被団協新聞

非核水夫の海上通信【2022年】

このコラムは、川崎哲氏(ピースボート地球大学)によるもので、
「被団協」新聞に2004年6月から掲載されています☆☆

2022年12月 被団協新聞12月号

米NPR 問われる日本の行動

 米バイデン政権による核態勢見直し(NPR)が公表された。争点だった核兵器の役割については「核兵器の根本的な役割は米国、同盟国、友好国への核攻撃の抑止」としている。先制不使用や、核の役割を核抑止に限定する「唯一目的」政策については「徹底した検討」の結果採用できないと結論づけた。先制不使用や唯一目的宣言をすると、競合国の核以外の軍事力による「受け入れがたいレベルのリスク」をもたらすからというのである。
 報告書は、こうした非核の脅威にさらされた同盟国があるとし、これらの国々に配慮した決定であることを示唆している。日本政府は一貫して先制不使用や唯一目的に反対してきた。NPRは先制不使用や唯一目的の目標を維持し、同盟国と協力していくと述べている。日本がこれに向けてどのような行動をとるかが問われている。

2022年11月 被団協新聞11月号

核不使用 約束は骨抜きに

 NPT再検討会議では核保有国も含め「核兵器は決して使われてはいけない」とくり返し確認された。だが実際の政策はどうか。
 NPT最終文書案では「先制不使用」や核の役割を抑止に限定する「唯一目的政策」が言及されていたが、後に削られた。核保有国の同盟国も核の役割を減らすべきとの文言があったが削られた。非核兵器国には核を使用しないという「消極的安全保証」については、最初は無条件でとなっていたが「核保有国の声明に従って」という言葉が挿入された。これは、非核国が核保有国と同盟している場合は保証の限りではないという意味だ。このように核不使用の約束はどんどん骨抜きになっていった。
 そして今年の国連総会での日本決議案は、核の先制不使用にも役割低減にも言及していない。これでどうやって「核兵器を使わせない」というのか。

2022年10月 被団協新聞10月号

核軍縮 核兵器国の足踏み

 NPT再検討会議で議論されたことの一つに、核兵器国による報告の問題がある。2010年の再検討会議での合意事項の一つで、核兵器国が核戦力や核物質の保有量やその削減状況を報告する。核軍縮を口約束に終わらせないための措置で、日本政府が重視する「透明性」にも資する。
 その後核兵器国は報告書を出すようになったが、書式や頻度は決められていない。各国が好き勝手にやっている。そこで標準書式を作ろうとなり、15年の再検討会議では具体的な提案が出た。だがそのときも今回も会議は決裂した。
 今年の最終文書案に残ったのは標準書式を作る作業を「さらに続ける」という言葉だった。結局、報告をすることが決まってから12年経って書式一つできていないのだ。核兵器国は核軍縮の入り口の、さらに入り口で足踏みしたままだ。

2022年9月 被団協新聞9月号

威嚇と抑止 核保有国の「責任」とは?

 NPT再検討会議では多くの国がロシアによるウクライナ侵攻と核の威嚇を非難した。これにロシアはこう反論した。侵攻について、ウクライナ政府による東部ロシア系住民迫害へのやむを得ない措置と主張。核の威嚇については、ウクライナに対し核の威嚇をしていないと主張。ロシアが核を使用するのは大量破壊兵器の攻撃あるいは通常兵器の攻撃で国家の存立が脅かされたときのみであり、ウクライナはこれに当てはまらないと明言。ロシアが核の警戒態勢を高めたのはNATOが軍事介入する可能性に備えたもので、威嚇ではなく抑止だというのである。
 一方米英仏は、ロシアは「無責任」で自分たちは「責任ある」核保有国だと主張する。
 だがそもそも威嚇と抑止を区別できるのか。無責任で「悪い抑止」と、責任ある「良い抑止」があるなどといえるのか。

2022年8月 被団協新聞8月号

核抑止論 誤りが明らかに

 6月のウィーンでの核兵器禁止条約締約国会議とその前の核の非人道性会議は、核抑止論を厳しく批判した。非人道性会議の議長総括は「ロシアによる核の威嚇は、核抑止論に基づく安全保障の脆弱性を示した。核兵器は戦争を防ぐどころか核武装国による戦争開始を後押ししている」と述べ「新しい技術の発展は、核抑止が核戦争を防ぐという理論に疑問を投げかけている」と続けた。締約国会議の政治宣言は「核抑止論の誤り」を強調し、核武装国に「いかなる状況下でも核兵器を使用また威嚇しないよう」求めた。このメッセージは核保有国はもちろんその「傘」に頼る日本のような国々にも向けられている。
 8月のNPT再検討会議は、核の非人道性と核抑止政策の危険性について真摯に議論すべきである。核兵器の存在そのものがリスクであることを直視しなければならない。

2022年7月 被団協新聞7月号

「橋渡し」 核兵器禁止条約とNPT

 核兵器禁止条約第1回締約国会議には、ノルウェー、ドイツに加えNATO加盟国であるオランダとベルギーそしてオーストラリアがオブザーバー参加した。この5カ国はいずれも米国の「核の傘」下にある国である。自分たちは核禁条約に加入する予定はないとかNATOの核抑止にコミットしている等と述べつつ、核禁条約の締約国との議論を深める姿勢を示した。核被害者支援などでの協力を示唆する発言もあった。とりわけ強調されたのは、NPTとの相互補完性である。核禁条約はNPTと同じ目標に向けて補完し合うことを、8月のNPT再検討会議を前に確認することが重要視されたのである。これこそ「橋渡し」である。それに比べて日本政府は「核兵器国が1カ国も参加していない」から日本も参加しないの一点張りだ。惨めな外交と言わざるをえない。

