SAICM-AP/UNITAR/OECD 2009年11月27日 北京
途上国・移行経済国のための
ナノテク・ナノ材料に関する
アジア・太平洋地域ワークショップ 参加報告

参照:
UNITAR/OECD/IOMC Awareness-Raising Workshop for Developing and Transition Countries on Nanotechnology/Manufactured Nanomaterials Asia-Pacific Region Beijing, China 27 November 2009


報告:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年12月29日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/conference/091127_Beijing_nano.html



Imagae: UNITAR

■はじめに
 第2回SAICMアジア太平洋地域会合が11月23−24日に北京で開催され、同会合に引き続き、水銀に関するアジア太平洋地域協議会合(11月24〜26日)とナノテクノロジー及び工業用ナノ材料に関する地域ワークショップ(11月27日)が開催されました。
 当研究会が有害化学物質、水銀、電子廃棄物、ナノテク等の問題に関わっているということで、国際POPs廃絶ネットワーク(IPEN)から、この会合及びワークショップへの参加を勧められました。スケジュールの都合で、SAICM地域会合と水銀ワークショップには参加できませんでしたが、11月27日のナノ・ワークショップと前日のIPENナノ・グループのリーダとの協議に当研究会の安間武が参加したので、その概要を報告します。

■SAICMの概要
国際化学物質管理会議(ICCM)
 2006年2月にドバイ(アラブ首長国連邦)で開催された国際化学物質管理会議(ICCM)で「国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)」が策定されました。
 SAICMは2020年までに化学物質が健康や環境への影響を最小とする方法で製造・使用されるようにすることを目標としています。
第2回国際化学物質管理会議(ICCM2)
 SAICM 実施状況のレビューを行うことを主目的として2009年5月11−15日、ジュネーブで開催されました。この会議において、ナノテク製品中の化学物質電子廃棄物塗料中の鉛過フッ素化合物がSAICMの新規課題として取り組まれることになりました。SAICMの詳細及びこれら新規の課題については当研究会のウェブ:http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/saicm_master.html で詳しく解説し、文書を日本語化して紹介していますので、関心のある方はそちらをご覧ください。
第2回SAICMアジア太平洋地域会合
 2009年11月23−24日に北京で開催された地域会合の概要については、環境省の平成21年11月30日報道発表資料をご覧ください。http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=11858

■ナノテクノロジー及び工業用ナノ材料に関するSAICM地域ワークショップ
 ICCM2で、”ナノテクノロジーと工業用ナノ材料”がSAICMの新規課題のひとつになり、SAICMの活動として途上国各地域で経済協力開発機構(OECDと国連訓練・調査研究所(UNITAR)主催の下に、ナノ・ワークショップを開催することが決められました。
 今回、アジア太平洋地域(11月27日、北京/中国)、中東欧地域(12月11日、ウッチ/ポーランド)で行われ、来年はアフリカ地域(1月26、27日、コートジボワール)、ラテンアメリカ・カリブ海地域(3月12日、ジャマイカ)、アラブ準地域(4月、エジプト)で開催されることになりました。
 下記UNITARのウェブサイトに概要が示されているように、SAICMの地域ナノ・ワークショップの開催目的は、今後ナノテク関連又はナノ物質含有製品がナノテクに関する知見の乏しい途上国や移行経済国に送り込まれた時にどのような影響が起こり得るのかということを含んで、ナノテクノロジーの課題に関するこの地域での知見を高めることであるとしています。
Nanotechnology and Manufactured Nanomaterials

 そのためにOECDやアジア太平洋地域のナノ先進国において実施されているナノテクや工業用ナノ材料の”リスクや安全”に対する取り組みの紹介が期待されました。

1.当研究会の参加目的
 当研究会が北京でのナノ・ワークショップに参加した主要な目的は3つありました。
  1. OECDやアジア各国が進めているナノテクノロジー及び工業用ナノ材料に関する取り組みの状況を把握すること。
  2. アジアのナノ後進国の政府代表及びNGOsの発言からナノ先進国と後進国の”ナノ格差”を観察し、今後ナノが及ぼすナノ後進国への経済的、文化的影響を考える上での参考とすること。
  3. IPENナノ・ワーキング・グループのリーダーであるデービッド・アゾレー氏(国際環境法センター(CIEL))に会い、ナノの問題に関するNGOの国際的な取り組み状況について話を聞き、また当研究会のナノへの取り組みを紹介し、国際的なナノNGOコミュニティに参加すること。

