欧州委員会 Science for Environment Policy 2015年5月28日
ビルディングのナノコーティングは
潜在的に有害なナノ粒子を大気に放出する


情報源:"Science for Environment Policy" 28 May 2015
European Commission DG Environment News Alert Service
Nanocoating on buildings releases potentially toxic particles to the air
http://ec.europa.eu/environment/integration/research/newsalert/pdf/
nanocoating_on_buildings_releases_potentially_toxic_particles_to_the_air_415na2_en.pdf


Source:
Shandilya, N., Le Bihan, O., Bressot, C. & Morgeneyer, M. (2015). Emission of Titanium Dioxide Nanoparticles from Building Materials to the Environment by Wear and Weather. Environmental Science & Technology 49(4): 2163.2170. DOI:10.1021/es504710p.
http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/es504710p

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2015年6月5日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/2015_SfEP_Nanocoating_on_buildings.html


 風化作用と摩損作用は、ビルディングの自浄性コーティングから二酸化チタンナノ粒子の離脱を引き起こすことがこの研究で報告されている。これらの粒子は、人と野生生物に有害かもしれない。研究者らは、これらのコーティングからのナノ粒子の離脱のレベルを予測するのに役立てるために、テスト結果から3つの指標を開発した。

 二酸化チタンのナノサイズ粒子を含む光触媒コーティングは、その抗菌特性及び自浄特性のために建物の外壁での使用が増大している。風化と摩損はそれらを崩壊することができ、そのことによるナノ粒子の環境中への放出について懸念がある。様々な研究が、ある種の二酸化チタンナノ粒子は人と動物を損なうことができることを報告している。たとえば、それらは DNA にダメージを与えることを実験が示している。

 この研究は、ナノ粒子の水及び大気への放出のレベルを予測するのに役立てるために、光触媒コーティングへの風化及び摩損の影響を調査した。コーティングは、二酸化チタン 1.1 容量パーセントからなり、粒子サイズは約 8 ナノメートルであった。

 風化の影響を再現するために7か月間、研究者らはコーティングを塗布したレンガを紫外線と水に暴露させた。2、4、6、7か月という4つの間隔で彼らは排水中のチタンのレベルを測定した。二酸化チタンナノ粒子の相対数又はパーセントを明確に測定することはできないので、チタンが測定された。しかしコーティングのナノ粒子は実験を通して扱われた唯一のチタン類である。

 4つの間隔のそれぞれにおいて、レンガはテストチャンバーに入れられ、塗料産業で製品をテストするために一般的に用いられている磨損技術を用いてこすられた。同技術は、典型的な家庭環境、すなわち、例えば歩いたり、ノックしたりすることで引き起こされるストレスのレベルで見いだされる摩擦レベルを再現するものである。次に研究者らは、粒子についてチャンバーの空気を分析した。

 風化作用は7か月の間に、コーティングの表面に変化をもたらし、割れと塊を生じさせたが、風化作用だけではナノ粒子を水に放出するようには見えなかった。チタンはどの段階においても 0.5 μg/リットル水という検出閾値を越えることはないように見えた。しかし、もっと長期の風化作用は違う結果をもたらすかもしれない。

 しかし風化と組み合わせると、摩損は確かにチタンを大気に放出した。4か月と7か月の間に放出量について大きな変化があった。調査期間を通じて大気 cm3 あたり約 500 粒子(チタン粒子はもちろんコーティングのポリマーとレンガ自身の粒子を含む)が記録された。4か月目においては全粒子の約7 %がチタンであッたが、7か月目では 55 %であった。

 意義深いことには、チタン粒子の大部分は’自由’(重量で90%)であった。このことは、それらはもはや材料中に結合されておらず、遊離しており、健康又は生態にリスクを及ぼすことができることを意味している。多くの以前の研究が、粒子はたとえ主材料の小さな断片であっても、そこに結合したままであることを示唆しているので、このことは重要であると研究者らは述べている。

 これらの結果から、研究者らはコーティングからのナノ粒子の放出を予測するのに役立つ3つの指標を開発した。
  1. 放出変化速度(ETP):風化作用期間中の粒子濃度の変化速度。例えば、この研究における ETP は4か月後に加速された。
  2. 安定放出期間(SED):これはコーティングの寿命を示す得点である。得点が高ければそれだけ寿命が長い。この研究におけるコーティングは、4か月後に初期の 320 点から 110 点に落ち、6か月後に 0 点になった。得点が”0”と言うことは、摩損が始まればすぐにコーティングは消滅することを示唆する。
  3. 安定放出レベル(SEL):対応する SED 得点についての粒子の濃度。それはこの研究では風化期間とともに増大した。例えば、研究の開始時にはSELは、SEDが320であった時、約75粒子/cm3 空気であった。それは4か月後に SED が110 であった時、約200粒子/cm3 空気であった。
 かくして研究者らは、加速された風化作用の4か月がこのコーティングの’ナノ安全寿命’−賞味期限-であるとみなしている。この研究の発見は、安全設計に役立てるために他の形状のナノコーティングに拡張することができる。



化学物質問題市民研究会
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