五藤
GTL125/1200APO
その1
日本の職人が作る長焦点屈折の凄さ
公開:2020年2月12日
更新2024年6月19日
HAZ46架台の改良 を追加
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長焦点屈折の魅力 (2020年2月12日 記)
2011年9月、ななつがたけ北天文台へお邪魔した時、Nikon 10cm ED F12 を見て驚いた。10cmなのに、M57のリングの濃淡がきれいに見える。しかも30年以上前の望遠鏡! 無理のない設計、長焦点だと、こんなに凄いのかとすっかり思い知らされた。この30〜40年でいろいろなものは進歩したとは思うけれど、根本的な所:原理は変わっていないし、結局職人技には敵わない。
私はオーディオ歴は天文よりも遙かに古く、49年。CDプレーヤー、クロックこそ最新のものだけれど、最も中核を成すスピーカーは、もうお亡くなりになってしまった世界の宝:スピーカー職人の後藤さんと、コンデンサー・スピーカーの繊細さを越え、シングルコーンをものともしない点音源、そして原音と同じダイナミック・レンジの再現を目指して、20年以上前に3年半かけて一緒に作ったものだ。世界に2個しかない(つまりは、右と左)もので、今は富裕層相手に超高価格のシステムもあるけれど、全く相手にならない。職人技の成せる技の宝物。マグネットの材料も、もう手に入らなくなってしまった。
これを鳴らすアンプは、自分が電子になったつもりで設計、製作したもので、1970年代に奇跡的に生み出された部品を選別し立体配線で製作したもの。ハンダ付けの数は、通常の自作アンプの1/3以下。もう作れないし、これも20年以上稼働している。ターンテーブルのモーターは45年位前のもので、これもバッテリー駆動。もっともオーディオ全盛期のこの頃は、ノスタルジー趣味ではない、とんでもない名器がごろごろしていた。今はオーディオは進歩では無く、衰退の歴史。「マイ電柱ですか?」などと聞かれることもあるが、あり得ない。何故か、コンセントからの電源ケーブルに何万円(何十万円の市販品も多数)もかける人達がいるが、究極の電源はバッテリーであって、AC電源とは別次元。我が家のシステムは停電でも聴くことができる。
ちょと脱線したけれど、長焦点望遠鏡の凄さはずっと頭から離れることは無かった。考えてみれば、ドブソニアンだって長焦点にすれば、凄いニュートン、名機がある。結局、短、軽、安への進歩はあったけれど、基本は変わらない。ハーシェル・プリズムを購入した時、 迷わず長焦点屈折を選んだ。長焦点なら、それほど高価でなくとも、無理なく高品位の高倍率が得られるのではないかと思った。で、とある販売店の口径10cm、F10の廉価版望遠鏡を購入して見たら、思いっきり失望。F6のAPM屈折の方が、格段に見えた。長焦点といえども、ちゃんと作らなければ、だめ。そう甘くはなかった。
五藤テレスコープ GTM100/1000APO プロトタイプ機
その後、小淵沢のオフ会で、五藤テレスコープの10cm長焦点を見る機会があった。研磨職人のサイン入り。見た、といっても曇ってたので地上風景を見ただけ。星を見ないとなあ、と思っていたらあっという間に売り切れてしまって手遅れ。時が流れ、12.5cmの長焦点屈折が出るという。これは、もう二度と出ないであろう。良いものは買っておかないと、無くなるのが世の常。で、これは借金しても買っておかなければならない1台だと直感した。で、身辺整理して2016年、購入。残念ながらバックフォーカスが足りず、EMSが装着できない。とりあえずは、Baaderの銀天頂ミラーで運用。鏡筒バンドは、三基の軽量タイプに置換。
写真・右は、ハーシェル・プリズムの携帯手持ちコリメート撮影