2022年6月 被団協新聞6月号

豪州の政権 交代で禁止条約参加を期待

 オーストラリアの総選挙でアルバニージー党首率いる労働党が勝利し政権交代を果たした。同氏は、労働党が2018年に「政権を取ったら核兵器禁止条約に署名・批准する」と決議した立役者だ。「これは容易ではないが正しいことだ」と党大会で彼は演説した。労働党はこの方針を昨年3月に再確認している。
 アルバニージー氏は、かつて仕えた同党の有力政治家ユーレン議員に影響を受けている。日本軍の捕虜として長崎の原爆を目撃したユーレン氏は原爆投下を「人道に対する罪」と呼び核廃絶に取り組んできた。15年に他界した氏の遺志を継ぎ、アルバニージー氏は核兵器禁止条約を一貫して支持してきた。
 「核の傘」を脱し核兵器禁止条約に加わる最初の国となりうる政府が誕生した。むろん紆余曲折はあろう。まずは締約国会議への出席に期待したい。

2022年5月 被団協新聞5月号

核兵器使用 いかなる場合でも禁止に

 3月、ロシアの報道官が「国家存亡への脅威があれば核兵器を使用する」と発言した。それがロシアの公式の核政策である。国際司法裁判所は96年の勧告的意見で核兵器の使用・威嚇は「一般的に国際法違反」だが「国家存亡に関わる極限状況では判断できない」とした。核兵器国は、だから国家存亡の危機では核使用は許されると解釈してきた。
 だが「国家存亡の危機」など、いかようにも解釈可能だ。たとえば経済制裁で国家存亡の危機とだって言える。
 一方米バイデン政権は核態勢見直しで、核の先制不使用の約束はせず、米国や同盟国の死活的利益を守る「極限状況」では核を使用するとしている。これまた何をもって極限状況というかは不明だ。
 結局、条件付きで認めてはダメなのだ。核兵器禁止条約のように、いかなる場合でも使用禁止にしないと、本当の安全はない。

2022年4月 被団協新聞4月号

核武装論 核兵器がないと不安?

 ロシアによる侵攻が続くなか「ウクライナは核兵器を持っていれば攻められなかった」という声がある。91年に独立したウクライナは旧ソ連の核兵器をロシアに返還して非核国となった。このことと今日ロシアがウクライナに侵攻したことの間に因果関係はない。歴史的経緯からみても無理筋な話が流行るのは、そう信じたがる人が少なくないからだろう。日々戦争の報道が続くなか、人々の気持ちが戦争モードになり「核でも持たなければ不安だ」という感じる人が出てきているのだ。
 一部の政治家が「核共有論」を語り始めたのも、その不安につけ込んでである。いま改めて被爆者や戦争体験者の言葉が求められている。戦争は勝ち負けでは語れないこと、核を戦争の道具としてもてあそぶことは自滅への道であることを、しっかりと伝えていかなければならない。

2022年3月 被団協新聞3月号

ウクライナ 核戦争をさせるな

 ロシアがウクライナに軍事侵攻した。外交努力を放棄しての暴挙だ。最悪の場合は核戦争に発展する可能性がある。冷戦終結後30年以上が経つが東西の核対立は続いており、ロシアとNATO(北大西洋条約機構)の対決の構図になっている。
 ロシアとNATOの間の戦争のシミュレーションを2019年にプリンストン大学のチームが発表している。一発の核の警告発射が引き金で核戦争となり、わずか数時間で9千万人以上の死傷者が出るという予測だ。
 米ロを含む5核兵器国は「核戦争に勝者はいない」として、核保有国間の戦争を防ぐのだとする共同声明を1月に発していた。そのわずか1カ月後の危機である。核保有国は、核保有国と戦争になる可能性があってもときに無謀な行動に出る。戦争をさせてはいけないし、核兵器をなくさなければならない。

2022年2月 被団協新聞2月号

投資禁止 核兵器禁止条約の効果

 世界で101の金融機関が核兵器の製造や開発に関わる企業に投資しないという方針をもっていると、オランダのNGO「PAX」が1月に報告書で発表した。2016年の54機関、19年の77機関にから着実に増えている。
 このうち59機関はいかなる形でも核兵器製造企業と金融上の取引を行なわないという包括的な方針をもっている。最近加わったところとしてアイルランド、オーストラリア、スイス、フィンランド、米国などの金融機関が並ぶ。残りの42機関の方針は包括的禁止と呼ぶには不十分とされる。日本の銀行名はあがっていない。方針を発表していても、その信頼性を確認する情報が不足しているからだと考えられる。
 このような方針の根拠として、多くの金融機関が核兵器禁止条約をあげている。発効後1年、条約は確実に効果を上げている。

2022年1月 被団協新聞1月号

締約国会議 日本も出席せよ

 核兵器禁止条約締約国会議に日本はオブザーバー参加すべきである。被爆国として核の非人道性を訴える好機である。条約に署名・批准することと会議に参加することは次元が異なる。米国の核抑止力に依存する日本は、その政策を変えない限り条約には入れない。だが首相がこの条約が核廃絶の「出口」として重要と言うのだから、出口への道筋を探るためにも参加は必須だ。
 米国との信頼関係づくりが先だと首相はいう。だが日本は毎年の核廃絶国連決議で米国の賛成をえて、信頼を得ているではないか。核保有国を巻き込む措置が必要なのは確かだが、だから非核国の会議には出られないということにはならない。
 目をそらすな。条約はもう存在する。参加して関与せよ。岸田首相は首脳会談でバイデン大統領にその意思を伝えた上で、会議参加を発表すべきである。