▼小説【小さな天使が眠るとき】
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†第1章(あらすじ)
絵を描く少女
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冬の夜、警告音の鳴り響く踏切に一人佇むミサキ。
傷を重ねたその手には、家族をはじめとする許せない人間達に対し確実に報復する武器が握られていた。
それは彼女が『爆弾』と呼ぶスマホ。
そのメモリの中には許せない人間達の醜悪なデータがたくさん蓄えられていて、それらをネットにばらまいて電車に飛び込むのが復讐。
目の前を電車が次々と行き交う。
市販薬の副作用によって震えだした指でデータの送信アイコンをタップし、誘われるように線路へ。
人生最大にして最後の仕事をなし終え、これでこの世とサヨナラしたはずだった。
なのに目が覚めたのはあの世などではなく、なぜか丘の上の空き地。
その夕暮れの空き地で、コンクリートの地面に絵を描く少女と出会う。
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†第2章(あらすじ)
壊れた家
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死に損なったからには、許せない人間達の苦しむ姿をたっぷり拝んでやろうと考えたミサキだったが、スマホを無くしてしまう。
仕方なくネットカフェで確認すると、肝心の爆弾データまでアップロードに失敗していた。
途方に暮れるミサキの前に唯一の友達だったエリが現れ、スマホ探しを手伝ってもらう。
けれど見つからず、クラブにいたエリの男友達にも協力の約束をとりつけて、その日は一旦諦める。
次の日、情報を求めて久しぶりに学校へ行くも収穫はなく、再び踏切へ立ち寄るミサキ。
自分の死に場所がそこにあるのに、死ぬことの出来ないもどかしさ。
苛立つミサキの脳裏にふと、あの丘で出会った少女の姿が浮かぶ。
「ここで一生懸命お祈りしながら描くとね、おねえちゃんのこと助けようとして死んじゃったお父さんやお母さんやお兄ちゃんにもう一度会えるんだって…」
そう言って、下手くそな絵を描いていたあの偽善に満ちた少女。
キレイ事を並べながらも、帰宅を促す夕刻の童謡が流れると、何事もなかったかのようにそそくさと丘を下りていくあの忌々しい後ろ姿。
あれはきっと裕福な家庭で温々と育った子が、誰かに変な知識を吹き込まれた結果に違いない。
そんな風に考え、自分の苛立ちの大きな要因があの少女にあると気づいたミサキは行動を起こす。
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†第3章(あらすじ)
裏切り
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絵なんか描いていたってムダ、世の中は酷く汚くどうしようもない。
そんな現実というものを、あの少女に教えてやる。
死ぬのはその後だ。
そう息巻いて再び丘へとやって来るミサキ。
少女はその日も来ていた。
しかし、地面の絵は雨でグシャグシャになっていた。
してやったりとせせら笑うミサキ。
構わず絵を描き直し始める少女。
それから空き地へと通う毎日が始まる。
少女の近くに陣取り、ファーストフードを貪りながら説教やヤジを飛ばし続けるミサキ。
いくら罵られても、消されても消されても、描くことを止めようとしない少女。
不毛に繰り返される日々の中、強いて進展といえるのは少女が『サーシャ』と呼ばれているとわかったことくらい。
スマホも一向に見つからない。
死からどんどん遠ざかっている自分。
これから一体どうしたらいいのか、全くわからなくなってきていたミサキの前に、突然エリの男友達が現れる。
そしてその男は、スマホが見つかったと告げた。
けれどそれは、友達だったはずのエリの裏切り。
ミサキは埠頭の倉庫の中で男達に襲われてしまう。
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†第4章(あらすじ)
嘘の記憶
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なんとかスマホを取り戻し、男達から逃げ延びたミサキは、無意識にあの空き地へと向かっていた。
最初の日と同じ土管の中で眠り再び目を覚ますと、サーシャはいつもの場所でいつものように絵を描いていた。
「そういえば最近、あのブチ猫見かけないね」
何気に言ったミサキの一言。
サーシャはミサキを壊れた壁の裏手へと連れて行く。
そこには死んだ子猫の亡骸があり、そのお腹には、数日前に気紛れでサーシャに渡したハンバーガーが抱かせてあった。
「天国ではお腹空かせないように……」
そう瞳を伏せるサーシャに、ミサキの怒りが爆発する。
サーシャを突き飛ばし、チョークを踏みつけ、罵詈雑言を浴びせて丘を下りるミサキ。
それから数日、誰もいない家の中で市販薬を飲み続けていたミサキは、死ぬ決意を固めるチャンスとばかり、近所の醜悪な主婦達の井戸端会議に耳をそばだてる。
すると主婦達の話題が偶然サーシャのものになる。
そこでミサキは彼女の過去を知る。
彼女は自分が想像していたような裕福な家の子ではないということ。
火事で家と家族を失っていたということ。
それどころかずっと酷い虐待を受けていて、親に火を付けられ焼き殺されそうになっていたということ。
そして今は天涯孤独の身となり、死んだ家族に会えると信じてあの丘で絵を描いているということ。
そんな彼女に自分はどれだけ酷い仕打ちをしていたのか。
愕然としたミサキはたまらず家を飛び出し丘へと向かう。
息を切らせて空き地に着いてみると、サーシャの絵は完成していた。
彼女の思い描く家族の姿。
しかし肝心の彼女がいない。
必死になって探し回るミサキ。
そんな時、スマホの着信音が鳴った。
それはミサキを襲った男からだった。
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†第5章(あらすじ)
衝 動
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ミサキへの腹いせとして、サーシャはあの男達によってさらわれていた。
夜になっても見つからない。
それでも必死になって探し回るミサキ。
やっとの思いで見つけだしたサーシャは、打ち棄てられた古い公衆トイレに首輪でつながれていた。
彼女の全身を覆う生々しい傷。
しかしミサキを愕然とさせたのは、それらの傷と共にあった引きつった火傷の痕とおびただしい虐待の傷痕。
それは主婦達の噂話を証明するものだった。
ミサキは激しく後悔する。
「また何か悪いことしちゃったのかな……」
そう言って悲しい表情を浮かべるサーシャ。
地面に落ちた雪は解けることなく積もりだし、徐々に地面を白く染めていく。
サーシャの冷え切った身体を抱き締めミサキは想う。
私達なんていらない存在なんだ。
死のう、この子と一緒に。
そんなミサキの腕の中で、サーシャが次々と意外な言葉を投げかける。
「目、閉じたら……そしたら……みんなに会える、かな……」
サーシャの願い、それは死に別れた家族に会うこと。
自分を虐待した挙げ句に殺そうとまでした人間達を恋い慕うサーシャ。
今ここで死んだら自分達は地獄へ行く。
その地獄には家族という仮面をかぶった悪魔達がいる。
そんな奴らにこの子は絶対渡せない。
なんとしても阻止しなければならない。
死への扉に手をかけていたミサキの中に、本能といっていいほどの激しい衝動が生まれる。
そして、ミサキは自分でも信じられない言葉を口にする。
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†第6章(あらすじ)
雪の舞い降るあの坂を
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サーシャをおぶって丘を下り始めるミサキ。
天候は吹雪へと変わる。
意識が薄れていくサーシャ。
凍えた坂道をミサキの足跡がたどたどしく続いていく。
「みんなでピクニックしたい」
なんとかサーシャの意識をつなごうとたずねたミサキへの答え。
そんなこと言っても、もうどうしようもないんだよ!