架台は、当時太陽望遠鏡に使っていたAYO II。実際に星を、月を、惑星を見て驚嘆! こんなに見える鏡筒は初めてだ。本当に針を刺すような綺麗な恒星と、倍率を上げた時のディフラクション・リングは、本当に見る度に魅せられる。特に二重星の美しさは別格で、名だたる有名な美しい二重星を片っ端から見直した。 理論上の最大倍率250×まできっちり素晴らしい像を届けるだけでなく、月面ならまだまだ余裕。やまねこ座の12番星だって、70×で普通に二重星だけれど、324×で三重星に分離してみせる。しかしながら、長焦点。とにかくブレる。普通の架台ではダメで、やはり赤道儀が必要かと思わせる位。最高の屈折というとTOAが出てくるけれど、赤道儀使用前提、撮影重視のコンセプトとあのフォーカーサーは全く私とは相反するもので、縁が無い。
その後、半額で譲っていただいたAYO Digi で運用。こちらの方が積載重量が大きく、ブレも減った。DayStarにも応用。三脚は、カーボンよりも、VixenのHALの方が微振動が減る。が重い。長焦点は良く見えるが、運用はやはり大変だ。
あまりにも素晴らしい望遠鏡で手を加えたくはなかったが、はやり正立像・EMSで見たいので、鏡筒を短縮しフォーカサーを置換する事となった。加工は、当然ながら松本さんに依頼。大切な鏡筒だけど、全面的に信頼を持って預けられる。
フォーカサーはフェザータッチ3.5”で、当初、第一ミラーが大きくて、鏡筒のいかなる角度でもアイピースが正面を向くように可変出来る大きなEMSユニットだったが、本機は中倍率からの使用が主なので、今は小型の2”ミラーのEMSユニットを使っている。フォーカサーも、もう一つ小さく軽いものでも良かったかもしれない。
ちなみに大きい方のEMS。3インチ対応なので、3インチのアイピースがあったら覗いてみたい。
最強の架台/松本式中軸架台 2020年2月12日
という感じで、4年近く運用。しかし架台の課題は今一残っていた。私は経緯台派なので、過去にもsiteに報告の無い機種も沢山使用してきたが、その中で、傑出した架台があった。それは、松本式双眼望遠鏡の中軸式架台。従来は、私の双眼望遠鏡のように、HF経緯台を改造して使っていたが、その後、中軸式に進化した。双望会で触れて驚嘆! こんなに剛性感のある架台には出会ったことが無い。あの重いTOA 130の鏡筒が、自由な角度・高さでピタッと静止する。基本は鏡筒の前後バランスが取れているのが理想だが、いろいろなアイピース、特に重量級のアイピースと使用する現代では、架台のフリクションで吸収してもらわないと現実的には使用できない。
すっかりこの架台に魅了されたが、私の双眼望遠鏡は一体型で架台に載せればすぐに見れるし、62を過ぎた今でも計23Kgの双眼望遠鏡を難なく持ち上げて運用できるので、松本式中軸架台にお世話になるのは、さらなる老後かな、と思っていた。しかし、この中軸式架台。Vixenのアリガタ、アリミゾなら一般の望遠鏡も装着、運用が出来る。随分と年数が過ぎたけれど、この架台を注文することとなった。
架台本体は小さく、2.4Kg しかない。水平軸にはエンコーダーが付いている。普段は端子を導電スポンジでカヴァー。垂直軸は、高度センサーを使用する。延長筒は1.55Kg。
鏡筒を装着しようと思ったら、アリミゾに入らない。Lunt 10cm太陽望遠鏡は余裕で入るのに。どうやら三基の蜂の巣プレートの幅が大きめのようだ。架台のアリガタ固定の中間ワッシャーを外して対応。で、仕切り直して鏡筒を装着し、フードを伸ばす。アイピースは装着せず、フォーカサーは最短の位置。こんなアンバランスな状態でも、微動だにせずピタッと保持する。この架台は、頭の円形の部分が回転軸なので、回転軸の直径が極めて大きいのが効いているのだ。流石としかいいようがない。また、鏡筒の保持は、無駄に三脚の中心軸から離れていない。では、天頂方向はどうか?
