バングラディッシュ その2


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バングラディッシュ医療事情



バングラディシュでは、ユニオンと呼ばれる、日本で言えば町のレベルまで政府の病院、もしくはクリニックが建てられており、 基本的に無料の医療を提供している。 その代わり保険に関しては、公的保険は存在せず、一部のお金持ちのために、プライベートの保険があるだけである。
しかし、問題なのは、政府の病院では治療費はただではあるが、お金がないために、質の高い医療を提供できない。 たとえば、レントゲンの機械があっても、フィルムがなくて、写真が撮れないとか、試薬が無くて血液検査が出来ない ということもよくあるらしい。
また、本来、医療費はすべてただではあるが、高価な薬、たとえば抗生物質などは政府の病院では出せないので、 そういった薬は自己負担で外の薬局で買ってもらうことになるそうである。 従って無料の医療といっても、本当に無料ですべてがすむわけではない。

バングラディシュの医師は、5年の学部教育と1年のインターンを経て医師の免許を取得する。 その後、MS(外科)MD(内科)の各スペシャリティのためのトレーニングコースに進み、5年の過程を終了すると各専門医の資格を得られる。 ここまでは大抵の医師が目指すそうであり、そのうえにはFCPSという専門医資格があるが、非常に取得は難しいそうである。
これは、イギリスの資格である、FRCS、FRCOG、MRCPという各専門医資格と同等であるそうで、 近年はこちらの資格を目指すケースも多いそうである。 バングラディッシュは旧イギリスの植民地であり、英語はネイティブではないが、ほとんど不自由はないので、こういったことも可能なのである。
実際、こういった資格を取った専門医のなかには、アメリカやイギリスに行って医師をするものも多いらしい。
バングラディッシュにいる専門医は、昼間は政府の病院や大きなプライベートの病院でコンサルタントとして働くが、給料がわるいので、 夕方からはプライベートのクリニックに行って働くのが一般的である。 よって、一般の政府の病院には、卒業したての若い医師ばかりがいることになり、診療レベルも低い。

患者も、このことを知っているので、中級以上の生活レベルの人々は、皆プライベートクリニックに行く。 しかし、問題はお金がかかることである。 逆に、貧しい人はお金が払えないので、政府の病院に行くのだが、満足する医療が受けられないことになる。
それでも、政府の病院は沢山の患者がきて大変な待ち時間であるそうで、一人の医師が一日50-60人の患者をみるので、 当然診察はいい加減になるし、フォローアップもきちんとできないそうである。 中には、政府の病院の外来をやっているにもかかわらず、プライベートの患者として、お金を取って診察するケースもあるそうであり、 システムはめちゃめちゃである。 また、貧しい人は処方箋をもらってもお金がないために薬が買えないことがあり、実際、院外薬局の列に待つ人々に、処方箋を見せて、 物乞いをする人もいる状態である。

一方、バングラディッシュのプライベートクリニックでは、昼間はDutyと呼ばれる若い医師が、 入院患者のマネージメントをして、外来は夕方まで行われない。 夕方になると、政府の大きな病院などで働いていたコンサルタントが戻ってきて、専門外来をしたり、手術をしたりすることになる。 コンサルタントの経歴は、入り口に掲示されていて、PhDを持っているとか、どこそこの助教授であるとか、 そういった経歴が患者にも分かるようになっている。
多くの経歴を積み重ねても、全くその情報が患者に提供されず、そういった資格が収入にほとんど影響をしない日本のシステムとは違い、 実力のある医師が高収入を得るという意味では医師にとっては全く公平なシステムである。 患者にとっても医師を選べるというメリットがある。
ダッカにある大きな政府の病院は、IPGM(Institute of Postgraduate Medical Research)(1000床)、と二つの大学病院(750床)、 それともう一つ総合病院(300床)があり、 それ以外に専門病院で政府系の病院が整形外科(500床)、小児科(500床)、腎臓科(250床)、精神科(250床)などがあるそうであり、 それ以外では、BIRDEM病院というプライベート病院(1000床)がダッカでは非常に大きい病院であるそうである。 このように、大きな病院はダッカに集中しているが、他の農村部には、十分な質を持った医療機関がないそうである。

ある日の午後に、BRACというバングラディッシュで有名な巨大NGOの本部に行き、いろいろと話を聞いた。
バングラディッシュはNGO大国であり、これはどういう意味かというと、数百あるという現地や、 国際組織のNGOが様々なプロジェクトを繰り広げているということである。
BRACはその中でも非常に大きなNGOの一つであり、マイクロクレジットという経済活動により、貧困地域の開発援助をしている。 BRACはとてつもない大きな組織であり、これだけでなく、多くの分野にわたって活動をしており、 バングラディッシュの貧困地域の22箇所にHealth centerを作っている。
こういった援助活動を支えるための、一般の企業のような営利活動もしていて、土産物屋なども経営している。 実際、BRACの店にも行ったが、規模も大きく、普通のデパートの様である。
BRACのHealth centerの年報を調べると、各種統計が出来ていて、1996年の統計によると、5歳以下の乳幼児の死亡率が高く、 その死因の内訳は、下痢19%、未熟児19%、栄養失調17%、出生時外傷11%であり、 新生児に限ると、低体重28%、未熟児25%、出生時外傷19%であった。 また、死亡者の年齢別の内訳は新生児が47%、1月以降1歳以下が24%であり、圧倒的に新生児、乳児の志望が多い。
よって、バングラディッシュでは、こういった母子出産に関するケアが重要であると思われた。 BRACの診療所での実際の患者の内訳は、胃腸疾患26%、呼吸器疾患20%、下痢9%、皮膚疾患、栄養失調、STDが7%となる。 年齢的には、15-49歳が63%、5歳以下12%、5-14歳10%であり、女性が64%と多いのが特徴であった。