ミサキは揺らぎそうな心を立て直すべく、無心になろうと目を瞑る。
しかしそんな望みとは裏腹に、複雑な想いが去来する。
するとひととき吹雪が収まり、二人を包み込むかのように牡丹雪が舞い降りてくる。
その刹那……ミサキの心に溢れ出す幼い頃の家族の記憶。
不思議な感覚から醒めたミサキの前に踏切が姿を現す。
この向こうには、この子が歩いていく新しい道がある。
きっとその先には、この子の思い描くような本当の家族も待ってる。
ミサキは再びサーシャをしっかりとおぶり直し、身体の限界を超える力を振り絞って再び立ち上がる。
そして、死ぬために踏切の向こう側から飛び込んだ時と同じように、今度はこちら側から飛び込んだ。
生きるために。
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†第7章(あらすじ)
哀しい再会
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死んだはずのサーシャの肉親が彼女を連れ去ろうとする悪夢で目覚めたミサキ。
パニックになるミサキをなだめ、ここは病院だと伝える大きな腕時計をした看護師。
これまでの経緯を話すという条件でミサキはサーシャに会わせてもらう。
ミサキが連れて行かれたのは集中治療室。
意識不明のサーシャの枕元には真っ白なネームプレート。
サーシャは社会的には存在していない子供だという事実が改めて突きつけられる。
その後、ミサキはその担当看護師になぜか心を許し、多くのことを話してしまう。
そしてある日、サーシャの看病と自身の治療に専念するミサキの前に、一人の女の子が搬送されてくる。
それはなんと、クスリ漬けにされリンチを受け、瀕死の状態になったエリだった。
サーシャばかりかエリまでも……。
ミサキは怒りに震え、担当看護師の非番の夜、まだ治っていない足を引きずって復讐に向かう。
しかし、病院を出ようとしたミサキを私服の担当看護師が呼び止めた。
大きな腕時計をはずす看護師。
「私も同じ、あなたと同じなの。だからわかるのよ」
そう告白し、必死にミサキを受け止めようとする彼女に、ミサキは全ての気持ちをぶつける。
それからしばらくして容態が回復してきたエリは、薬物専門の病院に転送されることになった。
次の再会はこんな悲しいものでないことを祈り見送るミサキ。
エリは後悔の涙を残し運ばれて行く。
その日からミサキは色々なことを考え始める。
サーシャが目覚めるのを願いながら。
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†最終章(あらすじ)
小さな天使が眠るとき
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季節は春を迎え、帰宅を促す夕方の童謡が一時間遅れで流れるようになった。
ミサキが対処に困っていたスマホの爆弾データも、思いもよらない形で解決した。
複雑だった気持ちも少しずつ整理がついてきて、色々なことが上手く回り始める。
その一区切りとして、ミサキはサーシャと共にもう一度あの丘へ行かなくてはならないと感じていた。
春の暖かい日差しの中、二人は丘へと向かう。
空き地に着くと、そこでミサキが目にしたのは信じられない光景だった。
サーシャの絵のあった場所に咲き乱れる色とりどりの花々。
地面に描かれた絵に花で色が付いたなんて、何だかおとぎ話みたいだとミサキは思う。
けれど木洩れ日の中、喜びを精一杯あらわすサーシャの姿を見て、家族がバラバラになってから何があっても泣いたことがなかったミサキの目から一筋の涙が流れる。
家族がバラバラになってから何があっても泣いたことがなかったのに。
そこに看護師のイワマさんがコンビニのお弁当を持ってやって来る。
丘の上でのピクニック、幸せの予行練習。
それからサーシャは花の中に寝転がり、安らかに眠る。
そしてミサキは生に目覚め、大きな幸せの到来を予感する。
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(あらすじ)
†第1章『絵を描く少女』
†第2章『壊れた家』
†第3章『裏切り』
†第4章『嘘の記憶』
†第5章『衝 動』
†第6章『雪の舞い降るあの坂を』
†第7章『哀しい再会』
†最終章『小さな天使が眠るとき』
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(C) Natural-Rain.