三脚の間なら天頂OK。三脚の脚とフォーカサーが干渉する位置ではご覧の通り。また、HAL三脚を使えばOKで、カーボン三脚のエレベータを使って上げればOKだが、ブレは大きくなる。AYO Digi では、カーボン三脚よりもHAL三脚を使った方が振動は少なかったが、この架台だと、カーボンの方が早く揺れが吸収される。ということで、当分はカーボン三脚に中軸式架台で運用することにした。
総重量は、架台と三脚合わせて5.1Kg しかない。片手でらくらく持ち出せる。ちなみにAYO Digi 架台は、架台だけで6.0Kg 。双眼望遠鏡の場合は、今使用しているピラーに延長筒を装着し、そこに中軸式架台を載せることで対応。双望会第1回へは、ハイランダーで参加。そこで実際に双眼望遠鏡を見て、その道へ進んだ。その後、松本さんといろいろアイディアを出し合っている時、HF経緯台の逆で、鏡筒の間に架台があって、まるで鏡筒だけが空中に浮いているようなものを提案した。松本さんも同じ事を考えていて、それが具体化して生み出された中軸式架台。今、使う身となって、感慨深いものがある。 ここにようやく完成形として報告することと相成った。
現在の使用アイピースと倍率、実視野等をまとめた。Nagler 5 31mm 毒キノコは、双望会同窓会のフリマでわずか3万5千円で手に入れた。
口径 | f | 焦点距離 | 倍率 | 実視界 | 見掛視界 | アイ・レリーフ | 射出瞳径 | 備考 | |
五藤 GTL1251200APO | 125mm | 9.6 | 1200mm | ||||||
Masuyama | 60mm | 20 | 2.3° | 46° | 46.5mm | 6.3mm | |||
50mm | 24 | 2.2° | 53° | 40mm | 5.2mm | ||||
45mm | 27 | 2.0° | 53° | 32mm | 4.7mm | ||||
EWO | 40mm | 30 | 2.3° | 69° | 20mm | 4.2mm | |||
Nagler 5 | 31mm | 39 | 2.1° | 82° | 19mm | 3.3mm | |||
Ethos | 21mm | 57 | 1.8° | 100° | 15mm | 2.2mm | |||
NAV-HW 17mm | 17mm | 71 | 1.4° | 102° | 16mm | 1.8mm | |||
NAV-HW 12.5mm | 12.5mm | 96 | 1.1° | 102° | 16mm | 1.3mm | |||
Ethos | 10mm | 120 | 0.83° | 100° | 15mm | 1.0mm | |||
Ethos | 8mm | 150 | 0.67° | 100° | 15mm | 0.8mm | |||
Ethos | 6mm | 200 | 0.5° | 100° | 15mm | 0.6mm | |||
Pentax XO | 5mm | 240 | 0.18° | 44° | 3.6mm | 0.5mm | |||
Ethos SX | 4.7mm | 255 | 0.43° | 110° | 15mm | 0.5mm | |||
Zeiss ABBE II | 4mm | 300 | 0.14° | 43° | 0.4mm | ||||
Ethos SX | 3.7mm | 324 | 0.34° | 110° | 15mm | 0.4mm | |||
Herschel Prism | |||||||||
Leica Vario Zoom ASPH. 17.8 - 8.9mm |
17.8mm | 67 | 0.89° | 60° | 18mm | 1.9mm | |||
8.9mm | 135 | 0.59° | 80° | 18mm | 0.9mm |
松本式中軸架台の進化 (2020年8月2日)
写真:松本氏のsiteから引用
素晴らしい架台だが、実際に鏡筒を載せて観望すると、水平方向の初動の硬さが気になっていた。微妙に視野を移動して行く時、最初だけ、クッと力が必要であった。同型のハイランダーの軽量架台では、他のシリコン・グリースに換えて対応した。125SDの場合には、さらにテフロン・ワッシャーを製作して置換して対応した。今回、この架台には、水平回転軸にラジアル・ベアリングを入れてもらった。
結果、初動の硬さが無くなり、快適となった。ますます完成度が上がり、素晴らしい。質量は、2.4sから2.3sへダイエット。中を削った結果だ。
さらなる欲求としては、長焦点、重量級鏡筒で生じる“ぶれ”対応の架台だ。通常の鏡筒では問題ないのだけれど、長焦点、重量級鏡筒では、1点固定では限界があると思う。ここを長くして面固定か、間隔を開けた2点固定だと、“ぶれ”が減るのではないかと思っている。AYO Digi は6sあっても運用には困らないので、松本さんに6s以内で強大な架台をといったら、とんでもない架台ができるのではないかと、ちょっと(勝手に)ワクワクしている。
架台:iOptron HAZ46を導入(2023年12月6日)
到着した箱と本体。こんなに小さくて軽い!
