バングラディッシュ その5


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Gazariaその3



朝起きて、朝食はバナナで簡単に済まし、ヘルスコンプレックスに行った。
昨晩、急性腹症が入院したらしく、見に行くと、おそらく潰瘍で、しかも幽門狭窄になっていると思われる患者が入院していた。 こういったひどい潰瘍患者の頻度は多く、これは、手術の適応ということで、ダッカに送ることとなる。
他に、外来にヘルニア嵌頓か、陰嚢水腫と思われる患者が来ていて、これも手術の適応であった。
これらの患者のあとは、通常外来を見ていたが、多いのは、子供のARIと疥癬、胃潰瘍である。
ちなみに、この地域で潰瘍患者が多いのは、主に非常にスパイシーな食事を摂ることと、生活のストレスが多いこと、 および、潰瘍の知識が普及してきて、皆、ちょっと胃の調子が悪いと潰瘍だと言って薬をもらいにくるが、 実際内視鏡をやるケースは少ないため、潰瘍でない患者も潰瘍とされていることが原因だとのことだ。 ただし、明らかに、日本に比べてひどい潰瘍の頻度は高く、潰瘍による幽門狭窄の症例が多い。

ここでは、包帯交換や縫合などの処置は、ビレッジドクターが行う。ビレッジドクターは医師の資格はなく、 簡単な講習を受けたのち、医療行為を行うことが出来る。薬剤師やその他の人がかねていたりするらしい。 医師の数が少ない国ならではである。
一人、外来に肺炎でフォローしていた子供が、死亡して運ばれてきた。 この子は入院を勧めたが、家族が拒否して、外来でフォローしていたそうだ。 おそらく分泌物がつまっての窒息と思われる。こういうケースはさすがに稀で、この一年で、このケースを含めて2例だそうだ。
しかし、以前はこのような上気道炎(ARI)がひどくなり死亡するケースがもっと多かったらしい。
また、以前は下痢でもなくなるケースが多かったが、ORSが普及してから、ほとんど死亡しなくなったとのことである。 その分ARIの対策が望まれているらしい。
外来をよく観察してみると、院内処方で出す無料の薬と、院外になってしまうが、通常の診療で行っているものと、 政府の病院にいながら、プライベートのクリニックとして行っている患者に自動的に分けていることが分かった。
そして、プライベートのクリニックとして行う場合は、別の白い紙に書き、診察もより丁寧である。 主に、ちょっと厄介な病気で、しかも見た目が裕福そうな患者の場合に限って行われているようだ。
ここの医師は、評判ほど出来の悪い医師ではなく、それなりに診断能力はあるのだが、検査が出来ず、薬もないので、 こういったシステムにならざるを得ないようだ。
もちろん、貧しそうな患者の場合、無料の薬だけで何とかしようとするので、十分な治療にならないこともある。 Dr.Aminはここの常勤になるのだが、いろいろと話している限り、貧しい患者に対して、何とかしようと言う気持ちは感じられる。
いずれにせよ、ここの患者は貧しく、社会的状況が最も難しい問題である。

2時過ぎに、帰って来て、昼食。ライスとフィッシュカレーと野菜。その後、ビレッジに行き、アンケートの続きをした。
今日はまた26人ほど症例を稼いだ。
今日の村は、いつも以上に痛みを訴える患者が多く、子供は疥癬だらけであった。 結構貧しい部落のようだ。潰瘍患者は少ない印象があった。
年寄りの中には、いまだに汚染した井戸水を飲んでいるものもいた。何をいまさらと言う感じなのかもしれない。

夕方帰ってくると、ラザックも帰ってきていて、いろいろ建物の点検したのち、 夜にもかかわらず、ヴォーケーショントレーニングセンターの記念植樹を行うと言うことになった。 これは未来永劫残るとのことだから、名誉なことである。(写真)
そして、ラザックとフェビアンはダッカに帰った。 このままフェビアンは19日に日本に帰るので、会うのはこれが最後である。その代わり、22日に新しく看護婦さんが来るらしい。 そして、私の仕事を引き継いでもらうことになる。



