バングラディッシュ その6
Gazariaその5
Gazariaその6
今日は、主に外来で過ごした。
今日も、沢山の子供が来たが、疥癬とARIでほとんどを占めた。大体のdisease profileは分かってきたように思われる。
よく診るとDermatitisもいくつかパターンがあり、疥癬以外にも、原因不明のもの(写真左)があったりする。
Local doctorのDr.Masudはプライマリーケアのドクターとしては、十分な経験があり、
特に、ここら辺での病気の鑑別診断を非常によく教えてくれる。
たとえば、dysenteryなら、まず、細菌性やアメーバ性かが問題となるが、細菌性の場合、通常血便であることが多く、
アメーバ性の場合、粘液性であり、異臭を伴うのが特徴だそうだ。
Diarrheaの場合、コレラを疑うのは、嘔吐を伴い、全身状態が悪い場合で、米のとぎ汁様の水様便以外にも、鑑別点があるそうだ。
間欠熱の場合は、マラリア、カラアザール、腸チフス、結核、感染性回虫症、ARIが鑑別に上がるそうで、
肝、脾腫がない場合、前二者は否定されるそうであり、Widal testはほぼルーチンに行われる。
このような感染症の鑑別診断は、日本の医師にはなかなか挙げることが出来ないので、非常にためになる情報である。
今日の、診療中に緊急で来た患者は(写真右)、癲癇を起こして、転落し、肩関節を脱臼した患者であり、
これは全身麻酔下で整復をするということで、転送することとなった。
その後、ここのDr.とともに、ミーティングをする時間があり、彼らの話を聞くと、
近くに全身麻酔の手術の出来る施設が欲しいそうで、特に帝王切開などは、ダッカまで送るのは非常に危険であり、
是非そういった施設が欲しいとのことだった。
彼らの言うには、プライマリーヘルスケアの施設がいくつもあっても仕方がないので、単なるプライマリーヘルスケアの施設でなく、
もっと特殊な施設を作ればニーズはもっと高いだろうということであった。
確かにうなずける所もある。
その後、ヘルスコンプレックスから帰って来て、また、ビレッジに行った。
ここのローカルの井戸は、砒素が混入しているところは写真のように赤の色を塗って区別している。
ガザリアエリアで汚染井戸は80%になるそうであり、飲み水のためには、300mより深く井戸を掘ると大丈夫なのだそうだ。
これは、かつてUSaidで、田舎の村に送電線を引いたときの電柱に、砒素の成分がふくまれたとのことで、
それが原因で、80mから200mの深さのエリアに砒素が混入したと言うように考えられている理由にもなっている。
そして、こういった井戸は、飲み水としては使えないのだが、手を洗ったりするのには実は今でも使っているのである。
今日はHossaindi Unionではなく、ちょっと遠いが、Baluakandi Unionに行った。
ここでも、患者のProfileは同様で、調査をしながらも、関係ない患者のことで相談を受けたりすることが多く、
ちょっとした巡回診療と健康相談にもなっている。実際、ヘルスコンプレックスで昼間会った患者もいて、なかなか複雑である。
彼らは、もちろんヘルスコンプレックスも利用しているので、有料のサービスの場合、受け入れないだろうから、
ヘルスセンターを作るにしても、やり方が難しい。
政府の病院で出来ないことで、住民のニーズに合ったことを考える必要がある。
朝からヘルスコンプレックスに行ったが、今日は、ヘルスコンプレックスの夜間緊急の状態を知るために、遅くまでいることにした。
本来は泊まろうと思ったのだが、深夜は患者が来ないし、宿泊のほうも面倒らしいので、夜の8時頃までいるということに落ち着いた。
外来を少しやってから、病棟に行った、2日前に回診したのだが、そのときと入院患者はかなり変わっていて、
患者の回転が速いのがわかる。
女性部屋は子供のARIだらけになっていて、さながら小児病棟になってしまった。
全部で8人の入院中6人が子供である。他は、糖尿と急性腹症である。
男性部屋は、肛門周囲膿瘍の若者と、Infected wound、高血圧の老人で下痢部屋に女性の入院がいるが、
この前いた重症の下痢の患者はもう退院したそうだ。
ショックになったような患者がわずか2日で帰るところは驚きである。
今日はいつもより、外来患者は少ない印象があったが、それでも、忙しいときは1人見るのに5秒とかからないときもある。
一言会話をしたのちには処方箋を書き始めて、それを渡して終わりである。評判が悪いのも分かる。
今日気がついたのだが、砒素中毒のキャンペーンポスターが院内に貼ってあった。
ベンガル語なので、内容は分からないが、写真は印象的である。(写真右上)
外来が終わってから、ここのセンターに何が足りないのかをDrに聞いてみた。
すると、内科的には、コンサルタントレベルのスペシャリスト、外科、婦人科的には、スペシャリストと全身麻酔可能な手術室と麻酔器、
設備では、ECGと超音波、内視鏡だそうだ。
ECGはもちろん撮る患者は沢山いるのだが、機械がないそうで、近くにある診断センターと言う民間のセンターに有料で頼んでいる。
ここには、技師が1人いて、レントゲンと血液、尿検査をしており、週に一回だけ超音波のスペシャリストが機械を持って来るそうである。
もちろん、ここのセンターはヘルスコンプレックスの患者のみを対象に経営しており、他には近くに医療機関などない。
ヘルスコンプレックスにもレントゲンや血液検査はあるのだが、外来を見ていると自分のところでやっている形跡がない。
この点をDrに聞くと、ヘルスコンプレックスには毎日技師がいないのだそうだ。おそらく検査の信頼度も低そうだし、
この診断センターとつるんでいるのかもしれない。
いずれにせよ、このように患者は無料のはずの政府の医療機関に来ても、
薬代や検査代を余計に払わなければならない状況にあるのである。
外来は2時には終了するが、時間外の時間になっても、ぽつぽつと患者はあまり途切れることなくやってくる。
今日の時間外は主に子供のARIが多く、1人肺炎で入院した。
子供の入院の適応は、respiratory distressの程度と、ぐったりしているかどうかによるそうで、
さすがにこれだけ子供ばかり見ていると、その辺の感じが分かってきた。
夜6時半頃、病棟の回診に行くと、分娩間近の母親が来ていると言う。
しかし、この母親は子宮脱であり、正常分娩は危険で、帝王切開をしたほうが良いという判断で、ダッカに送ることになった。
そして、その手はずを整えているさなか、 実はなんと正常分娩で生まれてしまった。こういうこともあるそうである。
しかし、助産婦もベテランがそろっていて、Dr.MasudもGPであるが、経験があり産科の知識も非常に豊富である。
彼が、専門病院に転送する基準というのは、Twin、Dispropotion、頚管開大後4時間経過した難産、出血だそうだ。
私は小児科、産科に関しては全くたちうち出来ないのだが、こういった何でもやるプライマリーケア医というのは、
日本にも、昔はいたのだろうが、今は非常に少ないと思われる。しかし、Dr.Aminに言わせると、
「お前のような若い医者は、プライマリーケアなどやらずに、専門医療をやるべきだ。
プライマリーケアは私のような年寄りに任せておけ。」とのことである。
遅くまで残っていたおかげで、なかなか貴重な経験が出来た。
こういった場所では、産科が出来ないといけないということは知ってはいたが、それを実感した出来事だった。