_water_are_more_likely_to_infiltrate_an_animals_cells.html


 淡水又は塩水に数週間さらされたマイクロプラスチックは、元の状態の汚染されていない粒子(pristine particles)と比較して、マウスの細胞に入り込む可能性が約10倍高いことを新たな研究が発見した。

 新らたな研究 によると、淡水または塩水環境にさらされたマイクロプラスチック粒子は、元の状態のさらされていない粒子(original, non-exposed particles)よりも動物の細胞に取り込まれる可能性が高い。

 この研究は、特定のマイクロプラスチックが以前に考えられていたよりも動物の体に浸透する可能性が高いという新たな証拠を提供するものであり、これは水生動物にとって特に懸念される。

 マイクロプラスチック(プラスチックの小さな断片)は、エベレスト山を含め、世界中のいたるところに存在する。人間によって廃棄されたプラスチックは時間が経つにつれて、細かく砕かれ、環境、特に海洋及び淡水生態系全体に広がり、ムール貝ゼブラフィッシュなどの生物によって摂取される。

 しかし、粒子がさまざまな動物や生物の細胞に入り込み、健康上のリスクを引き起こしたり、環境に影響を及ぼしたりする可能性があるかどうかなど、マイクロプラスチックについてはあまり研究されていない。

 ドイツのバイロイト大学の動物生態学教授で研究の筆頭著者であるクリスチャン・ラフォーシュは、EHNに「知識のギャップはたくさんある」と語った。 ”たとえば、マイクロプラスチックは消化管から[特定の水生生物の]組織に移動するが、誰もその理由は正確にはわからない”。

 新しい研究で、ラフォーシュ教授らは、淡水または塩水に数週間さらされたマイクロプラスチックは、元の粒子(pristine particles)と比較して、マウスの細胞に入る可能性が約 10倍高いことを発見した。研究はマウス細胞のみを使用して行われたが、同様の関係が日常的にそのような元の状態ではない(汚染された)マイクロプラスチックに遭遇する水生動物で観察される可能性があり、それはまた彼らの捕食者(人間を含む)にさらに未知の影響をもたらす可能性がある。

 これらのマイクロプラスチック粒子は、他の分子や微生物からなるコーティングで被覆され、「トロイの木馬」のように機能する。すなわち、生物の細胞はコーティングされたマイクロプラスチック粒子を飲み込む可能性が高く(元のコーティングされていない粒子と比較して)、生物の循環系に浸透する可能性がある。

 しかし、結果は、淡水または塩水にさらされたマイクロプラスチックが人間または他の生物に大きな健康リスクをもたらすことを必ずしも示唆しておらず、それはまださらなる研究が必要である。。

 ”研究対象となったマイクロプラスチックの健康への影響について直接結論を出すことはできない”と、同じく研究に関与したバイロイト大学の生物物理学のホルガー・クレス教授は EHN に語った。

 粒子状物質を吸入することの健康リスクについての研究はあるが、マイクロプラスチックの健康への影響についてはほとんど知られていない。それでも、新しい研究は大きな未解明の分野に一石を投じた。

 粒子の多くの物理的および生物学的特性(たとえば、構造、電荷、又はサイズ)は、マイクロプラスチックの環境および健康への影響の要因である可能性がある。そして、段階的な科学的プロセスにより、どの特性が原因であるかが解明される。

 ”それ(マイクロプラスチックの分野)はとても複雑なテーマであるが、どこかから始めなければならない”とラフォーシュ教授は述べた。 ”どのプラスチック特性が有害であるかがわかっていれば、環境に害を及ぼさない特性をもったプラスチックを設計できる”。

 さらに、これまで主にマイクロプラスチック関連の毒物学的研究では、汚染されていない元の状態の粒子(pristine particles )が使用されてきた。しかし、自然界のプラスチック粒子は、多くの場合、元の状態からはほど遠い。

 ”多くのプラスチックは環境中を時間を費やして漂流し、流域はそれらを水生環境に送り出すための活発な進路である”と、研究に関与しなかったユタ州立大学の流域科学の準教授であるジャニス・ブラーニーは EHN に語った。

 米国の孤立した地域にどのくらいのマイクロプラスチック粒子が蓄積するかを示す研究を最近発表したブラーニーは、以前の研究で彼女が観察したマイクロプラスチックは実際には元の状態ではなかったと述べている。

 彼女は、プラスチックは非常に長寿命であるため、”ほとんどの環境プラスチックはある程度の水生寿命を持つことは非常にありそうなことである”と付け加えた。

 元のマイクロプラスチックは、物理的特性とそれらが生物に吸収される可能性の両方の点で、環境に見られるものをあまり代表していない。そして、これにより科学者は今後、実験室でマイクロプラスチックをどのように研究するかを再考するかもしれない。

 ”元の状態の粒子のみを使用する実験室での研究は、生物の細胞と粒子の間の相互作用の強さを大幅に過小評価する可能性がある”とクレス教授は述べた。




化学物質問題市民研究会
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