2.ワークショップの概要
 プログラム、発表資料を含むワークショップの関連文書はUNITARの下記ウェブサイトから入手できます。
Meeting Documents
▼主催
 OECD:経済協力開発機構
 UNITAR:国連訓練調査研究所
▼参加者:OECD、UNITAR、アジア太平洋地域の各国政府代表、研究機関、及びIPENが取りまとめたNGOs。参加したNGOsはスイス、アメリカ、日本、クックアイランド、フィリピン、バングラデシュ、キルギスタン、中国、ネパールなどでした。しかし、今回のNGOsからの参加者のなかでナノの問題に取り組んでいる人は少なく、ナノの問題に対するアジアのNGOsの関心と知見はかなり低いように見えました。
▼プログラム概要
詳細プログラム
  • 主催者(OECD)による紹介、会議の目的、展望
  • ナノの潜在的なベネフィットと潜在的なヒト健康と環境へのリスク
  • ナノの人、労働者、環境のリスク管理
  • OECDの活動概要
  • 各国のナノ安全管理に対する取り組み(中国、日本、韓国、タイ、キルギスタン)
    日本は、環境省が「工業用ナノ材料に関する環境影響防止ガイドライン」について、経済産業省が「ナノマテリアルリスク評価研究」について発表。
  • NGO代表としてデービッド・アゾレー氏が「INGOの見解」を発表
  • 産業側の見解発表(メモの代読)
  • ラウンドテーブル(参加者の事前コメントをコーディネータが紹介)
  • 第3回国際化学物質管理会議への展望

3.アゾレー氏の発表概要
An NGO perspective

▼IPENの活動
  • 有害物質に取り組む世界の700以上のNGOsからなるネットワーク
  • SAICM及びOECDにNGO代表として参加
  • IPENのナノWGは1年前に設立
▼ナノに関する基本的事実
  • ナノ物質は従来の物質とは異なる
  • 新たな機会もあるがリスクもある
  • 市場に1000以上の製品が出ているがほとんど安全情報はない
  • テストされていないナノ物質に人や環境は暴露している
  • ビジネス優先でナノが推進されている
  • 過去の新規技術/新規物質に関連する教訓が無視されている
▼市民社会としての勧告
  • ノーデータ・ノーマーケット原則
  • 予防原則
  • 市民の選択する権利
  • 法的拘束力のあるナノデータ登録
  • ナノ製品表示義務
  • 労働者への適切な情報提供
  • 健康・環境リスク研究への十分な基金
  • ナショナル・プロファイルにナノテクノロジーを含めること

4.アゾレー氏との情報交換
  • アゾレー氏はアメリカの国際環境法センター(CIEL)に属する弁護士で、IPENナノWGのリーダーであるが、ジュネーブ在住でOECDナノテクノロジー作業部会(WPN)にNGO代表として参加し、OECDの活動を監視している。REACHや米有害物質規制法(TSCA)などの化学物質政策に通じており、理念や関心の対象に私と多くの共通部分があることがわかり、貴重な情報を得た。

  • NGOの立場からナノの問題に取り組む世界の専門家についての情報を入手した。その中には2006年12月のICON東京会議で面識を得た活動家やウェブサイト等で既にその活動を承知している人もいる。今後、この国際的なNGOネットワークからの情報入手が期待できる。

  • アゾレー氏に当研究会のナノに関する活動と見解を示した英文のパワーポイントを事前に送付していたが、当研究会のナノに対する考え方と取り組みが高く評価された。27日のワークショップにおける同氏の発表で当研究会の見解の一部(ナノにおけるノーデータ・ノーマーケットの考え方など)が反映されていた。

5.アゾレー氏のナノ・ワークショップに関するレポート
 アゾレー氏は北京/中国でのアジア太平洋地域ナノ・ワークショップ(11月27日)に参加後、ウッチ(Lodz)/ポーランドでの中東欧地域ナノ・ワークショップ(12月11日)にも参加しており、この二つのナノ・ワークショップに関するレポートが寄せられたので、その内容の一部を紹介します。(文責:安間)