フリーフライディクリニック


今日は朝から、旧市街の一画にあるAMDAのフリーフライディクリニックに行った。 ここは、地元のロータリークラブによってサポートされており、旧市街のスラムエリアに存在する。 もともとは、洪水のときの緊急救援から始まったそうで、当初は一日100人ほどの患者がきたそうだが、 現在では政府のクリニックが出来たために、患者が分散して、こちらには平均10人前後しか来ない。
患者は子供が多く、疾患内容は皮膚疾患、下痢、胃潰瘍、呼吸器疾患が主なものであるそうだ。 診察はJBFHの若い医師が担当して、診察代も薬も無料なのだが、限られた予算のために、使う薬は昔の薬や値段の安い薬を使い、 時にはサンプルの薬も使ったりしている。
また、身なりなどで判断し、中級以上の階級のひとには、処方箋だけをだし、自分で薬を買ってもらうような体制にもなっている。
ここのクリニックはスラムにあり、貧しい人にとってアクセスが良いというメリットはあるが、診療内容は良いとは言えず、 結局政府系の病院に患者が流れる結果となっている。 ここの計画としては、高価な薬をより安価に入手するルートなどを使い、高い薬を安く提供するようなことを考えているそうであるが、 診療所自体の設備の問題もあり、これからどういう方向で活動するかは難しい問題である。
11時には診療が終わり、一服して解散となる。帰りがけにBuriganga川に新しくかかった橋にいって観光もどきのことをした。 その後ホテルに戻って、外に出かけ、例によってインターネットショップに行き、床屋さんに行き終了となる。



ガザリア


朝6時45分にホテルを出て、ガザリアという田舎の村に向かった。 ここがプロジェクトエリアであるが、今回の目的は医療ニーズ調査のような仕事である。 とりあえず、一日滞在し、その後準備をして、1週間滞在することになる。
この地域は川に囲まれているため、特に雨季はアクセスが悪く、そのためいろいろなプロジェクトからneglectされてきたエリアで、 とりわけ貧しい人々が住んでいる。一部の村にはまだ電気もない。もちろん水道も無く、井戸はあるが、砒素汚染で多くは使えない。 よって、炊事洗濯とも川ですることになるが、汚物も流れてくる川なので、その衛生状態は極めて悪い。

救急車であまり乗り心地がよくない中、建築中のガザリアの事務所に着いた。 ここは川べりにあり、川よりにはヘルスセンターが作られているが、まだ土台が出来たばかりで、 当初の計画とおり3月半ばに完成するのは難しい状況である。
現在は乾季であるが、雨季に水量が増えて、川幅が広がっても対処できるように高床式の構造になっている。 すでに、事務所の建物には電気もひかれており、14日にはこちらに来て宿泊し、 ガザリアにある政府の病院で診療の見学をすることになる。 ガザリアにあるunionのうち、Hossaind, Tanganchar, Gazaria, Baliakandの4つのユニオンが 今回のヘルスセンターのターゲットになるが、一部のユニオンでは、ボートによるアクセスしかないので、 ボートによるモバイルクリニックが必要になる。
実際、ボートに乗って、一部のユニオンに行って住民に話しを聞くと、彼らは政府の病院を信用していなく、 政府の病院は無料だが、良い薬はくれないし、医師のレベルが低く、病気の診断が出来ないとのことで、 ここのユニオンの住民の多くは他の地域にあるプライベートクリニックにわざわざ行くそうである。
その場合、アクセスだけでも100TK かかるし、コンサルトだけで50TK、それに薬代が250TKかかったりする。 ヘルスセンターが出来て、そこに良い医師が居て、良い薬を安く手に入れる事が出来れば患者は来ると思われるが、 それが出来るかどうかが鍵である。
二箇所のグループを回りインタビューをした後、政府の病院に見学の許可を求めて訪ねた。 政府の病院は、敷地は結構広い。施設面ではあまり良いようには見えない。 交渉の結果、見学はさせてもらえることになり、14日から一週間程度の滞在になると思われる。

DSK


今日は、午後からDSKに行ってマネージャーとミーティングをして、その後病院のほうに行き、さらにディスカッションをした。 DSKは、スラムなどの貧しい人々を対象とした援助活動をしているNGOで、マイクロクレジットやヘルスセンターの設立の実績がある。
DSKの病院を見学したが、ここでは、コンサルタントに15TK。薬はディスカウントで購入し半額程度で提供しているという。
入院施設は20床あり、医師は5人。トップは産婦人科のスペシャリストであるが、そのほかはGPである。 そのため、マタニティケアや帝王切開などの産婦人科系の患者が多い。
他には整形外科のコンサルタントが来るそうで、骨折の手術くらいはしている。 施設としては最低限という感じであるが、営利を目的としていない病院であるから、これが限界という感じである。
それでも、来る患者は貧困者ばかりであるから、十分な実績を上げていると言える。