Solar Star Partyで、ストレイン・ウエーヴ・ギア(ハーモニック・ドライヴ/波動ギア)の進歩と優位性を痛切に感じた。iOptron AZ mount pro は、電池内蔵で電源を入れればGPSで自動校正、と良くできた経緯台だけれど、搭載重量14.9sなのに、Lunt 15cmフル装備12.6sでも、天頂方向に向けようとすると空回りする。ギア調整で解消するかも、と聞いたがこれを処分して同社のHAZ46 を導入することにした。一つ下の31でも問題無く動作するのは確認できたけど、ここは本体重量が1.9s増えても、搭載重量20sの46を選択した。 それでも本体重量、わずか5.6sだ。これなら、ほとんどの鏡筒を運用できる。なお、搭載重量〇sといっても架台が重要で、15sの鏡筒を動かせば、その反作用が三脚に来る訳で、31の標準架台で本機 Lunt 15cmを動かすと、盛大に揺れて使い物にはならない。また、重量バランスが取れていないと転倒の恐れもあり、場合によっては、それなりの総重量となる。ストレイン・ウエーヴ・ギア架台の成功のキーは、それを支える架台にある。
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以前から時々使用していたVixen のHAL三脚は、微振動の収まりが優秀であったのを確認しているので、これを使うことにした。幸い延長筒もあるのでこれを接続し、さらにユニテックのVixen三脚アダプターでHAZ46を搭載した。HAL三脚は、足の形状(不整六角柱)と足の連結構造故か、本体重量5.5sなのに堅牢で、しかも現在流通価格約3万円という、驚異的なコスト・パフォーマンスを誇る。実際に本機を搭載して動作してみると、安定して保持して高倍率でも微振動が無く、そして楽々とスイスイ動くのが確認できた。しかしながら、このギラギラしたデザインは受け入れられない。Vixenはデザインで相当損をしている。高価格品と遜色ないものもあるのに、価格とデザインゆえ、安物のイメージが付きまとっているように感じる。そこで、塗装することにした。焼き付け塗装が良いのだろうけど、これを持って遠征に行くことはあまり無いと思うので、ミッチャクロンで前処理をして、とにかく剥がれないスプレー・艶消しブルーでやってみた。 するとブルーでは今一つで、同艶消しブラックを追加塗装して、まままあの仕上がりとなった。
もし、遠征の時は、右の写真のように頭巾を被せて、やはり一体型で運搬。いちいち組み立てるのは面倒くさい。出して、載せて、すぐ観望だ。ちなみにノブ。AZ Mount Proのように2点で幅広溝でしっかり固定ではなく、小さなノブで1点固定となった。これじゃダメでしょう、と交換した。指でクルクル回してしっかり固定。断然良くなった!
ちなみにバッテリーは、手持ちのSANWA 700BTL033BK。12VとUSBを同時出力できる17400mA/hのものだ。しかしオート・パワーoffがあって、勝手に電源が落ちてしまう。最近出た700-BTL049は、オートパワーoffが無いので、買うならこちらがおすすめ。
(動作)
バッテリーを含めた架台の総重量は13.6s。そのまま一体としてラクラク外に出せる。そして上から望遠鏡を載せられるので、安全でこれまた楽。スイッチを入れればGPSで校正し、昼なら自動で太陽を向いてくれるので、AZ
Mount Proと比べて大幅に手間が省ける。
さて、SkySafariと連動、とあったが、リストにHAZシリーズの表示が無い。CEM120/GM28を選択すれば良い、と聞いたのでやってみたら、ダメ。どうやら取説が間違っているようで、IPアドレス、ポートNoの最初の0を削除することで、ようやく繋がった。いずれupdateでちゃんと表示されて簡単に接続できるようになると思う 。
HAZ46の改良 (2024年6月19日)
バッテリーは、ベルクロで本体に直付けにした。スッキリ。そしてブラインドで操作するのにボタンにでっぱりが無く(何で付けないかなあ?世の中には詰めが甘い製品が多すぎる)操作が不便なので、立体シールを貼った。そのままではすぐに剥がれるので、セメダイン・スーパーXで補強。
続く.....!
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2019年8月 片倉ダムにて
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