▼双方ほぼ同じ議題であったが北京は会議開催の準備期間が短すぎて内容は不十分。
  • 北京会合は会議開催の準備期間が短すぎたために参加したナノ専門家の数が少なかった。その結果、主催者が、出席していない人の発表を読み上げたり、この課題に関連するOECDの活動をただ発表したり、特定の問題に関して発表するのではなく自国のナノ推進の状況を発表するだけの国もあった。この点に関してはウッチの会合の方が実際の専門家による発表があり少しはましであった。

  • どちらの会合も議題と内容はOECDの立場を反映しており、ナノの潜在的な危険性より便益を強調していた。しかし、ウッチではリスクとハザードに関する実際の発表があってバランスが取れており、このことは北京にはなかったことである。

  • ナノに関する自国の活動を発表したほとんどの国は全くのナノ熱狂者であったが、例えばポーランドなどいくつかの国は、ナノの大きな不確実性について認識しており、もっと多くのEHS(環境・健康・安全)研究と予防に基づくアプローチの必要性を強調した。

▼しかしこれらの会合にはいくつかの前向きな点もあった。

  • UNITARが積極的に会議を推進し、重要な役割を果たした。
  • SAICMフォーカル・ポイントからの参加があり、一般的に彼らは保健省から来ているので、リスクが現実のものとなった場合には大きな影響を及ぼしコストがかかることを知っている。したがって彼らの反応は、明らかに中国やロシアなどを除けば一般的に我々の主張を支えるものである。
  • 建設的な質問があり、それらの人々が最小限のリソースを自国政府から与えられれば、この問題をもっと深く掘り下げて、我々の主張にもっと反応する可能性がある。
  • 両方の会合で、ICCM-3のリポーティング・スキームを討議する時に、ある国がダカール声明(安間・注)に言及した。ポーランドでは、ダカール声明のコピーを配布する人がいた。先進国の圧力を考えればこのようなことは容易ではないはずなのに、ダカール声明に同意し、それを支持する側に立つ多くの国があることを見るのは喜ばしいことである。

    (安間・注):第6回政府間化学物質安全性フォーラムIFCS/FORUM-VIにおいて2008年9月24日に発表された「工業ナノ物質に関するダカール声明」をNGOは高く評価しており、2008年5月の第2回国際化学物質管理会議(ICCM2)で同意されたナノテクノロジーに関する行動はナノの課題の緊急性を反映しておらず、ダカール声明の足元にも及ばないという「声明」を出している。
6.まとめ

▼当研究会の三つの参加目的の達成
  • OECDやアジアのナノテク先進国が進めている政策は、”ナノ推進”であり、EHS(環境・健康・安全)に対する理念や政策が不十分であることがわかった。
  • アジアにおけるナノに関する先進国と後進国との格差は大きく、アジアのNGOsも実質的にはほとんどナノの問題に関わっていないことがわかった。今後、ナノ先進国によるナノ後進国の経済的、文化的支配が進むことが危惧される。
  • アゾレー氏からは有益な情報を得ることができ、今後の国際的なNGOコミュニティに参加する足がかりを得た。
▼国際機関によるナノ安全の取り組み
  • ナノの安全に関わる取り組みは各国がバラバラに行うのではなく、NGO代表の参加の下に国際的な機関が協調して行うということには同意するが、”ナノ推進”が前提であってはならない。
  • OECDの取り組みはナノの便益を主張し、ナノ推進が大前提である。
  • OECDの取り組みをNGOは常に監視する必要がある。

▼NGOsによるナノ安全の取り組み
  • 世界でナノに取り組むNGOsや活動家が少ない。アゾレー氏との意見交換で、「求められる安全に対する考え方は古典的化学物質も新たなナノ物質も全く同じであるのに、古典的化学物質の世界から出てこないNGOs/活動家が多い」という点で意見が一致した。一般市民への働きかけだけでなく、既存のNGOs/活動家への働きかけも重要である。

参考資料:IPENが今までにナノに関して発表した見解
(報告と文責:安間武)

当研究会はアジア・太平洋地域ワークショップ参加のための費用についてUNITARから支援を受けたことを感謝します。



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