被団協新聞

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「被団協」新聞2004年 12月号

2004年12月号 主な内容
1面熊本市の「肝だめし」問題について
2面集団訴訟のうごき
3面九州ブロック講習会400人参加 被爆者-青年往復トーク
4面「相談のまど」

熊本市の「肝だめし」問題

教科書から消える原爆、進む退廃

 熊本でのできごとは、一人の被爆者として容易に信じることができず、深い悲しみと怒りでいっぱいです。
  今日、教科書から原爆・核兵器の問題、平和の問題についての記述が極端に少なくなってきています。一番多く使用されている教科書で比べると、1954年発行の『小学社会』6年生・N社の記述量は約630字。同じ教科書の記述が97年T社では約370字となっています。56年の『中学社会』3年生・S社では約1590字で、97年のT社は4分の1の約420字。現在使用されている教科書では、ますます少なくなり、ほんのわずかな記述しかなくなっています。
  先日「変わる学校」(いきいきする子どもたち)という先進的な学校を取り上げたテレビ番組が放映されました。その番組に登場した若い女の先生は、家に帰るのが早いときで9時、それ以外はもっと遅くなるといっていました。それでもこの教師は問題意識をもっている人であり、そうでない人は毎日「午前様」、そのうえ朝7時には学校にいなければならない勤務状況です。
  こうなると教師は、子どもと話し合う時間もないほど、多忙の中で追いまくられていることになります。そして一方、日の丸に正対し君が代を歌うことを強制されています。こうして教師は本を読まなくなり、自分でモノを考えることをしなくなっていきます。いわば教師は、知的なものに対する関心を失っているのです。これは、文化に対する退廃をあらわしているともいえます。
  あるとき、福岡に出張で行った東京の教師は、総合の時間をつかって神社で「教育勅語」を奉唱する小学生の姿をみて唖然としたといいます。福岡市の小学校では、愛国心が評価項目にある通知表をだす学校が2分の1にもおよび、他の県(鳥取、広島、埼玉など)にも広がっています。事態はここまで進行してきているのです。
  このようにみてみると、熊本のできごとは特別なものではなく、ただ単に一人の教師を処分すれば済むことではありません。今日の教育と教師の指導のありように深くかかわる問題としてとらえ、追及していかなければならない問題です。犯した過ちのつぐないは、指導の内容として長い時間をかけてどう埋めていくかということをおいてはないのですから。 横川嘉範(被爆者・元教師)

 「平和教育の強化こそ」

 熊本市で市立小学校の教諭が「肝試し」と称して被爆者の写真などを児童に見せていた問題で、日本被団協は熊本県と市の教育委員会に申し入れ書を送り、11月11日文部科学省を訪ねて申し入れをおこないました。
  報道によると、問題の理科教諭(男性、59歳)は10月18日、月と星の観察会に参加した児童に天体のビデオを見せたあと、「肝試しをしよう」といって個人で所有していた長崎の原爆犠牲者の写真12枚を見せました。写真にはケロイドの背中や黒こげの遺体などが写っており、泣き出す児童もいたといいます。
  問題が25日報道されると、市や県へ翌日までに50件をこす抗議が殺到。同県被団協(谷口清美会長)も、集団訴訟原告団・弁護団とともに県・市長・教育長などに申し入れをしました。市教委は市立小中学校・幼稚園で人権教育の研修会(教職員約3400人が参加)を開き、県教委は11月10日、同教諭を停職6ヶ月の懲戒処分、校長を減給10分の1(2ヶ月)としました。
  被爆者への差別と偏見を助長し子どもの人権を侵害した教諭の責任は自明です。しかし、個人を処罰し人権教育一般を強調する一連の「対処」には首をかしげざるをえません。問題は、教科書から年々原爆被害の記述が影を薄め、「原爆を知らない教師が原爆を語らない教科書で子どもを教えている」現実にあります。
  日本被団協の申し入れは、学校現場で「原爆の風化」を促進している文部科学行政に真の責任があると指摘。被爆国日本にふさわしく、「二度と被爆者をつくらない」原点に返り、教科書改善をふくめ平和教育を充実発展するよう求めています。

集団訴訟のうごき 東京で本人尋問始まる

【東京】11月24日に行われた第8回口頭弁論では、加藤力男さんと平井園子さんのふたりの原告に対する証人尋問が行われました。
  原告弁護団は、ふたりに被爆時の状況、脱毛や倦怠感など後障害、戦後の病歴などをていねいに尋ねました。平井さんは1時間半にわたり、言葉をつまらせたり、涙を浮かべたりしながら、思い出したくない過去の経験をしっかりと語り、聞く人の心を打ちました。
  一方、国側弁護団は、ふたりとも爆心地から二km付近での被爆であることから、放射線の影響を疑問視するような意図的な尋問をして、被爆の実相を受け止めようとしない国の姿勢を示し、被爆者の怒りを買いました。
【北海道】11月1日、北海道集団訴訟および加藤政子訴訟の第8回口頭弁論が開かれました。
  被爆の実相を総合的に理解してほしいとの弁護側の要請を受け、冒頭、NHKスペシャル「原爆投下・10秒の衝撃」が上映されました。
  今回は柳谷貞一氏の陳述書が提出され、証人として肥田舜太郎氏、澤田昭二氏、福地保馬氏の申請がありました。
  国側は、「DS02」がまだ発表段階でないとしましたが、原告側はDS02はDS86の手直しにすぎず、国側の主張によって炸裂地点の修正をはかったのではないかと追及しました。
【大阪】11月17日の大阪地裁では、9月3日に追加提訴した京都、大阪、兵庫の計4人についての初弁論が行われ、原告のうち中ノ瀬茂さんと寺山忠好さんが意見陳述しました。
  寺山さんは10年前自身の被爆体験を描いた約39枚の絵を、法廷内に大型スクリーンを据え付け、コンピューター映像を使って映写。
  「原爆投下から59年。苦しみながら生き、仕事もなにもできなかったこの人生を、国にきちんと認めてもらいたい。いままたイラクでたくさんの家族が殺されている。それはまさに59年前の長崎を思い出させる。あんなむごか戦争をしたのはだれか。いまも核兵器を持つアメリカについていく小泉首相は許せない」というナレーションを加えました。裁判官、原告、原告・被告弁護団、傍聴者のすべての目が、スクリーンに釘付けでした。
  近畿では、「支援ネット・兵庫」の結成1周年総会が11月6日、神戸市立婦人会館で開かれ、県下各地から32人の支援者、被爆者らが参加。裁判の勝利に向けて決意を語り合っっています。
  また、裁判所に公正な判断を求める署名は3府県で計2003筆分が11月15日に提出され、署名総数は22091筆に達しました。(近畿支援連絡会)
【千葉】11月19日、第7回弁論がありました。
  弁論では、裁判所から「原告側から各原告の被曝線量を主張しないのか」との求意見が出されました。原告側はそれに対し、「主張しない」と答えました。すると、裁判所は「医学的に何かいえないのか」と問い、原告側は医師団の意見書とそれに基づく主張をするといいました。裁判所からは、肝機能障害についての主張も求められました。
  これらは、年内をめどに出すことにしました。 裁判の進行はたいへん遅いのですが、ようやくどこに問題意識をもったらいいのかが、絞られてきたようです。(弁護士・秋元理匡)