星に祈りを〜Belly Dance Show
 
星に祈りを
〜 Belly Dance Show
 

   アリさんの提案で、夕食後にベリーダンスを見に行くことになった。当初の計画ではイスタンブールで探す予定だったが、ここで案内してもらえるのならそれに越したことはない。
 ホテルから車を走らせること10数分、灯りひとつない平原の真ん中で降ろされる。頭上には何ひとつ遮るもののない夜空。星が綺麗だ。よほど空気が澄んでいるのだろう、天の川まではっきりと見える。しかし、建物がありそうな気配はどこにもない。
「こちらです。足元が暗いので、気をつけてください」
 声の先に下り階段があった。さては地下か。洞窟を利用したホテルがあるとは聞いていたが、きっと地下都市を模したナイトクラブなのだ。
 地中に降り、折れ曲がった通路を進むとドーム状の広い空間が現れた。中央のステージを取り囲むように、壁際にテーブルや椅子が並べられている。客の入りは八分程度。欧米系と中南米系が半々といったところだ。
 僕たちが席に着くと、ほどなくしてショーが始まった。まずは若い男女のグループによるフォークロア風のダンス。あまり上手とは言えないが、それが逆に青春の甘酸っぱさを感じさせて良い。中学校の文化祭の後に踊ったキャンプファイヤーを思い出す。
 続いては、情熱的なBGMとともに肌も露な女性がステップを踏みながら現れた。早くも真打ちの登場だ。
「いくら政教分離だとはいえ、この衣装は反則でしょ」
 何しろ彼女はほとんどビキニ姿。スカート代わりにシースルーの布を腰に巻いているとはいえ、横からは太腿が丸見えなのだから申し訳程度にもならない。日本人ですら目のやり場に困るくらいだ。客席から歓声が湧き起こる。
「でも、スタイルいいわよね。若くて美人だし」
 エジプトで見たベリーダンサーは太ったおばさんで、お腹の肉をブルブル震わせるのが芸だった。その記憶があるだけに、これほどセクシーさが強調されているのは意外だ。一口にベリーダンスと言っても、地域によって流派に違いがあるのかもしれない。
 しかし、純粋に「踊り」という点では次に出てきたダンサーが出色だった。
「あの人、男でしょ。ベリーダンサーって女だけかと思ってたけど、男もいるんだ」
 きらびやかな青いサテンの上下に身を包んだ長身痩躯のその兄ちゃんは、とにかく動きが凄かった。間接のキメ、腕の回転、腰のうねり、どれもダイナミックでキレがある。これはもう完全に別物と言ってよい。他の出演者とは圧倒的にレベルが違う。ブレイクダンスでもやらせたら、ビルボードのチャートNo.1は堅いのではないか。このままニューヨークに連れて行っても新ジャンルとして通用しそうだ。
 最後は再び民族舞踊で締め、ショーのプログラムは終了した。満足して帰途につく。地上に出ると凛とした空気が頬を撫でた。空はますます高く、星が一段と輝きを増している。
「あれ、ヘール・ボップ彗星だよね」
 妻が指差した先には、このところテレビや新聞で盛んに報じられている天体が地平線すれすれに横たわっていた。肉眼で見るのは初めてだ。多少ぼんやりとしているものの、棚引く尾の形はよくわかる。報道から抱いていたイメージよりも大きく、そして明るい。
 自分もこの壮大な宇宙の一員なのだ。そう思うだけで心がどんどん透き通っていく。明日も今日と同じく良い一日でありますように。声に出さずに呟いて、そっと目を閉じた。
 

   
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