Gazariaその4

今日は、ヘルスコンプレックスで、いろいろ情報が入った。
今日の入院患者は、男性5人、女性11人(含む子供)下痢ベッド2人である。

女性部屋は、 子供のARIが4人、Bronchial Asthmaが3人、DU1人、BBO1人、RTA1人、DM1人
男性部屋は、 PUO1人、DU1人、Appendicitis1人、Infectious wound1人、子供の下痢1人で、 下痢部屋に重症の下痢(写真右下)が2人である。
男性の入院が少ないのは、来週はムスリムのフェスティバルで休日なので、 皆入院したがらないのだそうだ。
重症の下痢の患者は、昨日来たときは血圧が触れなかったが、入院して6gの輸液とORSの併用で、 血圧は回復してきた。しかし、いまだ下痢は続いていて、状態は良くない。 Appendicitisは保存的に診ていたが、やはり手術適応であり、局所麻酔で手術が出来るならばやっても良いと言われたが、 、ちょっとひどそうなので、結局転送となった。
外来は、相変わらず込んでいて、こどものscabiesがやたらたくさん来る。 他にはARIやdystenteryである。

その後、Drにここの病院の統計を見せてもらった。

外来では、下痢や潰瘍などの消化器系の疾患が多く、子供の呼吸器疾患も多い。 皮膚疾患は多くは疥癬であるが、これも多い。
高血圧や糖尿病はもともと、こういった田舎の地域では少なく、しかも、あっても病院にはこないで、 薬局で自分で薬を買って飲んでいるそうである。
よって来た患者は皆重症であり、入院するので、統計にはないのだそうだ。
喘息も同様に、ひどくならないと病院には来ない。 婦人科系の入院が多いのは、通常分娩はここで行うからである。 その他では外傷が結構多いようである。
一月の疾患別外来総数が約7000人であるから、単純計算で一日外来数は200人を超える。 これを二人で診るので、一人100人を4時間の間に診ることになる。
実際は、1人で複数の病気を持つ人がいるので、これよりは少なくなると思われるが、 それにしても、これは膨大な数である。一人当たりにかける時間は2分がせいぜいであることになる。 これでは、質の高い医療は期待するほうが無理である。

話は変わるが、この病院には、毎日製薬会社のセールススタッフがきて薬の説明をする。 今日は、PPIの売り込みに来ていたが、バングラディッシュでは、日本のように、 PPIの処方に制限は全くない。
よって、H2-blockerと同時に長く処方することも可能である。ちなみに、ラニチジン1錠は4Tk、 オメプラゾン1錠は8Tkであり、大して値段は変わらないし、価格も安い。
日本だと、PPIは高価な印象があるが、それは、おそらく製薬会社が大儲けしているためだろう。
ちなみに、ここの医師は、貧しい患者を相手にしていて、しかも、彼らが外の薬局で薬を買うことがあるので、 薬の実際の値段をよく知っている。抗生剤も何が安くて、いくらすると言うのを気にしながら処方をする。 それは、確かに良いことであると思う。

病院業務を終えて、今日も、ある村に行って、調査を行った。 行けば必ず沢山の疥癬の子供がいるのが分かったので、今日は疥癬ローションを入手して、 行った村に無料で配ることにした。
よってちょっとした巡回診療と言う形になった。
さすがに、無料で薬を配ると反応が違い、人々が大勢やってきて大変な状態になる。 いつもながら、疥癬や潰瘍の頻度は多いが、それ以上に、不明熱や全身倦怠感を訴える人が、 ほとんどであるのに驚く。
ちょうど子育ての時期のお母さんの世代が多く、そういった影響もあるのかもしれないので、 都市部でも調査をしてみて、どのように違いが出るか見る必要があると思う。